山下達郎の曲、どこを切り取ってもサビ(川谷絵音)ヒットの理由がありあまる(19)

日経エンタテインメント!

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今起きている、日本の1980年代シティポップの海外を巻き込んだ再ブームを語る上で最も外せない人物。そう、山下達郎さんだ。僕が彼から受けた影響は計り知れない。そんな敬愛して止まない達郎さんについて今回は書きたいと思います。

まず、シティポップ再ブームでの火付け役になった曲は、竹内まりやさんの『PLASTIC LOVE』(84年)だろう。YouTubeから口コミで広がり、2017年に非公式にアップされたこの曲の再生回数は2400万回を記録。この曲のアレンジとプロデュースをしているのが達郎さんであり、彼のレコードを海外から日本に買いに来るマニアもいるくらいだ。海外人気の象徴的な出来事として、19年にリリースされ全米1位となったタイラー・ザ・クリエイターのアルバムに収録する『GONE,GONE/THANK YOU』という曲で、達郎さんの『Fragile』がサンプリングで使われていたことがあった。つまり達郎サウンドは、完全に海外のリスナーの耳を刺激しているのだ。

達郎流のファンクサウンドとは?

達郎サウンドって何だろうと考えると、“ファンク”という言葉が出てくる。ファンクとは、16ビートに乗せて体が勝手に揺れるような音楽で、ループフレーズが多い。その反面、いなたく(泥臭く)なってしまいがちでそのいなたさに慣れていない若者はそんなにハマらない傾向にある。ただ達郎さんの場合、歌メロがキャッチーであり、誰にも似ていない唯一無二の声で歌うため、どんなサウンドでも心地よくなるのだ。というか達郎さんのサウンドにはいなたさがない。ギターはどこまでも透き通っていて、それでカッティングするのだから、そのたまらない高揚感の中毒性に何度もリピートしてしまう。

サブスクリプションを達郎さんは解禁していないが、レコードで聴くと音の良さが本当によく分かる。サブスクを解禁しないままでもいいいかなと思う、唯一のアーティストかもしれない。してほしいけど(笑)。達郎さんはずっと自分の音楽を曲げず、音楽のクオリティーを追求している。「G♯の音が出づらい」と、途中でライブを中止したこともあった。その完璧なまでのストイックさは時代を常に追い越していて、少しずつ時代がそれに追いついてきた。

今回の『RECIPE(レシピ)』に話に戻すが、この曲もずっとクリーンなギターカッティングが鳴るループフレーズが気持ち良い曲で、どこを切り取ってもサビなのだ。もちろん「しあわせのレシピで~」の部分がサビなわけだが、Aメロもサビとテンションがそこまで変わらず、かつサビに負けないメロディーなのだ。オケがループフレーズなのも相まって、いい意味でサビとメロの変化をそこまでつけていない。

タイアップというのは、どこかしらを切り取られるわけだが、達郎さんの曲はどこを切り取っても場を彩れる強さがある。代表曲『クリスマスイブ』も「雨は夜更け過ぎに~」の歌い出しはあまりに有名だが、「心深く 秘めた想い~」の部分も強く、ずっとサビなのだ。ドラマタイアップにこんなに向いているアーティストが他にいるだろうか。無駄なものを削ぎ落としたサウンドは画を邪魔しない。一定のテンション感を保っているため、どの部分が劇中で流れてもセリフ中はBGMになり、セリフが終わればメロディーが心に突き刺さる。

サカナクションの『忘れられないの』も達郎さんのこういう特徴をうまくつかんだ「どこを切り取ってもサビ手法」(勝手に命名)が使われている。米津の『Lemon』も鼻歌で急に歌えと言われたら歌い出しの「夢ならば~」を歌う人と、サビを歌う人に分かれるのではないかと思う。これも同じような手法だ。まあ手法というより、強いメロディーをどれだけ生み出せるかの才能になるのだが。何はともあれ達郎さんのタイアップは間違いない。というよりすべてが間違いない。達郎さんの音楽のレシピは今後もたくさんの新しい音楽を生み出すでしょう。僕もその1人になれてたらいいな。

川谷絵音
1988年12月3日生まれ、長崎県出身。ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoroといったバンドのボーカルやギターとして多彩に活動中。ゲスの極み乙女。は、4月に5thアルバム『ストリーミング、CD、レコード』をリリースする。

[日経エンタテインメント! 2020年2月号の記事を再構成]

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