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新型コロナで可能性指摘 「エアロゾル感染」とは?

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日経Gooday(グッデイ)

2020年2月8日、上海市政府が開いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防と管理に関する記者会見で、上海市民政局副局長のZeng Qun(曽群)氏が、「このウイルスの感染は、主に直接伝播、エアロゾル伝播、および接触伝播によって広がっている」と述べました。突如として現れた「エアロゾル伝播(感染)」という耳慣れない言葉に、不安を覚えた人も多かったのではないでしょうか。実際、最も感染力の高い「空気感染」と同一のものととらえる人も少なくなかったようです。

当初は「エアロゾルを介して伝染する証拠はない」との見解

会見でZeng氏は、「エアロゾル伝播は、空気中でウイルスと液滴が混じって形成され、吸入すると感染が生じる状態」とし、「エアロゾルは長時間空気中に漂う」と説明しました。また、直接伝播は「目の前の人の咳やくしゃみを吸い込むことによる感染」、接触伝播は「ウイルスを含む飛沫に汚染された表面を触った手で、口や鼻、目を触ることによる感染」と解説しました[注1]

ちなみにZeng氏は、医師や研究者ではなく、社会福祉、公共政策などを専門としてきた人です。 

しかしこの記者会見の翌日、中国疾病対策予防センター(CDC)が記者会見を開き、感染症を専門とする医師でWHO戦略諮問グループ(SAGE)のメンバーでもあるFeng Luzhao氏が、「新型ウイルスがエアロゾルを介して伝染するという証拠はない。このウイルスは主に接触感染と飛沫感染によって感染している」と述べ、前日の上海市政府の会見で述べられたエアロゾル感染の事実を否定しました。ただしFeng氏は、エアロゾル感染は、医療現場で気管挿管などの専門的な医療処置を行う場合など、特定の特殊な条件下で発生する場合があることを認めています[注2]

その後、2月19日に中国国家衛生健康委員会が、医療従事者向けの新型コロナウイルス感染症診療ガイドラインの改訂を発表[注3]。その中で、「密閉された空間で、高濃度の汚染されたエアロゾルに長時間さらされた場合には、エアロゾルによるウイルスの伝播は起こりうる」と、この経路での感染の可能性を示唆しました。

そもそも「エアロゾル」とは?

そもそも「エアロゾル」とは何なのでしょうか? 日本エアロゾル学会[注4]は、以下のように解説しています。

「気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子をエアロゾル(aerosol)といいます。エアロゾルは,その生成過程の違いから粉じん(dust)とかフューム(fume)、ミスト(mist)、ばいじん(smokedust)などと呼ばれ、また気象学的には、視程や色の違いなどから、霧(fog )、もや(mist )、煙霧(haze )、スモッグ(smog )などと呼ばれることもあります。エアロゾル粒子の性状は、粒径や化学組成、形状、光学的・電気的特性など多くの因子によって表され、きわめて複雑です。(中略)例えば粒径についていえば、分子やイオンとほぼ等しい0.001μm=1nm程度から花粉のような100μm程度まで約5桁にわたる広い範囲が対象となり(後略)」(※編集部注:「μm」はマイクロメートル、「nm」はナノメートル。0.001マイクロメートル=1ナノメートル=10億分の1メートル)

つまり、エアロゾルは、空気中に浮遊する、直径が0.001μmから100μmの粒子、ということになります。

エアロゾル感染の定義は世界的にもあいまい

実は、今回真偽が問題になっているエアロゾル感染について、世界的に統一された定義は存在しません。日本では、感染症は「接触感染」、「飛沫感染」、「空気感染(飛沫核感染)」、「媒介物感染(水や食品、血液、虫などを媒介した感染)」という4通りの方法で広がると見なしており、エアロゾル感染は感染経路として定義されていません[注5]

日本において、飛沫感染と飛沫核感染は、粒子径が5μm以上か、5μm未満かで区別されています。飛沫から水分が蒸発したものを飛沫核と呼び、すぐに地面に落ちる飛沫とは異なり、空気中に長く浮遊して吸入した人を感染させる(空気感染)と考えられています([注6]の図参照)。

WHO(世界保健機関)も、ほぼ同様の定義を示しています[注7]。ここでは、

●Droplets(飛沫):Respiratory aerosols > 5 μm in diameter(呼吸性エアロゾルで、直径は5μm超)
●Droplet nuclei(飛沫核):Respiratory aerosols ≦ 5 μm in diameter(呼吸性エアロゾルで、直径は5μm以下)

としており、直径5μm超か5μm以下かで両者を区別しています。ただし、WHOは飛沫も飛沫核もエアロゾルと認識しているようです。確かにこれら粒子はいずれも、サイズからいうとエアロゾルに該当します。

また、WHOの定義が世界中で用いられているかと言えば、そうではありません。欧州の論文の一部は、飛沫を吸引性(inspirable)飛沫(直径10~100μm)と吸入性(respirable)飛沫(直径10μm未満)に分け、「前者が気道上部の粘膜に付着して発生する感染を飛沫感染、後者が呼吸により気道に入るために生じる感染をエアロゾル感染(飛沫核感染とも呼ぶ)」、としています[注8、9]

つまり、空気中に存在する様々な直径の粒子が、サイズからいえばエアロゾルに該当し、飛沫も飛沫核も、エアロゾルと呼ばれることがあり、国際的には、飛沫感染と飛沫核感染の境界となる粒子径さえも統一されていない、ということになります。

ただし、世界中で認識が一致しているのは、咳やくしゃみとともに放出される大きな粒子は、短い距離しか飛ばず、短時間で床に落ちるが、小さくなった粒子は長時間空気中に留まり続け、部屋中に広がって空気感染を引き起こす、という点です。

