「本物のぜいたく」慶大で解探る 老舗テーラー3代目ニッポン発ラグジュアリー(2)

2020/2/17

店をオープンして間もなく、こんな隅谷さんの価値観に共鳴する客が続々と来店した。彼らは、いいものを知り尽くした富裕層や、これ見よがしな服ではなく、自分が満足する服を求めていた人たちだ。ある時、納入先の百貨店で、オーカ・トランクを購入する客がほかにどのブランドを買っているのか調べてみた。すると結果は、エルメス、シャネル、ディオールが上位だった。「クラス感のある人たちが支持してくれていることを知って、改めてびっくりしました」

慶大大学院でブランディングを研究

テイラーアンドクロースは隅谷さんの祖父が戦後、赤坂で興した洋服店だ。祖父の時代は吉田茂元首相やマッカーサー元帥の服を仕立てるテーラーとして名をはせ、父の代では芸能関係の顧客を多く抱えた。隅谷さんは幼少期から最高級の素材に触れ、父からは「いいものを身につけ、いいものを食べていればほんものの良さが分かる」と教育された。やがてテーラーを継いだ隅谷さんだったが、同時に、日本に根ざした新しいラグジュアリーブランドを作りたいと考えるようにもなった。だが、試行錯誤してみても、委託取引による在庫過多、セールの常態化といった様々な壁が立ち塞がった。

アイコン商品のダブルジャケット。ハイゲージ用糸を使いミラノリブを編み上げた。編みと織りのいいとこどりをした(税別8万6000円)
ウールなのだが手触りはカシミヤのような風合い。ドレープが美しい。3シーズン着られるスタイル(ロングカーディガン税別5万8000円)

そこで、ビジネスの問題を改めて見直したいと決意し、2015年に慶大大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)に入学した。SDMの特色は現代社会が抱える諸問題をシステム思考、デザイン思考で分析し、解決策を学ぶことだ。隅谷さんはSDM手法を用いたブランディングを研究テーマに据えて、教授や同期生らと議論しながら、いまの時代に求められる価値などを分析した。その学びを実践する場として事業化したのが、オーカ・トランクだった。

研究の末にたどりついた、現代に求められる価値のキーワードは「本物の追求」「心地よさ」「振る舞い」だった。これらの概念をベースとして、素材を徹底的に吟味した、日常に着る服のイメージをデザイナーらと具体化していった。「描いたデザインの中心にあるのは心地よさ、気持ちよさ。つくるのは、相手への配慮がある、知的なセンスを備えた人に向けた服です。今はもう、俺が俺が、と自分を押し出すようなデザインの時代ではないと思うんです」

夏の装い直前講座
Watch Special 2020
Fashion Flash
次のページ
有識者巻き込み日本のラグジュアリーブランド発信
夏の装い直前講座
Watch Special 2020
Fashion Flash