SF・謎解き・エッセー風… 短編で巡る恩田陸ワールド
2016~17年にかけて、史上初の直木賞と本屋大賞をW受賞した「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎)が昨年10月に映画化、主要キャラクターそれぞれの"オフショット"的な物語を収めたスピンオフ短編集「祝祭と予感」も好調な恩田陸。最新作は、7年ぶりとなる18の短編集「歩道橋シネマ」だ。
「今回の短編集は、読者にとっても、自分にとっても、ショーケース的なものになったと思っています」と恩田は振り返る。
最初の1編「線路脇の家」は、電車から見える一軒の家を巡る現代の物語。アメリカ人画家エドワード・ホッパーの代表作を思い起こさせる風景が、主人公にある発想を与える。2番目の「球根」は、少し変わった学園への訪問者を案内する学生の不気味な独白。次の「逍遥(しょうよう)」は、イギリスの田園地帯で謎解きに挑む日本人3人……と思いきや、SF的な発想が。「順番は、かなり考えました。なるべくバラエティーに富んだ読み口になるように、似た作品はバラけさせました」
ストレートな謎解きあり、SFファンタジー要素あり、エッセーっぽい描き方あり。15年からの4年で書かれた作品から感じられるのは、作家としての間口の広さだ。
「短編は、お題を与えられたほうが書きやすいところがあります。物語の一場面や断片をスパッと切るイメージで、瞬発力を試されるようなところがあるんです」
一方で「まだ具体的に姿が見えない長編の呼び水的に、短編を書いてみることもあります。設定などを用いてちょっと掘ってみることで、水が流れているかを確認しているような」と長編の予告編や習作と称する作品も3編を収めている。長編という川を流れる水を、今回の3編で掘り当てられたかを問うと、恩田は言葉を濁した。
「実際には、書き始めてみないと分からないところはあります。書き出して手触りを追いながら進めていくと、全く違うものに仕上がることもあります。昔から長編を始める時は怖いんですけど、年齢を重ねるごとに助走が長くなってきているところがありますね」
希代のストーリーテラーも「書いているときは苦しさしかない」とも。構想は山のようにあるのに、だ。くだんの「蜜蜂と遠雷」も"構想12年"と銘打たれていた。「今年は、長編もいくつか楽しんでいただける"予定"です」とのこと。「ドミノin上海」(KADOKAWA)も発売された。
いつか年表を添えるような大河ドラマ的な作品を書きたい、と恩田は夢を語る。「私が書くので、年代ものにありがちな一族や親子の物語ではなく、少し変わったアプローチになるでしょう。その前に書かなくてはいけない長編がたくさんあるんですけどね」
(「日経エンタテインメント!」2月号の記事を再構成 文/土田みき 写真/鈴木芳果)
[日経MJ2020年2月21日付]
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