大家さんが親切で引っ越しにくい
女優、美村里江さん
いま賃貸住宅に住んでいるのですが、大家さんがすごくよくしてくれるので、引っ越しにくいです。ほかにも親切にされたり丁寧に扱われたりすると拒否しにくい性格で困っています。自分を強く持つには、どんな心がけが大事ですか。(東京都・30代・女性)
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相談者さんはちょっとしたことでも「ありがたい」と思う、謙虚な性格なのかなと感じました。そのままでいいのではと感じましたが、拒否できずにお困りとのこと。少し違う視点でみてみましょう。
私自身「人の親切は真心からと思いたい」派ですが、無償の親切はそうそう世の中にはないようです。多かれ少なかれ、見返りを求めて相手に感じよく振る舞います。
例えば大家さんですが、これは貴方(あなた)が借り主で、大家さんに収入をもたらす人物だからです。最近、大家業を営む方の著書を読んだのですが、とにかく部屋が埋まっていることが重要で、空き部屋が一つ出るだけで青息吐息だそうです。大家さんが相当な資産家でない限り、大家業の「経営者」ということですね。
その大家さんが部屋を借りていないときも貴方に同じように親切だったら、それは素晴らしい関係。でもたぶん、そんなことはめったにないと思われます。
お店で受ける親切も買ってもらうためですし、シビアに見れば友人関係もそうではないでしょうか。理由は様々でも、お互い何らかのメリットがあるから共にいますし、それは悪いことでありません。
引っ越しを躊躇(ちゅうちょ)するほどの好対応ですから、大家さんは貴方のことを娘のように思ってくれている可能性もあります。その場合でも、そばにいてほしいのは向こうの願望です。それは相談者さんの引っ越したいという願望とつり合っているでしょうか?
簡単に言えば、つり合わなければ一線を引いてOK。逆に、感じのよい借り主さんだと大家さんに思われたい欲求が勝るのならそのままでいい。「ここまで」という線引きの基準は、常にご自分の本心をもとに決めてください。
本心を忘れず、譲るラインをきちんと線引きできれば、ピンチのときに迷わず決断できるし、「私しっかりしてきたな」と自分への信頼が高まって安心感にもなります。人の親切に応えたい気持ちはそのままに、しっかり者の自分をセコンドに付けるような感覚がおすすめです。
全部をビジネス的に見ると世知辛いですが、お互いの損得勘定を踏まえたほどよい距離とマナーは、習得すると意外と快適です。謙虚な心に追加で装備して、うまく使い分けてください。
[NIKKEIプラス1 2020年2月22日付]
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