また引当率にも着目したい。下の図は開示資料をもとに三井住友銀の債務者区分と引当率をまとめたものだ。同行の引当率は正常先債権で0.11%、要注意先債権で4.64%としているのに対し要管理先債権は42.39%、破綻懸念先債権は66.47%、実質破綻先債権になると100%の引当金を積まなければならない。こうした引当率は過去の貸し倒れ実績率から算出されている。引当金を積み増せば与信関連費用として決算を直撃し、自己資本も減少することになる。

さらに注目すべきなのは担保や保証の効果だ。仮に不良債権になったとしても、担保や保証でカバーされている貸付債権は原則として引き当てが不要とされている。銀行としては担保や保証の範囲で貸せば安全だということになる。だからこそ銀行はこれまで担保や保証を重視し、それらがない企業に対して貸し出しをすることに慎重だったわけだ。

金融検査マニュアルは「現在までの企業の財務」という形式的な基準で債務者区分をすることを原則としており、企業がこれからどんな経営計画を持ち、どのように成長していくかという「将来の企業の姿」はあまり反映しない。また担保や保証に頼る融資姿勢を助長したことは否めないだろう。

問われる目利き力

金融検査マニュアルが廃止されるということは、今後は銀行の経営陣自らがどのような経営方針に基づいて融資や資産運用をするか、経営環境をどのように捉えているかが問われることになる。

例えばある地域の銀行や信用金庫が「地元の中小企業に対して将来を見据えた支援を実施し、業績不振先であっても再生支援を強化して融資を続ける」という経営方針をとったとすれば、実際の営業現場で経営方針実現のためどのような工夫をしているか、その巧拙によって貸し倒れの件数は増減するだろう。さらに具体的にいえば、実績のある再生ファンドと組んでいるかどうか、行員の教育は十分かなどといったことが引き当ての判断に影響するはずだ。

アパートローンに対する融資、特定の業界(たとえば自動車部品メーカー)向けの融資、地元以外の地域への「越境融資」などを強化する経営方針を立てた銀行があったとすれば、まずこれまでに実行してきたそれらの融資をグループ化し、アパートローン、自動車部品業界、越境融資それぞれの実態に即した貸し倒れ実績率を使うべきだろう。

また融資先の将来の姿を見るということは過去の貸し倒れ実績で引き当てを積むのではなく、将来のマクロ経済環境や業界環境なども考慮に入れることも求められる。それをどう考えるかが、まさに経営判断だ。平常時に引当金がいきなり増えて赤字にならないようにするだけでなく、予期せぬ経済混乱のときであっても自己資本が不足しないようにするのが銀行経営者の責任だ。

そして各銀行は金融検査マニュアルの機械的な自己査定に甘えて低下した目利きの力を取り戻す必要がある。筆者が属するプライベート・エクイティ(PE)ファンドの世界では担保や保証をあてにした投融資はしない。企業の事業性に基づく将来キャッシュフローの予測で投融資を決め、それを実現すべく実際に投資先の現場で汗をかいている。こうした力が現在の銀行の役員・行員に最も求められているのではないだろうか。

安東泰志
1981年に三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行、88年より、同行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。2002年フェニックス・キャピタル(現ニューホライズンキャピタル)を創業。三菱自動車など約90社の再生案件を手掛ける。東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。事業再生実務家協会理事。
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