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窪田正孝 主役の感覚、30代の今は20代と全然違う

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NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

2020年3月からスタートするNHK連続テレビ小説『エール』に主演する窪田正孝。彼が朝ドラ作品に出演するのは10年の『ゲゲゲの女房』、14年の『花子とアン』に続いて3回目となる。

窪田の初主演は06年の深夜ドラマ『チェケラッチョ!! in TOKYO』。初連ドラにして主演の抜てきだった。その後も08年の『ケータイ捜査官7』、10年以降の映画『ガチバン』シリーズなどコンスタントに主演作には恵まれるものの、知名度はなかなか上がらなかった。

そうしたなか爆発的に注目が集まるきっかけとなったのが、2度目の朝ドラ『花子とアン』。ヒロインに思いを寄せる幼なじみの朝市役で反響を呼び、朝市を主人公にしたスピンオフドラマ『朝市の嫁さん』も誕生。そこから間髪入れずに放送が開始されたドラマ『Nのために』で再びヒロインを一途に思い、窮地の状態から救い出そうとする成瀬役を熱演したことで"Nロス""成瀬くんブーム"などの言葉を生むほどの人気を得る。さらに15年の『デスノート』では悪事に手を染める主人公・夜神月役の凶暴性を、ドラマの枠に収まりきらないほどのすさまじい気迫の演技で魅せて話題に。実力派俳優としての地位も確立した。

そうして迎えた3度目の朝ドラ。しかも14年の『マッサン』の玉山鉄二以来6年ぶりの男優主演。「今年の主役」の言葉を飾るにふさわしい大役を前に、窪田は何を思うのか。

30代で変わった主役の在り方

『エール』で窪田が演じるのは、昭和という激動の時代に数々の名曲を生み出した福島出身の作曲家・古山裕一。愛知県の豊橋に住む女学生の関内音(二階堂ふみ)と出会い恋に落ち、彼女に支えられながら音楽の道へと進んでいく。

「今は撮影に入って3カ月ほどで、やっと第1段階のロケが終わり、スタジオでの撮影にも入ってきたかなという状況です。音楽を題材にした作品なので撮影の合間にも指揮やハーモニカなどをすごく練習していますし、セリフも多いので、ひたすら覚えては出して、覚えては出しての繰り返し。けっこう宿題が山積みで…大変です(笑)。ただ前の朝ドラでご一緒していた現場の方が多くて、『あ、お久しぶりです!』というやりとりがけっこうあって、スタッフさんとの交流も多く生まれています。みなさんとてもいい方々で、助けられていますね」

何度も朝ドラを経験しているが、今回は初の主役。感覚も違ってくるものなのか。

「そうなんです。僕、大河ドラマ(『平清盛』12年)にも出させてもらったことがありましたけど、朝ドラも大河もこんなに現場にいることがなかったので、ずっといるってこんなに大変なんだなって。これは朝ドラのカラーでもあるし、序盤は裕一と、音さんとの話がメインになってくるからということもあるんでしょうけど、裕一って基本的に何もしてなくてもカメラを向けられていて、どこにでも出ているんです。なんというか…周りのスタッフさんたちが本当に僕の役のために、すごく振り回されている。それを見ているのがだんだん、申し訳なくなってきています(笑)。

セットでの撮影では、ずっと環境は変わらずに話だけはどんどん変わっていってバラバラにまとめ撮りをしていくので、そのつど気持ちの整理をしないといけない。時間が限られているなかでそれを行うのはすごく難しいし、やっぱり同じ演技はできない。そこでちゃんと、新しい動きを見つけていかないと。僕は今回主役ではありますけど、(二階堂)ふみちゃんが演じるヒロインと二人三脚でやっているようなところもあるので。それを考えると、1人でこれをされてきた歴代ヒロインの方々は本当にすごいというか、強いというか、偉大というか…! もちろん撮影は楽しいですが、その立ち位置の重みは痛感しています」

『エール』からは働き方改革の一環により、放送が月~土曜から月~金曜に変更。現場の負担を軽くする狙いがあるというが、その変化は窪田自身も感じているという。

「スタッフさんが全部で3チームくらいあるんです。約1年間ある撮影のなかでみなさんがチームごとに入れ代わり立ち代わりになっていくシステム。おかげで撮影状況的にまだゆとりがある感じです。これから佳境になるにつれまた環境が変わってくるかもしれないけど、キャストのみなさんとも、けっこういろいろお話できています。悩みごとをお互いに言うというか…だべっているというか(笑)。

前室(キャストの待機場所)での時間はすごく大事だと思うし、むしろ積極的に差し入れなどを出し合ったりして、とにかく環境を良くしていかないとダメだ、『主役をする』というのはそういうことだなって、自分は思っています。作品のことを四六時中考えて、セリフを言うとか役として動くというのは、もはや当たり前で。それよりも僕は一緒にやっていく方々がやりづらくない環境を作っていかなきゃいけない。だから常に『あ、この人はきっと話し掛けられたら嫌な人なのかな』とか探ることもしています。スタッフさんも役者さんも関係なく、全員に対して」

「ずっと主役をやりたいという気持ちはあったし、今もやらせていただけてすごくうれしい。やっぱり主役のときにしか味わえない感覚って、すごくあるんですよね」と窪田。彼が言う"主役"は、10代や20代で経験したものと30代に入った今に体感するものとでは、全く違っていたという。

「『物語をこの先どうしていったらいいと思いますか』という、制作側の話にも自然と加わるようになりました。自分はもともと演出面にも興味があって発信したいという気持ちがあったので、『こういうことをやってみたら面白いかもしれないですね』と言って少しずつですけど話が変わっていくのが新鮮で。でも反面、すごく怖い部分もあるんです。みなさんがすごく気を使ってくださるから、自分が言ったことが採用されることが増えたんです。それがたとえ、僕の中では普通に『これってどうなんですか?』と疑問を口にしただけだったとしても。なので、いつも最初に『監督がやりたいことで全然いいですよ』ってお伝えしてから意見を言うようにしているんですけど、その変化は最近すごく感じています。『そうか、年齢を重ねて主役をやるっていうのは、こういうことなんだな』と。20代の頃の主役の感覚と今では、全然違うんですよね。現場が変わっているのではなく、自分が変わっているんだなって知りました」

『初恋』
 孤高の天才ボクサー・葛城レオ(窪田)は、ある日、病院で余命わずかだと知らされる。自暴自棄になるなか、レオは何者かから必死に逃げるモニカ(小西桜子)と遭遇。追手を倒して救うレオだったが、知らぬ内にヤクザの抗争に巻き込まれ…。(2月28日公開/東映配給) (C)2020 「初恋」製作委員会

(ライター 松木智恵)

[日経エンタテインメント! 2020年2月号の記事を再構成]

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