「本物のぜいたく」慶大で解探る 老舗テーラー3代目ニッポン発ラグジュアリー(2)

「ラグジュアリーを高価、華美とネガティブにとらえる人もいます。でも本来はめったに得られない喜び、ぜいたくを超えた価値といったことなんです」と「JAPAN'S AUTHENTIC LUXURY SYMPOSIUM」で話す隅谷彰宏さん(東京都港区の慶応大で)
「ラグジュアリーを高価、華美とネガティブにとらえる人もいます。でも本来はめったに得られない喜び、ぜいたくを超えた価値といったことなんです」と「JAPAN'S AUTHENTIC LUXURY SYMPOSIUM」で話す隅谷彰宏さん(東京都港区の慶応大で)
「ラグジュアリー」という言葉から連想されるブランドとは。エルメス、シャネル、アルマーニ、ブリオーニ――。それは欧州に集中する。歴史や高度な技術に裏打ちされた最高無比の品質、所有者に夢を与える美しさと心地よさ。そうした条件を備える作り手と創造物が「ラグジュアリーブランド」を公言する。では、日本に同様のブランドを生み出す素地はないのか。そんなことはない。洗練された美意識、精緻なモノづくりの技術、時代を超えて人々を魅了する素材。この国にはあまたの条件がそろう。そして今、まさに「ニッポン発ラグジュアリー」創造への挑戦が始まっている。



コンセプトは「心地よさに徹底してこだわった日常着」

2016年にデビューした紳士・婦人服ブランド「オーカ・トランク」はユニークな背景を持つ。創始者は赤坂の高級テーラー、テイラーアンドクロースの3代目社長、隅谷彰宏さん。高級素材をふんだんに使う「心地よさに徹底してこだわった日常着」というブランドコンセプトは、社会人入学した慶応義塾大学大学院の仲間らと練り上げたものだ。さらに学びの場で抱いた疑問を起点とし、ラグジュアリーの定義を探る組織も立ち上げた。日本が発信しうる本物のぜいたくとは、を追究する実践と思索が確かな歩みを刻み始めた。

赤坂御所の裏。サロンといった風情の「オーカ・トランク」は2016年に開店した(東京都港区)

赤坂御所の裏手にあるサロン風の「オーカ・トランク」に並ぶ服は、どれもネイビーやベージュといったベーシックなカラーで、デザインもシンプルだ。だがその本質はひと目見ただけではわからない。伸縮性に富み、体に美しくフィットする着心地抜群のジャケット。上質な綿の光沢が目を奪うTシャツ。商品を手にとる者の価値観や洗練度、ひいては知性までをも試すかのような上質感に満ちている。

高級素材をふんだんに使うため、人気のジャケットは5万~9万円台になる。店の代表的なジャケットの素材は、再生繊維のテンセルとカシミヤの混紡であるテンセルカシミヤだ。滑らかな肌触りで知られるが、高額なうえ縫製が難しいため日本のアパレルはほとんど使っていない。

オーカ・トランクの代表的な素材であるテンセルカシミヤ。柔らかで心地よい肌触り
ブランドの原点となったTシャツには生地にするのが難しいスビン100%の最上級の糸を使う

今年の春夏物には1メーター9000円以上する生地を使ったTシャツが登場する。表糸がシルク、裏糸がコットン。シルクは数百万円の着物に使われる糸と同じものだ。価格は1枚4万円ほどの予定。一般的なTシャツに使われる素材は、1万円前後する人気ブランドの品でもメーター500円程度のものもある。隅谷さんは「ファッション業界は同質化している。うちでしかできない新しい価値を提案したい」。だから「触った瞬間にわくわくするような生地」を選ぶのだ。

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慶大大学院でブランディングを研究