「職人家電」家メシでプロの味 オムレツや焼き鳥OK
戸井田園子の白物家電トレンドキーワード
より便利に、使いやすくするために「多機能」へ進化してきた白物家電。しかし「最近、あえて単機能にこだわる家電が増えている」と、家電コーディネーターの戸井田園子さんは解説します。家電の進化をキーワードで解説する連載、前回の「脱・休家電」に続いて取り上げるのは「職人家電」です。
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家電の新製品は、これまでさまざまな機能を備えた「多機能性」が重視されてきました。しかし、最近は潮目が変わり、「多機能」ではなく「単機能」が注目されています。
「単機能」といっても、一般的な家電から1つの機能を取り出しただけというわけではありません。1つの機能にこだわり、徹底的にクオリティーをアップさせた家電。いわばその道のプロ、職人しかできないような技術を再現した「職人家電」が増えているのです。
土鍋のおいしさを追求「かまどさん電気」
例えばシロカの「かまどさん電気」。家電メーカー各社からさまざまな高級炊飯ジャーが発売されていますが、「かまどさん電気」は「ごはんを炊く以外のことが一切できない」という炊飯特化家電です。もともと「かまどさん」は伊賀焼窯元の長谷園が販売する人気炊飯土鍋。それを火を使わず電気で炊けるようにしたのです。デザインは、炊飯器というより土鍋そのもの。そのまま食卓に出しても絵になります。おもてなし用の「見せる家電」としても合格点。「毎日食べるごはんはぜいたくしたい」と願う日本人向けの職人家電といえるでしょう。
実は長谷園には家電化のオファーが大手メーカーからもあったのですが、どこも熱源として高級炊飯器の定番であるIHを使おうという提案だったため、「鍋底に金属を入れると土鍋の特性が損なわれる」と断り続けていたそうです。シロカは昔ながらのシーズヒーター(電熱ヒーター)を提案し、かまどの火加減を再現する熱循環構造を長谷園と共同開発して、製品化を実現しました。こういった製品化の過程も職人気質を感じさせます。
ホテルのオムレツを毎日楽しむ「オムレツメーカー」
ドウシシャの「オムレツメーカー HST-702」は、その名の通り、オムレツを上手に作るための職人家電。
オムレツは、簡単に見えてむずかしい料理です。ホテルのレストランのように「ふんわり」「ふっくら」仕上げることは簡単ではありませんし、なにより形が不格好になりがち。でもオムレツメーカーを使えば、上下ヒーターで両面から焼くから途中でひっくり返す必要はないし、専用プレートに流し込めばきれいな形に仕上がります。これがあれば、毎朝高級ホテルでモーニングを食べる気分が味わえるというわけです。
コーヒーの新しい楽しみ方「ネスプレッソ ヴァーチュオ」
最近、さまざまなコーヒーメーカーが出ています。ミルクコーヒーやフレーバーコーヒーなどバラエティーに富んだメニューを競うのが業界のトレンドなのですが、その中でブラックコーヒーのおいしさをとことん追求した職人家電が「ネスプレッソ ヴァーチュオ」。クレマ(エスプレッソの液面に浮かぶ泡のこと)入りコーヒーをマグカップで楽しむというスタイルを提案しています。
ユニークなのは、各カプセルに印字されたバーコードを読み取り、選んだコーヒー豆にあわせて、約40ミリリットル(エスプレッソサイズ)から414ミリリットル(マグカップサイズ)まで分量を自動で調整する点。最適な湯量・湯温・蒸らし時間でおいしいコーヒーをいれてくれます。
焼き芋屋の味を自宅で「焼き芋メーカー」
2017年秋の発売直後から大人気となった職人家電が「焼き芋メーカー」。量販店では一時売り切れになるほどの人気で、現在までの売り上げは累計6万台というヒットとなりました。
