不倫芸能人、崩れるイメージ イクメンの理想と現実
ダイバーシティ進化論(水無田気流)
年初に俳優の東出昌大さんと唐田えりかさんの不倫報道がメディアを席巻した。ネット上では特に女性からの批判が目立ったが、背景には「良き夫・良き父」のイメージで売っていた東出さんが、実際には妻の妊娠中から子供の世話は妻任せで、長期間不倫をしていたことへの失望があるように見える。
本件は「偽イクメン・なんちゃってイクメン問題」に抵触したことも大きかったのではないか。これは夫がイクメンをアピールしながらも、妻から見れば気が向いたとき・余裕があるときだけしか育児参加せず実質的には妻任せの残念な夫を意味する言葉である。
ウェブマガジン「ママテナ」の調査では、夫を「なんちゃってイクメン」だと思うと答えた妻は5割に上る。近年奨励される男性の育休も、実際は「家事育児スキルの低い夫がただ家にいるだけで、妻の負担が増える」などという悲痛な意見を散見する。イクメンの「理想」と「現実」は、なぜこんなにも違うのか。
育児に積極的に参加する男性を意味する「イクメン」の語が使われ始めたのは2000年代のこと。育児に参加したいと考える男性は増加傾向にあり、内閣府の「女性の活躍推進に関する世論調査」(2014)によると、男性の6割が男性の家事・育児参加を「当然」と回答している。
だが家事・育児を妻と平等に分担する男性は、まだまだ少数派だ。男女共同参画白書(令和元年版)によれば、1日当たり行動者率で見ると6歳未満の子供を持つ家庭で共働き世帯の夫は8割が、妻が専業主婦の夫は9割が家事をしない。「育児」の方は、妻の有業無業を問わず7割がやっていない。1日当たりの家事・育児関連時間は夫が平均1時間23分と、妻の7時間34分と比べて極めて短く、他の先進諸国の男性の半分程度の水準である。
現状では「イクメン」の理想はまだまだイメージ先行といえるが、望ましい男性像として大いに奨励されるため、各企業もイクメンのイメージを持つ東出さんのような俳優を好んでファミリー消費市場向けCMに起用する傾向がある。冒頭で述べた不倫への激しい批判は、このイクメンをめぐる理想と現実の落差を露呈してしまったがゆえの「悲劇」だろうか。個人的には、たとえイメージ先行であっても、現実が追いつくための布石となることを願って止まない。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。
[日本経済新聞朝刊2020年2月17日付]
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