[注1]https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_5856308

[注2] https://language.chinadaily.com.cn/a/202002/10/WS5e40c505a310128217276446.html

[注3]http://en.nhc.gov.cn/2020-02/19/c_76703.htm

[注4]https://www.jaast.jp/hanashi/

[注5]http://amr.ncgm.go.jp/general/1-1-1.html

[注6]http://www.showa-u.ac.jp/sch/pharm/frdi8b0000001sb0-att/a1437547184715.pdf

[注7]https://www.who.int/csr/resources/publications/WHO_CDS_EPR_2007_6c.pdf

[注8]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2894888/

[注9]https://www.nature.com/articles/s41598-019-38825-y

新型コロナの飛沫核感染は未確認

これまで、新型コロナウイルスの飛沫核感染の発生は確認されていません。それでも、インフルエンザ予防策と同様、室内の換気は、感染リスクを減らすために役立つと考えられています[注10]

新型コロナウイルスが、人に感染する際に利用する受容体は、SARSコロナウイルスと同じであることが既に示されています。したがって、感染経路はSARSと同様である可能性が高いと考えられています。SARSの場合には「特別な条件下での空気感染なども完全に否定することはできませんが、可能性はかなり低いと考えられています」とされていました[注11]

医療現場ではエアロゾル感染のリスクが高い

前述したように、医療現場では、気道吸引や気管内挿管、検体採取などの医療行為の最中に、さまざまな粒子径の飛沫が生じる可能性があります。したがって、新型コロナウイルスと闘う医療従事者は、医療行為の最中に発生する可能性のある、ウイルスを含んだエアロゾルの発生を想定して細心の注意を払っています[注12]

WHOが2013年に発表した「新型コロナウイルス感染症の疑い例と確定例に対する医療における感染予防と感染管理」[注13]には、「エアロゾル発生手技とは5μmより小さい粒子を含むさまざまなサイズのエアロゾルが発生する全ての手技と定義される。現在のエビデンス、なかでも最良のエビデンスはSARSコロナウイルス感染症の研究から得られたものだが、気管内挿管によって病原体が伝播していることについては一貫性があることを示している」とあり、医療従事者はそうした場面でN95マスクを含めた対応をしています。

患者の嘔吐と下痢の際のエアロゾル発生には注意が必要

私たちの日常生活においても、ウイルスを含むさまざまな粒子径のエアロゾルが発生する危険性がある場面が2つあります。それは、新型コロナウイルス感染患者が嘔吐した場合と、下痢をしている場合です。嘔吐物、便にコロナウイルスが含まれている可能性は高いです。

嘔吐物の処理は、ノロウイルス感染者が嘔吐した場合と同様に行う必要があります。

また、患者が排便後に、便器に蓋をかぶせずに流すと、ウイルスを含むエアロゾルが舞い上がり、しばらく空気中に漂う可能性があります[注14]。もし、洗面台も同じ空間にあるなら、歯ブラシやうがい用のコップに付着する可能性さえあります。

トイレを含む家庭内や施設内の消毒方法については、東京都健康安全研究センター[注15]などのページを参考にしてください。

日本でエアロゾル感染する病気といえば「レジオネラ症」

ちなみに、日本でエアロゾル感染する病気といえば「レジオネラ症」が有名です。温泉施設などでの「レジオネラ症」の患者発生に関するニュースを耳にしたことがある人も多いと思います。レジオネラ症は、河川、湖水、温泉や土壌などに生息しているレジオネラ属菌による細菌感染症で、重症の肺炎(レジオネラ肺炎)を引き起こすことがあります。

厚生労働省のサイト[注16]では、以下のように説明しています。

レジオネラ症は、主にレジオネラ属菌に汚染されたエアロゾル(細かい霧やしぶき)の吸入などによって、細菌が感染して発症します。レジオネラ属菌はヒトからヒトへ感染することはありません。

1.エアロゾル感染
 レジオネラ属菌に汚染されたエアロゾルを吸入することによって感染します。代表的なエアロゾル感染源としては、冷却塔水、加湿器や循環式浴槽などが報告されています。

レジオネラ症の病原体はレジオネラ属の細菌で、ウイルスではありません。肺の奥の肺胞までこの細菌が達した場合に、肺炎を引き起こすため、エアロゾルの直径がおおよそ5μm以下になると感染すると考えられています[注17]

上記の厚生労働省のサイトでは、感染予防策として「超音波振動などの加湿器を使用するときには、毎日水を入れ替えて容器を洗浄しましょう」と述べています。

手洗いや消毒に加え、換気にも注意が必要

新型コロナウイルス感染症は、現時点では先が見えないために、SNSでは、悲観的な情報ばかりが大きく取り上げられる状況になっています。しかし、不確かな情報にあわてることなく、持病があればしっかり治療をし、免疫力を落とさないよう健康的な生活を続けながら、感染する可能性がある場面をできるだけ避け、正しく予防することが大切です。今回のエアロゾル感染に関する報道は、インフルエンザ予防策のひとつとして換気が大切だったことを思い出させてくれました。これまでの手洗いや消毒に加えて、換気も適切に実施していくことが大切です。

[注10]http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/assets/diseases/respiratory/ncov/disin.pdf

[注11]http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/QA/QAver2G002.html

[注12]https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-01-200210.pdf

[注13]http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/1305_coronavirus_who_j.pdf

[注14]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4692156/

[注15]http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/assets/diseases/respiratory/ncov/disin.pdf

[注16]https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00393.html

[注17]https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/86/11/86_11_2039/_pdf

大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

[日経Gooday2020年2月20日付記事を再構成]

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