インドの格闘技の息遣いが聞こえる ナショジオ写真賞
第8回 日経ナショナル ジオグラフィック写真賞
「世界への発信を目指す写真家」の発掘を目的に創設された「日経ナショナル ジオグラフィック写真賞」。第8回の受賞作が発表された。
今回から、組写真のみの審査となり、ネイチャーとピープルの両部門で合わせて121人、合計146作品の応募があった。
グランプリに輝いたのは、相撲に似たインドの伝統的な格闘技「クシュティ」の稽古場を記録した龍神孝介さんの作品だ。フォトジャーナリストとして活動する龍神さんは、第6回(2018年)にピープル部門の優秀賞を受賞している。今回、待望のグランプリを獲得した。
難民など虐げられた人々を撮ることが多い龍神さんが、今回クシュティをテーマに選んだのは、10年ほど前にたまたま見た映像がきっかけで、選手たちのかっこよさに「ほれぼれしてしまった」(龍神さん)から。
審査員長を務めた写真家の野町和嘉氏は、龍神さんの作品を「土にまみれて戦うレスラーたちに肉薄し、その息遣いまで写し込んでいる。宗教的な側面を含めさらに踏み込んだ取材を期待したい」と評した。同じく審査員を務めた写真家の中村征夫氏も、「肉体がぶつかり合う音、泥まみれの体の美しさ、子どもたちに受け継がれていく規律。インドの格闘技、クシュティがもつ多様な要素をよくとらえている。静かながら、迫力のある作品だ」と評価した。
龍神さんは現在39歳。米国の大学でフォトジャーナリズムを専攻したあと、日本の写真スタジオ勤務を経て独立した。今回の受賞をモチベーションに「僕自身が見たいもの、伝えたいものを撮っていきたい」と、目標を語ってくれた。
龍神さんには、賞金100万円が贈られるとともに、米ナショナル ジオグラフィック誌のフォトレビューと、日本での個展を開催する機会が与えられる。
このほかネイチャー部門の最優秀賞には、絶滅に瀕するインドのトラをとらえた山田耕熙さんの「野生の虎 ―際に立たされた存在―」が、ピープル部門の最優秀賞には、西欧社会と長く断絶したイランの山岳地帯の遊牧民の日常を撮った高橋朝彦さんの「ザクロス山脈に生きる」が選ばれた。また今回、審査員特別賞として山下峰冬さんの「夜の海」も選ばれた。
次ページでは、龍神さんの写真とともに、これら3氏受賞作品の一部を紹介する。
龍神孝介さん「クシュティ」より
山田耕熙さん「野生の虎 ―際に立たされた存在―」より
高橋朝彦さん「ザクロス山脈に生きる」より
山下峰冬さん「夜の海」より
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
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