周りのママは涙してるのに… 娘の卒業式で泣けません
脚本家、中園ミホさん
湿っぽい雰囲気が苦手です。娘の卒業式でまわりのお母さん方が我が子の成長に涙していても、私にはできません。娘が学校の課題で書いた、母親への感謝の手紙でも同じです。小中学校に通う娘たちは、ウルッとなって抱き締めるくらいの反応を期待しているのかもしれません。娘の感受性にも影響を与えてしまうのではないかと心配です。(茨城県・40代・女性)
◇
相談者さんは照れ屋なだけで、心ではすごく感動しているのだと思います。それを表すのがちょっと不器用なだけです。もし本当に感情が乏しかったら、こういう悩みを抱えることもないはずです。
私も実は同じタイプなので、お気持ちはよく分かります。卒業式で周りのお母さんが泣いているなかで、一人だけぽかーんとしているように周囲からは見える。自分も気持ちではウルウルしているのだけれど、そうであればあるほど、かえって無表情になってしまう。
外国の人は男女を問わず、ものすごく表現が上手ですよね。その場で率直にパーッと感情を出して、抱き合ったり泣いたりします。日本は島国だからかな。苦手な人は多いと思います。とりわけ男性は「泣くな」と言われて育ったし、最近まで、それが格好いいとされてきました。
その結果、気持ちが伝わらなくて損をすることがあるかもしれませんが、無理に外国の人と同じようにする必要はありません。今のままでいいと思います。悪いことではないし、ある意味、日本人の美徳ともいえます。
それにドラマの脚本を書く立場からすると、不器用で表現できなくて、思いを秘めている登場人物のほうが魅力的なんですよ。一人になったときに、ひっそりと喜んだり泣いたりする。そうやって隠している気持ちは、どんどん心のなかで大きくなっていくのだと思います。私の偏見ですが、お葬式で号泣した人が、次の瞬間「それで、何食べる?」と言ったりしますよね。
3月は卒業式のシーズンです。どうか周囲の湿っぽい空気は気になさらず、堂々としていてください。
相談者さんのもう一つのお悩みは、お嬢さんに「うちのお母さんは何も感じていないのかな」と思われたらどうしようということでした。
お嬢さんが課題で書いたお母さんへの感謝の手紙も、本当はすごくうれしいんですよね。でしたら、正直に言葉で言えばいいのではないでしょうか。「お母さんは感情を表すのが苦手でゴメンね。でもすごくうれしいんだよ」と。言葉が難しければ、手紙でもいいと思います。
[NIKKEIプラス1 2020年2月29日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。