顧客の苦情が身に染みた リーダーに求められる誠実さ島津製作所社長 上田輝久氏(上)

「2代目源蔵は明治期、『日本のエジソン』と呼ばれ、170以上の特許を持っていました。それは課題に向き合い、逃げずに考え抜いた結果だったのだと思います。島津の創業当時は、さまざまな製品があります。たとえば、グンゼ記念館(京都府綾部市)にはカイコの繭を重さで雄と雌に分ける装置があります。おそらく、いろいろな相談を受けて悩みながら、アイデアをひねり出したのでしょう。彼は1917年には米国から輸入した電気自動車で京都市内を乗り回していたという進取の気性にあふれた人物でした」

――歴史ある企業のトップとして、今後の成長へ向けて意識していることは何ですか。

「最も意識していることは、新しい技術を理解して、それを会社に取り込むことです。私は技術系の出身なので、そこは強みがあります。当社の社是は『科学技術で社会に貢献する』です。科学としての発見と、技術としての発明に目を向ける――という考えを大事にしています」

国内外、社内外を問わず最先端技術を学ぶ

「ブレーンとまではいいませんが、国内外、社内外問わず有識者や技術系社員と定期的にコンタクトをとり、最先端の技術を学んでいます。例えば、アルツハイマー型認知症を発症するメカニズムはどのようなもので、検査すると何がわかるのか――といったことを知っておくことが重要なのです」

「共同研究する相手を自ら探して、新たな知識を得ることもあります。そうした社外の人材には社内講演をお願いするようにしています。講演では私も最前列に座って積極的に質問します。書籍で勉強するよりも、講演のほうが手っ取り早くわかりますから。講師も気合が入るので、わかりやすく説明してくれます。講演内容は社内サイト『社長の扉』に掲載して発信しています」

「新しい情報を仕入れて、自分なりに頭のなかで加工し、『ビジネスに生かすならこうではないか』と考えています」

米カンザス大学と島津製作所が立ち上げた共同研究室に派遣された。(1993年2月、写真左が上田氏)

――マネジメントのトップがなぜそこまで「技術」を学ぶのですか。

「当然、トップとしての私のミッションはいい業績をあげることにあります。ただ、当社の製品はさまざまな技術を基礎にしていて、技術や経験の長年の積み重ねがなければ参入することが難しい製品が多いのです」

「例えば、当社の主力製品のひとつで、化合物の構造を高精度に特定できる『質量分析計』は大変複雑な装置です。その機能をどのように進化させて、業績に結びつけるかは経営上の最重要課題となります。一段の成長へ向けて、従来のやり方から抜け出すためにはトップとしてリスクをとる必要があります。そうした判断を下すためには、最先端技術を把握しておくことが不可欠なのです」

――新しい技術を学ぶ重要性に気づいたきっかけは。

「実は全く違う道筋から重要さに気づかされました。07年ごろ、分析計測事業部の副事業部長を務めていたときのことです。ある大学教授から私あてに電話があり、『学会で話をしていたら、どうも島津の評判が悪い』と聞かされました。大学や企業が当社に共同プロジェクトを持ちかけても、提案を批判するばかりで一緒にやろうとはしないというのです」

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