私はどう育てられたか 作家が育児書を読み知ったこと

日経DUAL

育児書を読んで、自分の過去と照らし合わせる

この頃、私はあくまでも「子ども目線」で、育児書を読んでいました。育児書に書かれている「正しい親の言動」を読んでは、自分の親もこんなふうに接してくれたらよかったのに……と苦い気持ちになることもありました。

育児書を読むことで、自分が「どのように育てられてきたか」という過去と向き合い、それが過酷な環境であったのだと自覚したのでした。

しかし、一方で、さまざまな年代に書かれた育児書を読んでいると、自分の親が「私を育てていた頃」は、今とはずいぶんと違っていたのだな、という気づきもありました。

1960年代に書かれた松田道雄氏の『私は赤ちゃん』『私は二歳』(岩波新書)は、高度成長期のサラリーマン家庭を想定した、当時における「新しい型の育児書」です。

若い夫婦が憧れの団地に住み、子どもが生まれ、しゅうとめと同居をすることになり……という設定が、私の幼少期とまったくおなじで、うちの両親も若いころはこんな生活をしていたのか、と興味深く読みました。

私が子どもであった頃、私の親は若く「未熟だった」のです。

育児書を読んだことで、そのような見方をできるようになりました。

育児書が私の背中を押してくれた

育児書を読みはじめた頃、私は「子どもの立場」で、親の未熟さを恨み、傷つき、苦しさを抱えていました。

物心ついた頃から、将来は仕事に生きると決めており、自分が「母親になる」という選択肢はないものだと思っていました。

もともと体が丈夫ではなく、妊娠や出産は避けたほうが望ましいとされていたというのが表向きの理由でしたが、実際には、親との関係が良好ではなかったので、幸せな親子関係というものがイメージできず、親になる責務を負う自信がなかったのです。

子どもを産まない人生に、迷いはありませんでした。

たとえ、血のつながった子どもがいなくとも、仕事や社会貢献を通して、次世代の育成に関わることはできます。

児童文学の作家としてデビューしたということもあり、たくさんの読者の子たちのためにいい作品を書くことが、自分の役目だと考えていたのです。

ところが、『ハルさん』という小説を書き上げたあと、その心境に変化が起きました。

資料としてあまたの育児書を読み、子育てとはなんぞやということを考え続けた結果、心の奥底に「子育てをしてみたい」という気持ちが芽生えたのでした。

そして、いま、私には9歳の息子がいます。

最初は小説のための参考資料として読みはじめ、それから「自分が子どもの頃の親との関係」と向き合うために読み、最近では「親という立場」で、育児書を読んでいます。

藤野恵美
児童文学作家。1978年、大阪府堺市生まれ。2004年『ねこまた妖怪伝』で第2回ジュニア冒険小説大賞を受賞し、デビュー。「お嬢様探偵ありす」シリーズ(講談社青い鳥文庫)など人気シリーズを手掛ける。児童文学で活躍する一方、『初恋料理教室』(ポプラ社)や『淀川八景』(文藝春秋)など文芸書作品も執筆しており、ほのぼの子育てミステリ『ハルさん』(創元推理文庫)はドラマ化されるなど好評を博した。息子に大切なことを伝えるために書いた童話『しあわせなハリネズミ』(講談社)が発売中!

[日経DUAL 2019年9月4日付の掲載記事を基に再構成]

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