進化が乏しかったバー用品に見付けた商機

バーテンダーから助言をもらううち、意外な知見も得た。「シェーカーをはじめ、大半のバー用品は何十年も同じ形で、変化がなかった。バーテンダーに尋ねても、『昔からずっとこの形』と、疑問を持っていなかった。この長きにわたる停滞は、かえってチャンスだと感じた」(横山氏)。ワイングラスや陶磁器は有名ブランドがいくつもあるが、バー用品のブランドを挙げられる人は珍しい。「バーテンダーの腕前の陰に隠れ、顔がない道具だった。ブランドが確立していないから、新規参入でも戦えると思った」

金型を磨く工程から、手仕事技を掘り起こした

内面の磨きに特化しているが、外見のデザインにも、ものづくり企業ならではの改良を施している。たとえば、一般的なシェーカーはボディーの肩が張り出しているが、「バーディ」ではなだらかなラグビーボール形だ。「振った際、内部で不規則な流れが起きるうえ、肩部分に当たって氷がくだけやすい」とデメリットを分析。肩をそぎ落とした。キャップ部分の山の頂には丸みを持たせた。

「氷がなめらかに回るようになったおかげで、氷が溶けすぎず、水っぽくなりにくい。シェーキングの動作は基本的に縦方向なので、内面の磨きも縦方向に加工し、スムーズな流れを助けている」

「本業の金型加工では、パーツのこすれあうストレスを減らすのが大事。加工の際にエネルギーを逃がす技を蓄積してきた。何かが金属に当たる際のストレスをやわらげるというノウハウはシェーカーにも生きた」

シリーズ全体のデザインはシンプルさを極める方向に向かっている。ラインアップを見渡して感じられるのは、機能美を突き詰めた先にたどり着いたスタイリッシュなたたずまいだ。実は横山氏は大学の史学科で美術史を修めている。機能性と美意識が調和するポイントを見極める目はアートから学んだ。「デザインをジャッジする覚悟は持っているつもり」という。実家の町工場に、東京で学んだ「デザイン経営」を持ち込んだ成果が「バーディ」だともいえそうだ。

しかし、祖業から離れないスタンスは一貫している。目指したのは「ものづくりからものづくりへ」のスピンアウトだ。タンブラーをガラスではなく、ステンレスでつくるところにも、金属加工へのリスペクトがうかがえる。「ステンレスはガラスと違って割れないのに加え、早く冷える、重ねやすい、持ち運べるなどの長所がある。でも、バーディにとって最大のメリットは、本業の磨き技術を注ぎ込める点だ」。コア技術への誇りとこだわりは、ものづくり企業が多角化を試みる際の手本とも映る。

人工知能(AI)やロボット、3Dプリンターなどが製造業の現場を様変わりさせつつある。しかし、横山氏は新規事業であえてハイテクを遠ざけ、アナログに向かった。「味覚はアナログ。手仕事もアナログ。だから、相性がいい」。デジタルトランスフォーメーションの波に、自動車部品製造で培った匠の技であらがう「3代目三河のエジソン」がきょうもバーで頼むのは、いつもの「酔えないギムレット」だ。

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