軽くて薄いSurface Pro X 通信内蔵で使い勝手向上
西田宗千佳のデジタル未来図
マイクロソフトが2020年1月に発売したSurface Pro Xは、キックスタンドを内蔵したタブレット型のWindowsパソコンである「Surface Pro」シリーズの最新モデルだ。だが、LTE通信機能(携帯電話回線での通信機能)を備えるなど、既存のSurface Proと比べて違う部分の多い、特別な製品になっている。
より「タブレット的」になったSurface Pro X
LTE通信機能については、後ほど詳しく解説するとして、まず、他のSurface Proより薄くて軽く、画面が大きい。Surface Pro 7と比べて厚さで1.2ミリ薄く、重量で16グラム軽いという差は、数字の上では大きなものではないが、画面が13インチとPro 7の12.3インチより一回り以上大きく、ぐっと「大きくなったのに軽く、薄くなった」ように感じる。
2in1のSurface Proシリーズは純粋なタブレットのiPadと比較すると大柄で分厚い印象があったが、Surface Pro Xについては、厚みやディスプレーの「縁」の細さなどもあり、かなり近い印象になった。使ってみると、「パソコンのソフトがそのまま使えて、ブラウザーなどもパソコンのフル機能のものが搭載されているのに、機器としての手触りはよりタブレット的」になった感覚を受ける。
薄いボディーを実現するには、消費電力が少なく、発熱も小さなCPU(中央演算処理装置)を使う必要がある。これまで、Windows系タブレットでそういう製品を作ろうとすると、性能の低い「Atom系」技術を使ったCPUが採用されていた。だがそれは結果として、低価格ではあるが性能的に不満の残る製品を生み出すことになっていた。
Surface Pro Xでは、パソコンで広く使われてきた米インテルや米AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイス)のx86系CPUではなく、スマホ/タブレットと同じ「ARM系」技術を使った「Microsoft SQ1」というオリジナルのCPUが採用された。これは、スマホ/タブレットで大きなシェアを持つ「Snapdragon」シリーズを作っているクアルコムとの共同開発に基づくもので、パソコン向けに性能を強化したARM系プロセッサーだ。ソフトは既存のWindows用のものを「エミュレーション」する形で利用する。というと、動作が遅くなるように感じるかもしれないが、実際のところ、体感上問題は感じない。「64ビット版のWindowsアプリが使えない」という制約があるため、米アドビ製の写真整理・動画編集ソフトや、最新のゲームなどが動かないものの、マイクロソフト・オフィスを含めた多くのアプリは特に問題なく使える。
増えている「LTE内蔵パソコン」
そして、クアルコムとの共同開発によるプロセッサーを採用したメリットの一つが冒頭に挙げた「LTEの内蔵」なのだ。SIMカードスロットがあり、ここにSIMカードを差し込むことで、携帯電話回線を使って通信ができる。スマホや、LTE内蔵のタブレットと同様に、これだけで屋外などでも通信ができるのだ。
画面右下の「接続」アイコンをクリックすると、通常のWindowsではWi-Fiの一覧が表れるが、そこに「携帯電話回線」での接続項目が表れる。これで接続するだけで通信できるようになる。
パソコンから屋外で通信する方法としては、スマホの通信機能を介する「テザリング」もあるが、使ってみると、両者の使い勝手は大きく違う。パソコンを開いた瞬間からネットが使えるものと、パソコンを使い始めるときにスマホを操作して、Wi-Fiの接続を待って……という手間がかかるテザリングとでは、手軽さがまったく異なるのだ。
こうした利点は、これまで主にLTE搭載機種が多いタブレットのものだった。筆者もLTE接続機能を内蔵した「セルラー版」と呼ばれるiPad Proを日常的に持ち歩いて使っているが、移動中はパソコンを開くよりもiPadを開く方が多い。「すぐに通信ができる」利点が大きいからだ。
実のところ、LTE接続機能を持ったパソコンは、Surface Pro Xだけではない。Surface Proシリーズには過去にも、LTE接続機能を持ったモデルが存在する。また、VAIOの「VAIO SX12/14」シリーズや、レノボの「ThinkPad X1 Carbon」シリーズ、パナソニック「レッツノート」の一部機種など、LTE接続機能を内蔵したモデルを選択できるモバイルパソコンも増えている。ただ、その多くは企業向けだ。LTE接続機能を追加すると価格が上がるので、「どこでもすぐに使える」メリットを訴求しやすく、セキュリティー上の要件も満たしやすい企業向けから増えているのだ。
Surface Pro Xも、本体価格が14万円台から、専用キーボードをセットにすると16万円ほどと、決して安価なパソコンではない。だが、持ち歩いて使うことを考えると、LTE接続のような機能は「あってしかるべき」と感じる。
マイクロソフトはSurface Pro Xに、「今後のWindowsパソコンで標準的に必要とされる要素」を積極的に搭載している印象を受ける。薄型で狭額縁のボディー、低発熱、タッチとペン対応、カメラ内蔵、そして「LTE内蔵」が、この先のパソコンのあり方だとアピールしているように感じられるのだ。
パソコンの「通信内蔵」に追い風
実際、携帯電話網による通信機能を内蔵することについては、通信サービス側から見ても追い風が吹いている。
MVNO(仮想移動体通信事業者)のような低価格通信サービスの存在はもちろんだが、大手が提供するサービスについても、昨年以降の料金プランの変化による影響が大きい。
例えば、筆者はNTTドコモの「データプラス」というサービスを使っている。これは、月額1000円で「タブレットなど用のSIMカード」の発行を受け、スマホ向けの通信プランでの月内データ通信量をシェアできる、というもの。「ギガホ」に入っていると、今は毎月60ギガバイトまで使えるので、スマホだけでは使い切るのも難しいが、タブレットなどとセットにできるなら有効活用できる。MVNOに比べ、使うデータ量によっては割高になる場合もあるが、通信速度がより安定しているというメリットがある。
今後5Gの時代になれば、通信はより「使い放題」に近い方向になる。そうなると、そのデータ通信量をスマホだけでなくパソコンでも、というニーズは増えるはずだ。5Gの通信速度は、スマホ以上にパソコンで魅力的になる可能性が高い。
だとすると、今の「LTE内蔵パソコン」は、来るべき5G時代を先取りした存在、ということもできる。
そう考えると、「マイクロソフトはSurface Pro Xに、今後のWindowsパソコンのあり方を託している」という説がより現実味を帯びてくる。
フリージャーナリスト。1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。
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