出世できずとも… 定年後を左右する気持ちの切り替え経済コラムニスト 大江英樹

写真はイメージ=123RF
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米国の精神科医であるエリザベス・キューブラー・ロスは「死」に関する認知を研究した人として知られています。終末期医療に大きな影響を与えたとされる著書「死ぬ瞬間」で、彼女は死のプロセスについて語っています。

そのプロセスというのは5段階あって(1)否認・隔離:自分が死ぬことを認めない、あり得ないと考える(2)怒り:なぜ自分が死ななければならないのかの理不尽さに怒る(3)取引:何とか死なずに済む方法がないかと模索する(4)抑うつ:どうしようもないと知り、悲観と絶望に暮れる(5)受容:死を静かに見つめられるようになり、心に平穏が訪れる――というものです。

実はこのプロセスの中で「死」という言葉を「定年」と置き換えることもできると私は考えています。もちろん死と定年ではその重さは全く異なりますが、定年は「会社人」としての死と言っても大げさではない面があるからです。

どなたのブログだったのか記憶が不確かですが、死についてのロスの5段階になぞらえて「定年を決して受容してはいけない」という文章を以前に読んだことがあります。死と違って定年の場合はその後も生きていくわけですから、容易に受容するのではなく、もがき苦しんだ方が定年後の人生は充実したものになるという趣旨でした。

これはある意味で正しいと思います。定年を迎えた後あるいは再雇用の終わる65歳以降は定年を受容した上でのんびり、ご隠居然として暮らすのではなく、もがきながら現役時代同様のテンションで活動すべきだというのも間違ってはいません。

定年は早めに受容し、会社人生で「成仏」を

しかし私はやはり「定年は受容すべきものだ」と考えています。ただし受容すると言っても、悟りきって諦観するということではありません。受容した上で気持ちを早く切り替えるべきだと思うのです。つまり定年間際になってもがくのではなく、もっと早い段階から「定年を受容し、定年後のことを考えておくべきだ」ということです。

私は企業が定年を控えた従業員向けに開くセミナーに講師として招かれることが多く、そうした機会では50代の方に「みなさん、早く成仏した方がいいですよ」と言っています。ここで言う「成仏」とは会社生活における成仏です。考えてみてください。多くの会社員は部長にも役員にもなれません。ポストの数は限られているのだからこれは当然です。だとしたら、高い地位につけなかったとしてもいつまでもそのことにこだわって敗北感を引きずるのではなく、気持ちを切り替えるべきです。つまり会社人としての死を早く受容してください、ということなのです。

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