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こすらない風呂用洗剤 女性開発者を勇気づけた言葉

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日経doors

ライオンのシェアが下がり続けていた風呂用洗剤市場で久々の快打となったのが「ルックプラス バスタブクレンジング」。1年で2200万本を売り上げ、市場シェアを3倍に伸ばした。ヒットの秘訣を開発チームに聞きました。

肌寒い日が続くと、楽しみなのが入浴タイムだ。簡単にシャワーで済ませるのではなく、湯船でしっかり温まりたい。ただ、気になるのが日々のバスタブ洗い。清潔を保ちたいので毎日洗いたいけれど、腰をかがめてスポンジで磨くのは面倒くさい――。

そんな風呂掃除のストレスに目をつけて開発されたのが、ライオンの風呂用洗剤「ルックプラス バスタブクレンジング」。ミスト状に広がる洗剤をバスタブにまんべんなく吹きかけ、60秒待ってシャワーで流すだけで、こすらずに汚れを落とすことができる。この「こすらずにキレイになる」ことが画期的で、家事や仕事に忙しい女性や、体をかがめた掃除がつらい妊婦や高齢者などから支持され大ヒット。発売後1年で2200万本を販売し、ライオンの風呂用洗剤における市場シェアを3倍に拡大した。

この商品の開発がスタートしたのは2011年に遡る。当時、ライオンの風呂用洗剤は、競合他社の売り上げに及ばないどころか、定期的な改良を重ねているにもかかわらずシェアが下がり続けていた。商品開発を担当していた宮川孝一さんは「このままだと市場での存在意義がなくなる。なんとか存在感を発揮しなければという危機感が、開発のスタートでした」と振り返る。

風呂掃除のストレスに目を向けて差別化

市場で生き残るためには細かな改良ばかりしていても意味がない、新しい価値を提供してとがった存在になるべきだという課題を掲げたマーケティングチームは、日々の風呂掃除のストレスに目を向けた。それまでも、販売されていたお風呂用洗剤は「日々のお掃除は洗剤をかけて流すだけ」とうたっていたが、ザラザラしたバスタブの汚れは洗剤を数回プッシュして流すだけでは落としきれず、実際、大半のユーザーはスポンジやブラシでこすって汚れを落としていた。「こすらなかったらキレイになるはずがない」という思い込みを抱いていた。そこに開発チームはチャンスを見いだした。

バスタブの汚れのみにフォーカス

社内のマーケティング人材発掘プログラムで評価され、2014年からチームに参加した武藤美穂さんは、「こすらなかったらキレイにならないという思い込みを打ち破る商品を作りたいと思いました。他社製品ともしっかり差別化できます。吹きかけただけで確実にバスタブの汚れを落とせる商品にこだわりました」と言う。

通常、風呂用洗剤はバスタブだけでなく、洗い場やシャワーヘッドなどの水あかや防カビにも配慮した「全方位型」の商品を開発することがほとんどだったが、今回はあえて「バスタブ」の「汚れ」のみにフォーカス。バスタブ内の汚れだけは確実に洗剤を塗布しただけで落とせる商品作りを始めた。汚れのメカニズムを研究する部門とも連携して開発を進めた結果、水道水の中にあるカルシウムが湯垢(ゆあか)と結合してバスタブにこびりつくことを発見。そこで「バスタブクレンジングは、カルシウムと汚れを切り離して、カルシウムがバスタブにこびりつく力を無くせるようにしました。ふやけて浮いた汚れが、シャワーをかけると落ちるという仕組みです」

1回で2倍の量を噴出できる容器を開発

またバスタブ全体の汚れを落としきるためには、容器にもこだわった。従来の商品では噴出量が少なく、1回のスプレーで洗剤をかけられる範囲が狭く、バスタブ全体にふきかけるには何度もプッシュしなければならない。それではユーザーの負担になる。そこでバスタブクレンジングは1回で従来の2倍を噴出させようと考え、広範囲にかけやすいようにしようと考えた。

ただ、多くの液を出そうとすると容器のトリガーの引き金が重くなり、レバーを動かす長さも増すため女性の手ではつかみにくい。「ラクに掃除したいのに、洗剤を出すことがストレスになってはいけない。使いやすさと噴射量のバランスを考えて何度も細かく改良して、やっと固すぎずに適量を出しやすいトリガーができました」と武藤さんは語る。

気づけば開発期間は約7年が経過していた。2018年春に、満を持して商品が完成。発売前に、プロモーションの参考にしようと数人にバスタブクレンジングを1週間使ってもらい、使用前と後で生活がどう変わるのか、ヒアリング調査を実施した。そのユーザーのひとりの表情が、武藤さんは忘れられないという。

「ある女性の方は、すごく真面目で、仕事も家事も育児も手を抜かずに一生懸命やられていました。こすらないでバスタブが洗えると商品をお渡ししても、使ってもらえるのかな? と不安だったんですが、1週間後に表情がガラッと変わったんです。『本当に楽になりました! 今まで忙しくて子どもとあまり話せなかったんですけど、バスタブクレンジングを使ったら子どもと話す時間がとれるようになりました』と言ってくださったんです」と、武藤さんは振り返る。

「バスタブクレンジングで省ける家事時間は数分かもしれませんが、この方は、『手を抜いてもキレイになるんだ』ということに気付いてくださった。家事は力を抜いてラクをしてもいいんだと、価値観まで変えることができたこの商品は、絶対に世に出さないといけないと確信しました」

商品の良さをシンプルに伝える

ユーザーの声に加えて他製品のCMも販促計画のヒントにした。それがライオンの浴室用防カビ剤「ルックプラス おふろの防カビくん煙剤」だ。もともとは防カビ機能のメカニズムを伝えるCMだったが、「黒カビ掃除はやりません!!」というメッセージに変えると、売り上げがアップ。「この成功体験から、難しいメカニズムではなく、ユーザーのベネフィットをシンプルに伝えるプロモーションをしようと決めました」と、武藤さんは言う。CMには子役タレントを起用。今までとまったく違う掃除のスタイルを、親しみやすい子どもの目線で伝えることを意識した。

2018年9月、バスタブクレンジングはついに発売。「本当にこすらなくていいの?」と半信半疑で手に取ったユーザーたちの感動が、大きく市場を動かしていく。苦戦していたシェアも約3倍に伸びるという大ヒットとなった。

(取材・文 川辺美希、写真 北山宏一)

[日経doors 2019年11月5日付の掲載記事を基に再構成]

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