AO・推薦入試では生徒の何が評価されるのか。一般的に1次試験で「志望理由書」や「調査書」のほか、経験や資格などをまとめた「活動報告書」あるいは「ポートフォリオ」と呼ばれる自己PR資料を提出。2次試験で面接や小論文が課されるケースが多い。「あなたがいかに魅力的な人物なのか」や「中学卒業時に比べいかに人間的に成長したか」を自由に表現することを求められたり、「ものの見方や考え方に大きな影響を及ぼした人物や書物について説明してください」などと問われたりする。

冒頭の女子生徒が志望理由書に記したのは「ファッション業界の新たなビジネスモデルをつくる」との夢を抱くまでの話が中心。ファッションへの興味から高2の夏休みに英国の芸術大学に短期留学し、そこで現地の女子学生から、人気のファストファッションの裏に児童労働や環境汚染などの問題が潜んでいることを教えられ、問題意識を持ったことなどを書き込んだ。ただ「そもそも、あまり長い文章を書いたことがないし、自分の経験や興味、問題意識を将来の夢や大学で学びたいテーマにどう結びつければいいのかも全くわからず、最初は途方に暮れました」と振り返る。

必要なのは「自己分析」「プレゼン能力」

どんな対策が実際に必要になるのか。受験生や保護者の声で目立つのは「自己分析」や「プレゼン能力磨き」だ。帰国子女で複数のAO入試を経験した女子学生の母親は「娘がある時『私の軸は……』なんて言い出してびっくり。私は仕事で就活生に会うことが多いのですが、娘が使い出した言葉や悩んでいることが、彼らとまったく同じで驚きました」と話す。

AO・推薦入試をめざす生徒の間で存在感を増しているのが専門の講座を開いている塾や予備校だ。「問い合わせや受講者数は前年比3割増」という大手の早稲田塾では、生徒を中心に担任や講師がチームを組み、興味・関心の深掘りや将来ビジョンの明確化を促し、志望理由書や面接で役立つ表現力も育成するという。各分野で活躍する大学教授ら有識者を招く「未来発見プログラム」には、竹中平蔵・慶大名誉教授との「世界を知るサマースクールin 香港」や、ピーター・F・ドラッカー伊藤雅俊経営大学院の教授陣によるレクチャーもある。同塾事業本部の大沢雅紀本部長は「AOで難関大学を狙うには、高3から小手先の小論文・面接対策などをやっていたのでは太刀打ちできない。できるだけ高1、可能なら中3の終わりから来てほしい」と訴える。

保護者が必死に子どもに伴走するケースもある。AO専門塾に高2から週3回通い、春休みや夏休みの特別講座も受講したという女子生徒の母親はこう話す。「特に大変だったのが『ポートフォリオのデザイン講座』。いいものに仕上げるために、パソコンやイラストレーターなどのソフトまで買いました」。講座は6日間、朝10時から夕方4時までみっちり。その日に添削指導された内容を翌朝までに修正しなければならず、中身について一緒に悩んだり、過去にもらった賞状のコピーのためにコンビニまで走ったり、未明まで親子で格闘した。「学校ではサポートしてもらえないので、どうしても塾に頼らざるを得ず、2年間トータルで約300万円を注ぎ込みました」という。

受験対策の過熱は、高校生が「志望理由書や活動報告書に書くネタになるから」という理由でビジネスコンテストやボランティアに参加する本末転倒な事例も生んでいる。これには「一部の大学では『やったこと』ばかりを聞いて、そこから何を学び、将来にどう生かそうとしているかを聞き出す工夫ができていない」(前出の後藤さん)と大学側の問題を指摘する声もある。

慶大SFCなどをAO受験した私立高3年の女子生徒は「結果的には不合格だったけど、小中高で自分が何をやってきたかを振り返って整理していく中で、自分の価値観を見つめ直すことができた。AOを経験していれば就活は怖くないかもしれません」と語る。学力に偏重しない「育てる入試」とも呼ばれるAO・推薦入試のプロセスが、「受験エリート」を生み出すような旧来型と同じようなものになってはいけない。生徒だけでなく、高校や大学の現場の意識も問われている。

(ライター 石臥薫子)

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