新社会人のみなさんへ 違うと思ったことは声に出そう
ダイバーシティ進化論(出口治明)
3月は学生が卒業して社会に出る巣立ちの季節。今年は新型コロナウイルスで大変ですが、希望に胸を膨らませ、職場に向かう皆さんは、学校で学んだことや自分のやりたいことが実社会で実現できると期待していると思います。でも世の中はそんなに甘いものではありません。
僕が新卒で企業に入ったとき、最初に与えられた仕事は一日中、封筒の宛名書きでした。もちろん戸惑いました。でも考えてみたら当時は誰かが宛名を書かなければならない。それが新人に回ってくるのは不思議でも何でもないのです。
ブラック企業でない限りは石の上にも三年。とりあえず与えられた仕事に一生懸命チャレンジしてみましょう。やってみたら面白さがわかってくるかもしれません。それに「やりたい仕事をする」なんて雇用契約には書いてないはずです。
2~3年やっても合わなければ、チェンジすればいいのです。ある調査によれば、新入社員の4割近くが5年以内で仕事を変えたいと考えています。海外では2~3年で仕事を変える人が大半です。期待を持ちすぎず、社会を理想化せず、肩の力を抜いて自然体で仕事に入るのがいいでしょう。
自分のやりたいことが分からない、という学生がいます。でも僕も72歳になった今も何がやりたいのか、何に向いているのかよく分かりません。だからこそ今の職場と出合った縁を大切にしてほしいと思います。
社会に出るにあたって伝えたいことが3つあります。まず職場の中でおかしいと思うこと、自分の常識や価値観に照らして違うと思ったことは声に出しましょう。仕事を頑張るというのは上司の言うことを何でも黙って聞くことではありません。むしろおかしいことをおかしいと言うことがいい職場を作るのです。
2つ目、仲間を作りましょう。縁があって入った職場が自分の理想通りであれば幸せですね。でも理想を実現するためには、自分が職場を改革しなければいけません。そのときには志を同じくする仲間が一番の力になります。仕事はひとりでは出来ません。仲間ほど大切なものはないのです。
最後に学びの大切さです。学校で勉強したことで世の中の全てが分かるわけではありません。世の中は日々進化しています。だから人に会い、本を読み、面白そうな場所に行くなどして学び続けてください。
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2020年3月9日付]
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