綾小路翔 サングラスとバーカウンターの意外な共通点

すべてを掛け合わせて面白くできるのがヤンキー文化

「人」を軸にして生きている、と言いましたけど、僕はこんなナリして、かなりのシャイボーイですから、人と接近すると戸惑ってしまう事もしばしば。そこで重要になるのが「パーソナルエリア」です。お店の場合、パーソナルエリアをつくるのに役立つモノが「バーカウンター」なんですよ。一定の距離が生まれますからね。だから、これまで歴代のお店には必ずバーカウンターがありました。そして、もはや今の店にはカウンターしかない(笑)。

氣志團のトレードマークであるサングラスも、このカウンターと似たようなものかもしれません。これをかけることで、適度な距離が取れるというか、少し緊張がほぐれてうまく話せるんです。

僕が今かけているサングラスは「キャッツアイ」と呼ばれる、いわゆるトイグラスで、古くは僕の大好きなセックス・ピストルズのシド・ヴィシャス、横浜銀蝿のJohnnyさんもかけていました。おもちゃだからすぐにゆがむので、僕は自分専用のものをフルオーダーで作っています。なので、世界中の「キャッツアイ」でもトップクラスの高品質な部類じゃないかな。……って、今気づきましたけど、モノ語りだったらこっちの話のほうがよかったですかね?(笑)

僕にとってこの「キャッツアイ」は、つっぱりとかパンクスピリッツの象徴でもあります。現代社会においてヤンキーはほぼ絶滅危惧種ですが、漫画やドラマの中では脈々と受け継がれていますよね。『クローズ』シリーズや、大ヒットしたテレビドラマ『今日から俺は!!』もしかり。

氣志團の新曲『今日から俺たちは!!』は、ドラマのヒットに完全に乗っかっているみたいに見えるかもしれませんが(笑)、実際改めてあの名作に触れた時に、中学生時代とはまた違った衝撃を受けたんですよね。自分は様々なものから受けたインスパイアを混ぜ合わせて作品を作ることが好きです。トレンドも歴史あるものも、はたまた誰もが忘れ去ったものや、ひいては誰の記憶にすらないものをも掛け合わせて面白くできるのが、ヤンキー文化、そして氣志團という存在だと僕は思っているんです。

未来ではなく「今日一日」をゴールに

ちなみに、漫画『今日から俺は!!』の週刊連載がスタートした1990年は、僕らが中学に入学したころ。漫画を読んで、「高校デビューすると、こんなヤバいことが待ち受けているのか」と衝撃を受け、中学からしっかりやらなきゃと心に決めました(笑)。当時のヤンキー漫画は、神奈川県、特に湘南を舞台に描かれるものが多かったんですが、『今日から俺は!!』は千葉が舞台。自分が知る場所が描かれているのも新鮮でした。

ドラマを楽しく拝見しながら改めてタイトルを見たとき、「今日から俺は」っていい言葉だなと思ったんです。

人って、僕だけじゃなく多くの方が、過去と未来にとらわれていると思うんですよ。氣志團が好きだという人からも「あのころのあの曲が好きだった」とはっきり言われることもあります。一方でテレビやネットを見れば、将来が不安になるニュースばかり。今日しか生きられないのに、いつしか過去と未来にとらわれているなと。

1年ほど前に父が亡くなったんです。具合は悪くしていたけど、「父は大丈夫だ」という勝手な自信というか、確信みたいなものがあったんですよね。絶対に大丈夫と思っていることが、明日はそうじゃなくなるかもしれないと気づかされました。

明日を案じるあまり、ゴールを先に設定すると苦しいことばかりが増える。だから過去と未来と決別し、「今日」という一日をゴールに設定すれば「今日から」頑張ろうと思えるんじゃないかと。

そんな思いから生まれたのが『今日から俺たちは!!』です。氣志團にしては、らしくないエモーショナルな楽曲ですが、20年以上もバンドをやっていれば、そういう曲が1つくらいあってもいいのかなって。

今欲しい「モノ」ですか? そうですね……。軍資金、1000万円かな(笑)。今どうしても作りたい衣装があって、見積もりを取ったらそれぐらいだったので(笑)。これマジで最高なやつなんですよ。昨今はクラウドファンディングなどがはやっていますが、僕は人様から出資していただくのが得意じゃなくて。それに出資を募るときってお金を何に使うか公表しなきゃならないじゃないですか(笑)。それじゃサプライズにならないですからね。みんなをあっと驚かせて、腹の底から笑ってもらったり、心の底から喜んでもらったりするのが生きがいなんです。

これまでずっとバンドも店も、このリーゼントも全部自前、手弁当でやってきました。バンドを始めたときはこんなに長く続くとは思ってもいなかったけれど、今後もこのスタイルで、痛快にくだらないことをやり続けたいですね。

さまざまなモノを掛け合わせて面白くできるのがヤンキー文化、そして氣志團だという綾小路翔さん。「どうしても作りたい衣装」は実現するのか
綾小路翔
あやのこうじ・しょう 千葉県出身。1997年、千葉県・木更津にて同級生のメンバーと氣志團を結成。2001年メジャーデビュー。2012年より、地元千葉県・房総の地で音楽フェス「氣志團万博」を開催。ジャンルもキャリアもさまざまなアーティストたちが出演するフェスは毎年5万人を動員し、今年も9月26日(土)、27日(日)に開催が決定している。2月26日リリースのシングル『今日から俺たちは!!』の表題曲は映画『前田建設ファンタジー営業部』主題歌。力強いバンドサウンドとキャッチーなメロディーに乗せ、自分たちらしく前に進んでいく決意を高らかに歌い。そのパワフルな歌声に心励まされる。カップリング曲『梟の歌』はアプリゲーム『ログレス物語(ストーリーズ)』のイメージソング。

(文 橘川有子、写真 藤本和史)

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