新メニューできる? トリドールの社食はみんなで作る
これまで「ヤフーとアマゾンの社食 『食べるだけ』じゃない魅力」「ソニー・スクエニ・東京税関 グルメすぎる社員食堂」など、企業や行政機関で運営するさまざまな社員食堂や職員食堂を取材してきた。第4弾となる今回は、「丸亀製麺」でおなじみのトリドールホールディングス、「GLOBAL WORK」などのアパレルブランドのアダストリア、国際協力機構(JICA)の横浜センターの食堂を紹介する。
まずは、釜揚げうどんチェーン「丸亀製麺」など多数ブランドを国内外13の国と地域に計1762店舗(2019年12月時点)を展開しているグローバル企業・トリドールホールディングス。都内に複数あった拠点を集約し、19年9月に本社を東京・渋谷の高層オフィスビル「渋谷ソラスタ」に移転。同時に、同社で初めてとなる社員食堂「31cafe(サンイチカフェ)」の営業を開始した。ここでは約350人が勤務している。
ビルの20階にある約800平方メートルもの開放的な空間で、テーブルやカウンター、ソファ席など多種多様な座席が150席。カフェのようなおしゃれで清潔感のある空間だ。社内のどの場所でも自由に仕事ができるフリーアドレス制を導入しているため、ランチタイムでもパソコン作業や打ち合わせを行う社員も見られる。
メニューはすべてビュッフェ形式というのが魅力の一つ。サラダ、冷菜、メイン(2種)、温野菜から好きなものを組み合わせてワンプレートに盛り付け、ご飯またはパン、スープまたは味噌汁を選び、計5種類を好きなだけ盛り付けて500円(税込み)というお得な内容だ。いずれも100円(税込み)で単品オーダーすることも可能なので、自宅からご飯だけ持参して、おかずのみ食堂で購入というのもOK。自分のスタイルに合わせて利用できる点が社員から好評だという。外部の利用はできないが、社員が来客者を連れて利用することはできる。
「開業当初は麺類や丼などのメニューも用意していましたが、利用率は半数程度とあまり伸びませんでした。19年12月から単品購入も可能なオール・ビュッフェスタイルに変えたところ、組み合わせの幅が広がったこともあり、利用率が8割ほどまで上がったんです」(トリドールホールディングスコミュニケーションデザイン課の宮林里美さん)。ビュッフェのメニューは日替わりで、旬の野菜を取り入れるなど、工夫を凝らして変化をつけているという。
外食企業らしく、運営を外部などに委託していないのも特徴だ。食堂のスタッフは自社の社員が専属業務として行っているほか、部門に関係なく毎日1~2人程度の有志が配膳などを担当している。「みんなでつくる食堂」を意識しており、今後は調理スタッフも有志として社内から募り、社員考案メニューなども取り入れていく予定とのこと。
メニューはサラダや冷菜、煮物、温野菜など、野菜を使った料理が多い。取材試食の際、野菜不足気味の筆者は思わず大盛りにしたのだが、全く重くはなかった。新しい品種やごく一部の地域でしか取れないような珍しい野菜を全国から取り寄せ、「社員に『これは何だろう?』と、食に対して興味を持ってもらう機会にもしたい」と宮林さんは話す。
社員の反応が良ければ、今後、自社経営の飲食店にてメニューに取り入れていく可能性もあるそうだ。社員の食育の一環としても社員食堂を活用するなど、飲食ブランドをグローバルに展開する企業らしい取り組みがうかがえた。
続いて、やはりこちらも東京・渋谷。JR渋谷駅前の渋谷ヒカリエ内にオフィスを構えるアダストリアの社員食堂だ。「GLOBAL WORK」「niko and…」など、国内外で20以上のアパレルブランドを持つ同社の食堂「A CAFE」は、グループ会社のアダストリアイートクリエイションズが運営する。このオフィスでは約1300人が勤務している。
朝9時から午後6時まで営業しており、打ち合わせや商談の場に使われることも多いが、11時30分~午後2時30分のランチタイムは「食事のみ・打ち合わせや商談はNG」が食堂のルール。社員が落ち着いて食事を取ることができるよう、あえてこのようなルールができたそうだ。
主なメニューはボウル(丼)、サンドイッチ、デリ、カレー、ヌードル。すべて週替わりで、人気の「デリプレート」は主食(雑穀米、パン、サラダ)から1種類、主菜から1種類、副菜から2種類を選び、さらにサラダバー付きとボリュームたっぷり。しかもワンコインだ(500円・税込み、スープセットはプラス150円・税込み)。
