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三つ星シェフを魅了 アニャナ塩はバスクの味わい

魅惑のソルトワールド(39)

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NIKKEI STYLE

今年に入ってスペイン・バスク地方を訪れた。同地方が美食の地であること、そして約7000年前から塩作りされていたといわれる「アニャナ塩田(Salinas de Anana)」があることは知っていた。三つ星レストランのシェフにも使われる有名な塩だ。今回、旅の行程に「アニャナ塩田訪問」とあるのを知り、期待に胸を高鳴らせながら参加した。

アニャナ塩田があるエリアは「塩の谷」とも呼ばれ、2億年前は海だった場所だ。地殻変動によって地中に海水が閉じ込められ、長い年月を経て土壌の中で結晶化した。そして周辺の山から流れる地下水で地中の塩が溶かされ、地上にも湧出している。

古くは新石器時代からこの地で製塩が行われていたことが研究で確認されているという。当時は地下水を土器に入れて火で煮詰めていたようだ。12世紀頃になると、山麓を120ヘクタール開拓して塩田を作り、地下水を引き入れて濃縮・結晶させるという現在の製法が確立された。

原料となる塩水を実際にペロリとなめてみた。塩分濃度は1.5~2%程度と海水に比べると薄く、製塩の効率は決してよいとは言えない。しかし、内陸部で塩が生産できることが、かつてこの地に経済的発展をもたらしたのだ。アニャナでは1126年、当時の王によって町が築き上げられ、塩の生産・販売に関して特権を制定していたという。

だが近代になると、工業的な大規模製塩技術が開発され、物流網も発展したことにより、安価に他国の塩が流入してくるようになった。手間暇がかかり価格も高いアニャナ塩田の塩の需要は減少していった。町の人口も減少し、20世紀半ばには塩田事業に従事する人がほとんどいなくなって放棄塩田と化してしまったという。

その後、有志による運動が起こり、1984年には国の重要文化財に指定された。以降、国からの助成の下、塩田が整備されて年間100トンほどの塩が生産されるようになり、観光地としてガイドツアーが開催されるようになった。スペインの塩の名産地の復活、である。

塩田は5メートル四方くらいの大きさに区画されており、いくつかの塩田のど真ん中に黒い看板が立っていた。聞くと「塩を使ってくれている地元のレストランの看板をたてている」とのこと。看板をじっくり見てみると、ミシュランガイドで星を獲得しているそうそうたる顔ぶれである。今回、幸運なことにアニャナ塩田の塩を愛用している、ミシュランガイドで三つ星を獲得したレストランを訪れることができた。

1店がサンセバスチャンにある「アルサック(Arzak)」だ。89年から三つ星を維持しているという。創業家の家族と勤続数十年というスタッフたちで構成される家族経営のこのレストランでは、「リラックスして好きに料理を楽しんでほしい」ということで、テーブルソルトとしてアニャナ塩田の塩がセッティングされていた。

なぜアニャナ塩田の塩を料理に使っているのかを創業者の娘、エレナ・アルサックさんに尋ねると、「アニャナ塩田の塩はとても素晴らしくて、料理の味を引き立ててくれる。うちでは塩の花に海藻をブレンドしたものと、ノーマルタイプの塩を用意しているわ」とのこと。料理はどれも完璧な味わいで、特に塩を足すことはなかったのだが、それでもテーブルの上に最初から最後までセッティングされ、スタッフによって説明をしてもらえることで、アニャナ塩田の塩がいかに大切に扱われているのが伝わってきた。

もう1店、ビルバオ郊外に位置する「アスルメンディ(Azurmendi)」を訪ねた。オーナーシェフのエネコ・アチャ・アスルメンディ氏はスペイン最年少でミシュラン三つ星を獲得したほか、数々の世界的な賞を受賞している。

テーブルに塩がセッティングされることはなかったが、すべての料理に使っているのはアニャナ塩田の塩だという。シェフに理由を尋ねることができなかったのでサービススタッフに尋ねたところ、こう返ってきた。「私たちは食材を環境の通訳者として考えているので、サステナブルで環境に配慮した食品をできるだけ近隣の産地から仕入れている。長い歴史を持ち、人工的なエネルギーを使わないで生産されるアニャナ塩田の塩を使うのは当たり前のこと」

このほか、町のバルや他のレストランでも、使っている塩について尋ねると「そう、アニャナの塩です」と答えが返ってくることが多かった。このエリアでこの塩がどれほど愛されているのかを感じることができた。

アニャナ塩田では収穫の時期や順番などによって、塩に含まれるミネラルのバランスや結晶の形が異なる。この塩田で生産されている3種類の塩をご紹介しよう。

1つは、「塩の花(Flor de sal)」と呼ばれる、塩田の塩水の表面に最初に現れるフレーク状の結晶だ。塩水の濃度が高まってくると表面に小さな塩の結晶が浮かんでくる。その後、表面張力で塩水の表面で横に向かって成長していくため、フレーク状になる。まるで花が開花するように美しいということで、「塩の花」と呼ばれている。最大の特徴はシャクシャクとした食感で、口の中でかむほどに味が広がり、料理のテクスチャー(食感)に小気味好いアクセントを与えてくれる。厚く切った牛肉のグリルにぱらりとかけて、その食感を楽しみながらいただきたい。なお、ある程度結晶が大きくなってくると塩田の底に沈んだり割れたりしてしまうため、収穫量が少なく希少価値が高い。

2つめは「二番塩(Sal mineral)」だ。塩田の中層~底の部分、つまり「塩の花」の下側で育った結晶で、少し粗めの立方体をしている。底のほうで結晶した塩なので、塩田の質の影響を受けやすいことが最大の特徴だ。塩田で生産された二番塩はほんのり薄く灰色に色づくことが多い。アニャナ塩田の塩も、近年整備された塩田はコンクリート製だが、昔からの塩田は土製。それらがブレンドされて出荷されるので、若干だが土の影響を受けている。またそのほかに、「塩の花」に比べてマグネシウムやカリウムなどのミネラルを多く含むため、しょっぱさがまろやかで、うまみや甘味、若干の苦味などの複雑な味わいがある。味の余韻も長く、素材の味を最後まで下支えしてくれる。甘味が強いので、半生に火を通したホタテや白身魚におすすめだ。

3つめは「Chuzo de sal」。一見塩には見えないのだが、下ろし金などで削って使用するタイプの塩である。塩田に塩水を運ぶための水路は木製で、塩水が浸透して乾燥し、結晶化することを繰り返すことで、水路の外側に塩のつららができあがる。そのつららがこの塩だ。ナトリウムとカルシウムが主体で、ちょっとざらっとする食感とまろやかなしょっぱさがあり、後味はシンプルでクリア。1センチ育つのに数カ月かかるため、希少価値が最も高く、高値で取引されている。

残念なことに、アニャナ塩田の塩はまだ日本には正式には輸入されていない。近い将来、三つ星レストランシェフたちを魅了する素晴らしい塩が日本でも入手できることを願ってやまない。現地に旅行に行くという人が身近にいたら、ぜひお土産として購入を依頼してみてほしい。この塩には、日本から遠い彼の地から、重い思いをしてでも持ち帰ってくるだけの価値がある。

(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)

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