東京から新幹線で約2時間。群馬県の利根郡川場村に永井酒造がある。自然豊かな土地で、尾瀬には美しい水芭蕉(みずばしょう)が一面に咲き誇る。「水芭蕉」の名の日本酒でも知られているのが、明治19年(1886年)創業の永井酒造だ。2016年に世界的権威の品評会「IWC」SAKE部門・純米大吟醸の部で水芭蕉「純米大吟醸」と「純米大吟醸 翠」が金賞を受賞。17年にはフランスの日本酒コンクール「KURA MASTER」で同じ2商品が純米大吟醸部門でプラチナ賞(最高賞)を受賞した。国内の「全国新酒鑑評会」では通算18回金賞を受賞している。
輸出は94年から香港、カナダ、米国の順に開始し、現在40カ国に輸出している。「NAGAI STYLE」という日本酒では珍しいペアリングの発想で、スパークリングから食中酒、熟成させたビンテージ酒、デザート酒の4タイプでシリーズ化させて国内外にセットで売り込む。まるでワインのようにコース料理などに日本酒を合わせながら様々な味わいを提供し、川場村のテロワール(地域色)で魅了するのだ。
「蔵を継いだ20代の頃から、いつかワイン市場にも日本酒を売りたいと考えていました」と話すのは代表取締役の永井則吉氏。各国のワイン産地を巡り、ワインの勉強もしながら日本酒造りをしてきた。ちなみ奥様は米国カリフォルニアのワインの名産地ナパ・バレーで、ワインツーリズムをコーディネートしてきたワイン通でもある。

永井氏が日本酒のペアリング「NAGAI STYLE」を発想したのは20代の頃に、フランスでワイン体験をしたことが影響している。「ブルゴーニュ地方にある世界最高峰のワイン産地・モンラッシェの辛口白ワインに出合った時、そのおいしさや生産者の姿勢など、すべてに度肝を抜かれました。あまりにも衝撃的で、言葉を失ったほどです」と振り返る。
永井氏は当時、まだワインの知識はほとんどなかったが、「ワインを知らないと、世界で酒を語ってはいけないのだ」と強く感じたという。それ以来、オーパスワンやロマネコンティなど、ブランディングに成功している高級ワインを自腹でも買って味わうようになった。そして当時の情報と味の記憶を頼りに、独学でワインの知識を深めていった。
ワイン名産地ではどこでも、ソムリエたちが当たり前のようにスパークリングからスタートし、様々なワインを料理に合わせて、ペアリングの楽しさを存分に伝えていた。それに比べ、「日本酒のたしなみ方には限界があるな」と痛感。その経験が後に、「NAGAI STYLE」誕生へとつながる。
「ワインはブランド力が高いものは価格もものすごく高い。でも日本酒の価格は有名・無名どれも横並び。日本酒にもワインのような価値観が必要だと思った」(永井氏)という。「大吟醸だから選ぶ」といった「特定名称酒スペックで酒を選ぶ次元を早く超えないと、日本酒の未来はないのでは?」と20年以上前から感じていたのだ。