2020/3/12

ある時、新喜皮革の革素材の美しさに感銘を受けた米田さんは、自分のブランドの革小物を製造するため同社から皮革を調達するようになった。やがて米田さんの事業が行き詰まり、新喜皮革専務で現コードバン社長の新田芳希さんのもとに相談に行ったところ、センスはいいのだから製品作りは続けたほうがいい、と助言された。そこで米田さんは新喜皮革に入社し、その後分社化されたコードバンで小物製造のディレクションをすることになった。

コードバンの新田芳希社長(右)とデザイナーの米田浩常務。手にしているのはブラックバスのシリーズだ

皮革は姫路の伝統的な地場産業で、今でも大小の業者が80社ほどある。新喜皮革はその中でも大規模なタンナーだ。手掛ける馬革は海外ブランドからの引き合いが多く、世界の皮革見本市でも一目置かれる存在。国内のコードバンではもちろんトップシェアだ。だが、新田さんも米田さんも、BtoBの1次産業で終わらせるつもりはなかった。「社長からは、フラットな平面になった革にもう一度命をふき込んで立体化してほしいと頼まれた。最終製品づくりまで手掛けてBtoCのビジネスモデルを確立できたら、お客さんは世界中に広がるはずだと確信した」。米田さんにはバッグや財布を通じて姫路のすぐれた皮革文化を広く伝えたいとの思いがある。

「革は肉を食べた後の副産物。その本質を伝えていきたい」

馬革は大きく分けて2種類ある。胴体部分の革であるホースハイド。そして馬の尻の一部に存在する、密集した繊維層の部分から作るコードバンだ。コードバンはほかの革に比べて、仕上げまでに長い時間がかかる。

小ぶりのブリーフケース(税別19万8000円)。売り場は全国11店。4月1~7日まで阪急メンズ東京でポップアップを開催する

新喜皮革のコードバンの生産量は月産2500頭分だ。原皮はすべて欧州産の馬で、それも頭の先から尻までが2.3メートル以上ある、馬体が大きい最高グレードしか購入しない。1カ月かかって到着した原皮をまずは3カ月塩蔵し、その後なめしに1カ月。そして乾燥工程を経た後に、表革と裏革の間に隠れている、繊維が緻密なコードバン層を削り出す。さらに染色し、グレージングという純度の高いガラスで表面を平滑にこすっていくと、繊維が寝かされ、ツヤが浮き出てくる。その表面に幾重にも塗膜を重ねて色をつけていく。かれこれコードバンが1枚できあがるまでに、およそ10カ月がかかるというわけだ。

時間をかけて仕上がった高級素材は、ひと味違うモノを求める消費者の心をとらえる。財布などの小物とともに人気を集めているのがビジネスバッグだ。中心顧客は30代~50代のビジネスパーソンで、学者や弁護士の顧客も多い。ホースハイドを使った人気のトートバッグ「Circe」は東京の店舗で年200個売れるヒット商品となった。コードバンにほれこみ、一度に400万円購入した学者もいるほど。すでに持っている有名海外ブランドの「次の商品」を求めるニーズをとらえ、女性客も3割を超えるまでに増えてきた。「たとえばコードバンは使っていてどんどん表情が変わり、『その人の革』になっていくところが魅力。育てていける革、というところでしょうか」と新田さんは話す。

世界的な動物愛護運動のうねりや家畜の二酸化炭素(CO2)排出に対する懸念の高まりなど、家畜の皮革の調達には逆風も吹いている。もっとも「革は人間が肉を食べた後の副産物。その本質もしっかり伝えていかなければいけないと思う」と新田さん。売り上げはこの10年、緩やかな右肩上がりが続いているが、事業を大きく広げるつもりはない。米田さんは「一生使うつもりで購入してくれたお客さんがいつでもバッグを修理できるようにしていたい。お客さんだけでなく、協力工場や職人、関わるすべての人を大事にしたい。だから、長くこの会社を続けていかないと」。

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近大マグロや琵琶湖のブラックバス使い新たな革づくり
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