免疫の暴走がおきることも 新型コロナ、重症化の理由

日経ナショナル ジオグラフィック社

胃腸:SARS、MERSより下痢は少ない

SARSとMERSが流行したときには、4分の1近くの患者に下痢の症状が見られた。だが、COVID-19では下痢や腹痛はあまり報告されていない。そのため、下痢などの胃腸症状が今回の感染拡大にどれほど関係しているのかはわからないと、フリーマン氏は言う。

では、呼吸器系のウイルスは、胃腸にどんな悪さをするのだろうか。

どんなウイルスでも、人の体内に入り込むと、まず自分に合う細胞の受容体を探し、そこから侵入を試みる。

ウイルスによっては受容体を選り好みするものもあるが、中には何にでも取りつく見境のないウイルスもいる。「そのようなウイルスは、あらゆる種類の細胞に簡単に侵入できてしまいます」と話すのは、米ミシガン大学医学部の臨床研究副学部長で、米国肝臓学会議の議長を務めたことのあるアンナ・スク・フォン・ロク氏だ。

SARSウイルスもMERSウイルスも、大腸や小腸の細胞に侵入して腸内で感染を広げ、下痢を引き起こしていた。

フリーマン氏は、新型コロナウイルスが同じ動きを見せるかどうかはわからないとしている。しかし、研究者たちは、COVID-19のウイルスも、SARSと同じ受容体を利用しているとみる。しかもその受容体は、肺と小腸の両方に存在している。

2020年1月31日付の医学誌「New England Journal of Medicine」に掲載された論文と、1099人の患者の症例を調査した論文投稿サイト「medRxiv(メドアーカイブ)」の論文で、ウイルスが便のサンプルから見つかったと報告された。2つの論文は、便を介して感染が拡大することを示唆しているが、まだ結論にいたるにはほど遠い。

全身に行きわたる「サイトカインストーム」

コロナウイルスへの過剰な免疫反応は、体の他の器官にも影響を及ぼす。

2014年の研究では、MERS患者の92%に、肺以外の場所でコロナウイルスの症状が認められた。実際、SARS、MERS、COVID-19のいずれにおいても、肝酵素値の上昇、白血球や血小板数の減少、血圧の低下など、全身的な症状が見られた患者がいた。少数だが、急性腎障害や心不全を起こした例もあった。

しかし、これは必ずしもウイルス自体が全身に広がったという意味ではない。米コロンビア大学メイルマン公衆衛生学部のウイルス学者であるアンジェラ・ラスムセン氏は、「サイトカインストーム(免疫の暴走)」が起こった可能性を指摘する。

サイトカインとは、免疫系が警告を出すために産生する物質で、免疫細胞を召集して感染箇所を攻撃するよう働きかける。指示を受けた免疫細胞は、体の他の部分を救うために感染した組織を死滅させる。

人の体を外敵から守っている免疫系だが、体内で暴れ始めたコロナウイルスのせいで、大量のサイトカインを肺へやみくもに送り込んでしまい、大混乱を引き起こす。「銃でターゲットを撃つのではなく、ミサイルを撃ち込むようなものです」と、ラスムセン氏は説明する。すると、感染した細胞だけでなく、健康な組織までも破壊してしまう。

こうした大混乱は、肺にとどまらない。サイトカインは血液によって全身に運ばれ、複数の臓器で問題を引き起こす。これがサイトカインストームだ。

すると、事態は急変する。最も深刻なケースでは、サイトカインストームに加えて全身に酸素を送る機能が低下し、多臓器不全に陥る場合がある。なぜ一部の患者だけが、肺の外でも合併症を引き起こすのか正確にはわかっていないが、心臓病や糖尿病といった基礎疾患と関係しているのかもしれない。

肝臓:巻き添えの被害者

コロナウイルスが呼吸器系の外へ広がると、肝臓が被害を受けることが多い。

「ウイルスは、いったん血液に入ると体のどこへでも泳いでいけます」と、ロク氏は言う。「肝臓は血管がたくさんある臓器ですから、ウイルスは簡単に入り込んでしまうでしょう」

肝臓の主な仕事は、胃から送られた血液を処理して有毒なものを取り除き、体に必要な栄養を作り出すこと。また、胆汁を作って小腸での脂肪の分解を助ける。肝臓に含まれる酵素は、体の化学反応を速める働きをする。

ロク氏によると、通常、肝臓の細胞は常にある程度壊れていて、そのせいで、ある種の酵素を一定量血液中に放出し続けている。だが、壊れた細胞は、すぐに新しい細胞にとってかわられる。この活発な再生プロセスのおかげで、肝臓は損傷を受けても立ち直りが早い。なお、血液中の肝酵素の量は、肝臓の健康度のバロメーターになるため、健康診断に使われている。

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