女性社員が全体の約8割を占める同社で、「しっかり食べて午後の仕事に備えたいという女性社員が多く、ボリュームのあるメニューも人気があります」と、アダストリア広報・IR室の佐田楠都子さん。
また、社員からの「和食が食べたい」という要望に応えてメニュー化したのが「一汁三菜プレート」。週替わりでメニューは固定だが、メイン食材には魚を使用し、煮物や漬物と味噌汁がセットになって税込み480円。加えて、曜日替わりで「吉野家」「ゴーゴーカレー」「スープストックトーキョー」など、他社のオフィス向けメニューも導入し、飽きが来ないように工夫している。
社員食堂は休日には自社ブランドのイベントなどに利用されることも多く、新作やコーディネートを披露するため、食堂内にはモデルが歩くランウェイのスペースもあるのがユニーク。アパレルメーカーらしいセンスが光る空間だ。
来客があった際に食堂に案内すると、凝った内装や地上27階の眺望を絶賛されることが多々あり、「ドラマの撮影に使いたい」と声がかかることも多いという。「食堂やオフィスが評価されることで、そこで働く社員にとってもモチベーションアップにつながっていると思います」と佐田さんは話す。
横浜みなとみらいエリアにある国際協力機構(JICA)の横浜センター(以下、JICA横浜)は施設の3階で、「港が見えるレストラン Port Terrace Cafe(ポート テラス カフェ)」を、東急グルメフロントに運営委託している。
JICA横浜は発展途上国から研修員の受け入れなどを行っているが、ここは海外から訪れている研修員だけでなく、一般利用も可能なレストランだ。利用申請なども必要なく、営業時間内であれば誰でも食事をとることができる。平日は午前11時30分から午後2時までの昼食と、午後5時30分から9時までの夕食の時間に運営している(いずれもラストオーダーは閉店30分前)。喫茶タイムも設けている土日祝日は、みなとみらいに来た観光客で特ににぎわうという。
ここはメニューが非常に国際色豊かなのが特徴で、研修員の多いアフリカ、中東、アジア、南米などの地域で食べられている家庭料理など、世界15カ国以上の料理を提供している。「コラボセット」は、同施設内の「海外移住資料館」で展示されている日系人の食事を再現。ハワイの「スパムむすび」、黒豆と豚肉を煮込んだブラジルの「フェイジョアーダ」などが一度に楽しめる。一方、カメルーンの料理「海老とトマトのシチュー」は、エビがゴロゴロ入って、日本人にも人気のメニューだ。
また、イスラム教の戒律に従って処理したハラル対応メニューを10種類、加えてベジタリアン向けのカレーも提供。これらはもともとイスラム教徒の研修員などのために用意されたメニューだが、一般の外国人観光客から「ハラル対応メニューはありますか?」との問い合わせが入ることも多く、貴重なハラルメニュー常備の一般向け食堂としても利用されている。もちろんイスラム教徒以外の人も食べることはできる。ちなみに一般客の利用は全体の4割程度。
「研修員は勉強のために訪日しているので、勉強に集中できるよう環境を整えることが大切。その一つとして、イスラム教徒でも安心して食べられるハラルメニューをそろえる意義は大きいと感じています」(ポートテラスカフェ店長の 斎藤淳さん)。店のアンケートには「ハラルメニューがあって助かった、ありがとう」と喜ぶ声が多く届いているそうだ。
今回紹介した3カ所の食堂は、「自分で選んで好きなだけ盛れるヘルシーメニュー」「人に自慢したくなるようなおしゃれな空間」「さまざまな国籍の人が安心して利用できるダイバーシティー食堂」と、現代の働く人々のニーズをしっかりと捉えた食堂ばかりで、いずれも社員・従業員、そして利用者の満足度も高かった。ただ食事を提供するだけではなく、仕事や勉強のモチベーションにまでダイレクトに影響してくる社員・従業員食堂は、今後ますます事業主体の重要な要素になることだろう。
(フードライター 古滝直実)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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