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福島復興へ奮闘 「日本酒の神」と女性杜氏が二人三脚

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NIKKEI STYLE

2011年3月11日に起こった東日本大震災から9年が経った。東京電力の福島第1原発事故の影響で、福島県産品を避ける動きが全国に広がった。しかし、翌12年から日本酒の出来栄えを競う全国新酒鑑評会で、福島県は7年連続で金賞受賞酒の数が日本一を記録した。日本酒は地元の水とコメの結晶、フクシマブランドの安全性、品質の高さを訴える足がかりになった。8年連続金賞日本一へ、孤軍奮闘する地元の酒造関係者を訪ねた。

「あの震災がもう少し前に起こっていたら、私は地元に戻って家業を継いでいなかったかもしれない」。福島県喜多方市で日本酒の造り酒屋「喜多の華酒造場」を営む蔵元の星里英さんはこう話す。1919年に創業した老舗蔵元の4代目、父親のあとを継いで、酒造りの責任を担う杜氏(とうじ)になったが、女性杜氏は県内にも片手で数えるほどしかない。

喜多方はJR東京駅から東北新幹線などを乗り継いで3時間半ほどかかる福島県西北部にある。磐梯山を望むラーメンの街として知られるが、実は酒蔵が11カ所もあり、全国有数の蔵の街でもある。

喜多の華酒造場はJR喜多方駅から徒歩10分ほどの街中にあった。酒蔵は70年ほど前の古い建屋だが、天井が高く、大型タンクや機械が所狭しと並んでいる。室内に入ると、新酒の芳醇(ほうじゅん)な香りが漂う。酒の出来は水や気温などわずかな環境の違いで大きく変わる。星さんは調整する数値をスタッフに細かく指示しながら、酒蔵と店舗を往復していた。

杜氏になる気も酒の知識もなかった

3人姉妹の長女として育ったが、杜氏になる気などなかった。「友人たちが東京の大学に行くので」と地元を離れ、私立大学の文学部へ。教員免許は取ったが、東京の印刷会社に入社した。ただ、地元で日本酒のイベントなどがあると、「手伝え」と言われて度々戻った。

「顧客に問われても、何の日本酒の知識もなかった」。それで26歳のとき、2010年に東京農業大学の短大に社会人入学した。そこで18歳の同級生に感化された。「実家が酒蔵という子もたくさんいて、女の子でも杜氏なりたいという熱意がすごかった」。蔵元を継ぐことを決意し、醸造の勉強に取り組み始めた。その矢先に地元を震災が襲った。

情報と物流が完全に遮断された。実家の酒蔵は壁にひびがはいり、瓦が落ちた程度だったが、その後の風評被害に悩まされ、100年近く続いた造り酒屋は深刻な事態に陥った。短大の2年を終えたが、父親は「まだ帰って来なくていい」という。それでも酒類総合研究所などで勉強を続け、13年11月に実家に戻り、酒造りに挑んだ。

だが、醸造の理論を学んだからとたやすく実践できるものではない。基本的な知識は父親が教えてはくれるが、先端の技や情報を持っているわけではない。星さんには「日本酒の神」と呼ばれる恩師がいる。

喜多方の南隣、JR会津若松駅から車で10分程度のところにある福島県ハイテクプラザ会津若松技術支援センター。副所長兼醸造・食品科科長の鈴木賢二さんは日本酒の技術指導者として全国でその名が知られている。県内に60余りある蔵元を回り、先端技術を伝授し、多くの杜氏を育成。全国新酒鑑評会で史上初の金賞受賞数7年連続日本一に導いた立役者だ。19年は22の蔵元が金賞を受賞、地元紙が号外を出して祝った。

老舗も「マニュアル」受け入れ金賞へ

「女性の杜氏も増えてきている。星さんは明るくて熱心。まだ若いけど、楽しみな後継者だ」と鈴木さんは目を細める。講師を務める県清酒アカデミーは3年制で計280人が卒業し、若手の杜氏を次々輩出したが、技術指導を始めた当初は試行錯誤の連続だった。

鈴木さんは1985年に岩手大学農学部を卒業して県庁に入り、現在の技術支援センターの前身の部署に配属された。大学の寮生の頃、日本酒の味を覚えたが、酒造りは素人同然。入庁後は食品を担当した。当時の福島の酒の評価は低く、90年の新酒鑑評会の金賞受賞者数はゼロ。県がてこ入れを図るなか、94年に日本酒の技術指導者になった。

「最初は杜氏から『先生』と呼ばれるのがプレッシャーだった。上司が3人いたが、質問をしても答えはバラバラ。漠として要領を得なかった」。そもそも大半の蔵元は保守的。酒造りのノウハウは門外不出、昔ながらの伝統的な手法にこだわり、それぞれが独自の酒造りを進めている場合が多い。もんもんとした日々を過ごしていたころ、転機となる技術指導者との出会いがあった。

「金賞を取れる酒造りはある。明確な方針を作成し、着実に実行することだ」。新潟県醸造試験場長を務めた廣井忠夫さんからこう諭された。酒どころ新潟の技術指導者の説明は理論的で説得力があった。その理論をもとに効果のあるなしを取捨選択、検証を繰り返し、酵母などに関する新技術も取り入れ、2002年には「吟醸造りマニュアル」を作成した。「醪(もろみ)が濃かったが、淡麗の方がいい」などと杜氏らと話し合いながら、酒質を磨いた。

一方で「若造が何を言う」と反発する声もあった。創業300年などの老舗の蔵元が少なくないからだ。マニュアルの導入に慎重な杜氏もいたが、「現代の名工」を受賞し、会津杜氏会会長だった佐藤寿一さん(末廣酒造の元杜氏)から「鈴木先生のマニュアルはいい」とのお墨付きをもらった。金賞の受賞数は03年に二ケタ台に乗り、06年以降は、新潟県などとトップを競うまでに躍進した。

しかし、11年に起こった震災では、県内の半数の酒蔵が被災した。太平洋岸の浜通りには建屋が津波で流されたところもある。原発に近い浪江町にあった鈴木酒造店は移転を余儀なくされた。山形県長井市の地元の蔵元を買い取り、再出発した。物流や流通網が寸断され、大混乱に陥ったが、多くの杜氏は鈴木さんに「鑑評会に新酒を出品したい。味を確かめて欲しい」と頼んできた。わずか2カ月後の5月の鑑評会での金賞受賞数は全国2位に。風評被害のなか、杜氏たちの執念が実った。

12年に全国1位になり、以後7連覇を達成した。星さんもこの間に3度の金賞を取るなど貢献している。当初は父親と時にはケンカしながら、新商品開発に取り組んだが、金賞受賞の実績もあり、早々に杜氏の立場を譲られた。若手の杜氏や技術指導者が育つなか、58歳の鈴木さんは「そろそろ引退かな」と笑う。ただ、内堀雅雄知事から「8連覇もよろしく」と頼まれている。全国から講演の依頼が次々舞い込むといい、当面、日本酒の神の多忙な日々は続きそうだ。

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