腹ぺこの中学生たちであるが、すぐに弁当に手を付けるわけにはいかない。当番の生徒が「食作法(じきさほう)」とクラス全体に呼びかける。するとクラスメートたちが手を合わせ、「ほんとうに生きんがために今この食をいただきます。与えられた天地の恵みを感謝いたします。いただきます」と唱和する。毎日この「食作法」という儀式を欠かさない。
中学生のうちは週1回、校内にある明照殿というお堂で「宗教」の授業がある。建学の精神である三綱領の解釈から、仏教や法然上人について、ガンジーについて、マザー・テレサについて、核兵器や環境問題について、宗教という観点から学び、生徒同士でディスカッションを行ったり考えをリポートにまとめたりする。
そのほかにも折々の儀式がある。秋には中学の全生徒で、京都にある浄土宗総本山知恩院を参拝し、音楽法要を勤める。創立記念日の11月7日には追悼会(ついとうえ)という法要を学校の講堂で行う。これも中学生は全員参加だ。夏休みには中3の希望者が鎌倉の光明寺で2泊3日の研修を行う。そのほか仏教三大聖日にはそれぞれ校長による法話が行われる。
高3の冬には「卒業授戒会(そつぎょうじゅかいえ)」がある。講堂で、一人一人戒律を授かる厳かな伝統行事だ。このときばかりは生徒たちも一切のおふざけなし。そのかわり卒業式ではたくさんのおふざけが用意される。
ゆるさによって生徒を守る伝統
中学のうちは頻繁に仏教の教えに触れ、自分および世の中を見る感性を養う。いまどき珍しい、規律正しい仏教校という印象である。しかし「高校になると強制力はゼロになります」と高校教頭の西形久司さんは笑う。続けざまに「彼らは1日4食も5食も食べていますからねぇ。最寄りの駅から10分ほどの道のりにコンビニも各種取りそろえてお待ち申し上げておりますし、たこ焼き屋さんやパン屋さんもございますから」と冗談を言う。
中学と高校でがらりと雰囲気が変わるのだ。「中学のうちは早弁を禁止するなどの制約をある程度設けておいて、高校で一気に『自分の頭で考えろ』と言われます。高校生になると最初は『やったー』と自由を謳歌するのですが、次第に『あれっ、いつまでもこんなことしているの、おかしいよな』と感じて、セルフコントロールしはじめます」と西形さん。ちなみに西形さんも同校出身だ。
以下の3カ条を三綱領として掲げる。
1.明照殿を敬い、信念ある人となりましょう。
2.勤倹誠実の校風を尊重して、よい個性を養いましょう。
3.平和日本の有要な社会人となりましょう。
「中学に入学すると、『平和日本の有要な社会人となりましょう』と徹底的にたたき込まれます」(西形さん、以下同)