新型コロナ、揺らぐ強権中国の持続性(武者陵司)武者リサーチ代表

しかし長期的な視点で考えると、今回の新型ウイルス感染拡大をきっかけに経済不況→金融危機→社会不安→レジームチェンジという強権体制の長い落日と再生への行程が始まったといえるかもしれない。

強権体制の長い落日の始まりか

まず想定されるのが各国企業によるサプライチェーンの見直しである。中国は世界シェアでセメント6割、鉄鋼5割に始まり家電、スマートフォンなど多くの分野で高いシェアを持つ世界の工場になっている。

しかし今回の感染拡大では過度の中国依存はリスクが大きいことが鮮明になった。まして米国が中国依存の引き下げに躍起になっている米中貿易戦争のさなかである。各国企業はひとまず中国をハブとしたサプライチェーンの再構築に動くものの、長期的には抜本的な見直しを余儀なくされるだろう。すでにアジア新興国の中で中国の人件費は最も高く、労働集約産業は中国から脱出しつつあった。中国の競争相手として台湾、東南アジア諸国連合(ASEAN)などの存在感が高まりそうだ。

グローバルサプライチェーンにおける地位低下が止まらなければ中国の貿易・経常収支の悪化、外貨市場でのドル調達難の進行を招き、国内の金融緊張を高めかねない。度重なる財政出動と公的部門による民間投融資が今後も続くようだと、財政バランスは急速に悪化する可能性がある。

さらに新型コロナウイルスの感染初期に情報統制を敷き、それが感染拡大につながったという指摘が聞かれるなど強権的な統治体制に対する疑義が出ていることも見逃せない。旧ソ連時代の1986年に発生したチェルノブイリ原発事故は(1)情報隠蔽による人命の喪失(2)技術・生産体制・ライフラインシステムの欠陥露呈(3)混乱収束の過程での膨大なコスト発生――などを引き起こし、5年後の体制崩壊につながる導火線となった。

もちろん今回の感染拡大が中国の強権体制にとってチェルノブイリ原発事故と同じような役割を果たすとは限らないが、長期的にはこうしたシナリオを頭に入れておいてもいいかもしれない。

武者陵司
武者リサーチ代表。1949年長野県生まれ。73年横浜国立大学経済学部卒業。大和証券入社。企業調査アナリストを担当。大和総研アメリカでチーフアナリスト。97年ドイツ証券入社、調査部長兼チーフストラテジスト、2005年副会長。09年武者リサーチ設立。著書に「超金融緩和の時代」(日本実業出版社)など。
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