免疫の暴走がおきることも 新型コロナ、重症化の理由

日経ナショナル ジオグラフィック社

したがって、SARSやMERS患者に見られたように、もし肝酵素の値が異常に高くなったら、警戒しなければならない。ただの軽い傷で肝臓が簡単に回復する場合もあるが、肝不全など深刻な症状を起こす恐れもある。

ロク氏によると、呼吸器系に感染するウイルスが肝臓でどのように作用するのかはまだ明らかになっていない。ウイルスが肝臓に直接感染し、増殖して細胞を殺しているのか。または、ウイルスへの免疫反応が肝臓に激しい炎症反応を起こし、細胞が巻き添え被害を被っているのだろうか。

中国東部の山東省鄒平市の隔離病棟で抱き合う医療スタッフ(PHOTOGRAPH BY STR/AFP VIA GETTY IMAGES)

腎臓:すべてはつながっている

コロナウイルスにかかっては、腎臓も無事ではいられない。SARS患者の6%、MERS患者の4分の1が急性の腎障害を起こしており、研究によると、今回のウイルスも同様のダメージを与える可能性がある。症例は比較的少ないが、腎臓がやられると命に関わる。2005年の医学誌「Kidney International」によると、急性腎障害を起こしたSARS患者のうち、91.7%が最終的に死亡した。

肝臓と同様に、腎臓も、血液をろ過する働きを持つ。それぞれの腎臓には、およそ100万個のネフロンと呼ばれる微小なろ過構造物がある。ネフロンは主に、血液をろ過してきれいにするフィルターと、必要なものを体へ戻し、いらないものをぼうこうへ送って尿として排出する尿細管に分かれている。

この尿細管がコロナウイルスに感染すると考えられる。SARSの流行後、尿細管でウイルスが見つかったとWHOは報告した。ウイルスに感染した尿細管は、炎症を起こすことがある。

香港大学の名誉教授で香港サナトリウム病院腎臓科名誉顧問の黎嘉能(ライ・カノン)氏によると、ウイルスが血液に入り込めば、腎臓の尿細管で見つかるのは珍しいことではないという。腎臓は常に血液をろ過しているため、尿細管の細胞がウイルスをつかまえて、一時的または軽度の損傷を起こすことはありうる。

もしウイルスが細胞に入り込んで増殖を始めたら、その損傷は死につながる恐れがある。しかし黎氏によれば、SARSウイルスが腎臓で増殖していたという証拠は見つかっていない。同氏は、SARSを最初に報告した研究グループの一員であり、「Kidney International」のその論文の著者にも名を連ねている。

おそらく、SARSで急性腎障害を起こした患者には、低血圧や敗血症、薬物、代謝障害など様々な要因が絡んでいたのだろうと、黎氏は考えている。さらに深刻な急性腎不全まで至ったケースでは、サイトカインストームの徴候もみられた。

急性腎不全は他にも、抗生物質や多臓器不全によって引き起こされたり、長時間にわたり人工呼吸器をつけていたことが原因の場合もある。すべてはつながっているのだ。

妊婦への影響は?

2月に、中国、武漢の病院で2人の新生児に新型コロナウイルスの陽性反応が出たと発表された。そのうち一人は、誕生してからわずか30時間しか経過していなかった。そこで、妊婦がコロナウイルスに感染すると、胎児も感染してしまうのかという疑問が当然出てくる。あるいは、出産中や授乳中に感染が起こるのだろうか。

SARSやMERSでは多数の妊婦にも感染者が出たが、母親から子への感染は報告されていない。新生児への感染経路は母親以外にも考えられると、ラスムセン氏は言う。例えば、多数の感染者が救急病棟へ押し寄せている病院で出産した可能性もある。

2月12日付の医学誌「The Lancet」に発表された論文では、母子感染の証拠はないという初期結果が報告されている。

論文によると、武漢で新型肺炎にかかった9人の妊婦を観察したところ、一部の女性で妊娠合併症が見られたものの、全員が無事に出産し、ウイルスに感染した証拠も確認されなかった。とはいえ、妊娠中の感染の可能性がこの論文で完全に排除されたわけではなく、この病気には慎重に対応する必要があることを忘れてはならない。

(文 AMY MCKEEVER、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年2月21日付]

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