「なにも専用機にしなくても、オーブンでもグリルでも焼けるのに……」という声もあったにもかかわらずヒットした原因は、手間がかからずにおいしい焼き芋ができること。ポイントとなるのが、専用の「焼き芋プレート」です。プレートには凹凸があり、表面が焦げにくくなっています。上下にヒーターがついていて、サツマイモを包み込むようにじっくり焼き上げるから、途中でひっくり返したり、アルミで包んだりする手間も必要なし。待っているだけで、おいしい焼き芋が完成します。製品名は「焼き芋メーカー」ですが、夏には焼きトウモロコシも作れますよ。
居酒屋の焼き鳥を自宅で再現「焼き鳥メーカー2」
居酒屋の人気メニュー、焼き鳥。自宅で食べたいと思っても、こまめに串を返してむらなく焼く技術は職人技といえるもので、素人には難しいのが現実です。しかし、この「自家製焼き鳥メーカー2」は、自動で回転するから焼きムラなしでおいしい焼き鳥ができあがります。煙がほとんど出ないのも特徴で、ダイニングで焼き鳥を焼いても家族に文句を言われる心配はありません。
仕事を引退し居酒屋に行く機会が減った団塊世代、小遣いが足りないから何度も飲み会にいけないという子育て世代に支持されている職人家電です。
専門店の味を食卓で「ラクレット&フォンデュメーカー グランメルト」
チーズがとろりととろける「ラクレット」。2018年からブームに火がつき、2019年には多くのラクレット専門店に行列ができました。
「食べたいけど、予約してまで行くのはちょっと……」という人に向けて登場したのが「ラクレット&フォンデュメーカー グランメルト」。専門店で食べる高級メニューが、手ごろな価格で気軽に楽しめます。ラクレットとフォンデュに特化した家電にもかかわらず、売り上げは好調。発売当初は2人用のみでしたが、「家族用もほしい」という声に応え、現在は4人用も発売されています。
「働き方改革」も関係?
以上、6つの職人家電を紹介しましたが、こうしてみると職人家電は「食べる」に特化したものが多いことがわかります。19年に話題となった、1枚しか焼けないけれどおいしいトーストが焼ける「ブレッドオーブン」(三菱電機)も職人家電の一つですね。
なぜ調理家電に職人家電が増えているのか。それは「家メシ」を重視する人が増えているからだと思います。
これらの職人家電は団塊世代からの支持も多いと聞きます。彼らは健康面の心配から外食を控えがちだけれど、おいしい食事に対するこだわりは強い。そのため、以前は外で食べていた料理を高いクオリティーで再現したいと考え、手軽に調理ができる単機能の職人家電に手を伸ばすわけです。
「働き方改革」も関係していると思います。会社が残業時間を制限するようになり、以前より早い時間に家に帰るビジネスパーソンが増えてきました。その結果、家メシ派が増えることになり、「どうすれば家メシのクオリティーをあげられるか」という関心が高まったことも、「職人家電」人気の原因の一つでしょう。もちろん「やむを得ず家で食べている」のではなく、「家族との時間を大切にしよう」と考えて自宅で食べる食事のクオリティーアップを考えている人も多いはずです。SNS(交流サイト)の普及により、映える写真が撮れるから「職人家電」が支持されているという側面もあるでしょう。
日常のなかで大半を占めるのが「食事」。1日3度の食事が豊かになれば、おのずとQOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)も高くなります。それを「外食」に求めるのではなく「家メシ」に求めるようになったのが、現在の状況です。今年は職人家電がさらに増えていくと思います。
大手プレハブメーカーでインテリアコーディネートを担当し、インテリア研究所を経て商品企画部へ。その後インテリア&家電コーディネーターとして独立。家電業界出身ではない中立的な立場と消費者目線での製品評価や解説を行っている。好きな家電は、お掃除ロボットなど、家事を任せられて時間を産んでくれる「時産家電」。
(構成 井上真花=マイカ)
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