社員のがん、制度なくても支援できる 日立システムズ
がんになっても働き続けたい~日立システムズ(上)
働く世代ががんにかかったとき、仕事をどうするかは大きな問題だ。治療のための入院日数は少なくなり、外来で通院しながら治療するケースが増えてきている。治療と仕事の両立がうまくできれば、患者は社会とのつながりを感じられ、働きがいや生きがいを得られる。そのためには、職場におけるがん患者への理解が欠かせない。
自身もがんになったライター、福島恵美が、がんになっても希望を持って働き続けられるヒントを探るシリーズ。今回はがん対策に積極的に取り組んでいる日立システムズを訪問。人事総務本部の今村隆さんと同社の保健師・川崎和子さんに、仕事と治療の両立支援について伺った。
従業員のがん経験が両立支援のきっかけに
――日立システムズは、民間プロジェクト「がんアライ部」が、がんとともに働く人を応援する企業をたたえる「がんアライアワード」ゴールド賞に、2018、19年の2年連続で受賞されています。がんと就労の問題に、意欲的に取り組むようになったきっかけをお聞かせください。
今村 2016年に当社の従業員が乳がんになったことがきっかけです。その頃、彼女は仕事が多忙な時期で、勤務を続けられるのか、今後どんな治療が始まるのかなどいろいろな不安を抱えていました。そこで、グループ会社に同じ病気を体験した人がいたので紹介したのです。がんに対する向き合い方や仕事の進め方をその方に相談し、不安な気持ちが和らいで、治療も仕事も安心して取り組めたそうです。
相談することで前向きになれた彼女は、「今度は自分の体験を話すことで、誰かの役に立てるのではないか。がんの早期発見・早期治療の大切さも伝えたい」と人事総務本部に申し入れをしました。私ども安全衛生管理をする部門やダイバーシティーを推進するメンバー、保健師らがその話に共感。がんになっても安心して働き続けられることを従業員に伝え、不安の解消や治療と仕事の両立支援につなげていくことにしたのです。
相談しやすい環境をつくり、治療と仕事の両立を支える
――具体的にはどのような活動を展開しているのですか。
今村 先のグループ会社のがん経験者らが講師となり、従業員を対象にした「がんと就労セミナー」を全国で開催しています。この活動を始める前にまず取り組んだのが、がんになった従業員のサポート体制を整えたこと。病気になった本人を、所属上司、産業医、保健師、人事・総務スタッフが一体となって支えることができる体制を図に表し(図1)、がんの治療状況に応じて会社にある既存の制度の何が使えるかを整理し、一覧表にまとめました(図2)。
当社にはがんになった人向けの制度はありません。しかし、フレックスタイム勤務[注1]や半日、時間単位の年次有給休暇、時差出勤などいろいろな制度があり、それを組み合わせることで仕事と治療の両立支援ができるのではないかと考えました。本人が上長と相談するときにこの表を見せながら話すと、自身の状況に合わせた具体的な相談がしやすくなります。
川崎 基本的に在宅勤務は育児や介護以外は認められないのですが、放射線治療など一定期間に特別な配慮が必要なときは、主治医の見解を診断書でいただき、それを産業医に確認してもらい、ご本人と上長との面談の上で、会社から認められることもあります。
がんになった当初は特に、今後の治療に伴う体の変化に不安を感じると思います。私のような社内の保健師は本社に7人いて、より安心した生活ができるように気軽に相談に応じています。
[注1]始業・終業の時刻を労働者が決められる制度で、通常は1日のうちに必ず就業するコアタイムを定める
がんのセミナーを全国28カ所で開催
――職場に相談できる環境があるのは大事なことですね。私自身はフリーランスなので、仕事場と自宅が一緒なのですが、がんで治療中は副作用や、どのように仕事をしていくかに悩み、医療者に相談にのってもらって、随分気持ちが楽になりました。「がんと就労セミナー」はどのような内容で開かれているのですか。
今村 がんが見つかるまでの経緯や治療と仕事を両立するための工夫、治療にかかる費用など、講師自らの体験談を伝えることで、がんを身近な病気と捉えてもらうようにしています。また、人事総務本部のスタッフから会社の制度やサポート体制、社内の保健師の活動などを紹介します。このセミナーは2017年11月から始め、現在までに全国28カ所で開催しほぼ一巡していて600人以上が参加。基本的に受講したい人が参加しています。
川崎 セミナーでは会社で購入した2台の機器を使って、乳がん触診モデル体験も実施しています。触るとしこりが分かり、男性も体験してくれる人が少しずつ出てきて、検診への関心が高まっているように感じます。男性も乳がんになることはありますからね。
今村 セミナー参加者からは「がんという病気を身近に感じるようになった」「会社に両立支援制度や相談先などのサポート体制があることが分かり安心した」などの声を聞き、がんや職場の取り組みの理解につながっていると考えます。それに、自分の部下や同じ所属のスタッフががんになったときに、どうサポートするかを考えるきっかけにもなっていると思います。
がんを経験した従業員の意思、希望を大切に支える
――従業員の治療と仕事の両立をサポートする上で、特に大切にしていることは何でしょうか。
川崎 ご本人の意思や希望を尊重することが、一番大事だと考えています。業務上の配慮が必要なときや上長に病状を理解してもらいたいときは、相談いただいた方がいいと思うのですが、中にはがんのことを職場に知られたくない、特別な支援は必要ないと思う方もいらっしゃいます。そこは支援の強制にならず、その方にとって何が必要かを確認しながら進める必要があると思っています。
今村 病気の度合いや治療方法などはそれぞれ違うと思いますが、従業員が自分の置かれている状況を把握して、何をしていきたいのかをきちんと考えることも大切です。上司や相談窓口に相談できるサポート体制は整っていますし、会社の制度もあるので、それらをきちんと従業員に伝え、周知を図るのは会社の役目だと考えています。
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後編(「社員のがん検診率向上 日立システムズの手紙の宛先は」)では、企業として行っているがん予防の対策について聞く。
(ライター 福島恵美、 図作成=増田真一)
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