本を片手に寝落ちする 「泊まれる図書館」のワクワク
BOOK AND BED TOKYO 池袋本店
たくさんの書籍と本好きの人々が集まる書店やブックカフェ、図書館には、それぞれ独自の「表情」がある。個性的な「本の居場所」を紹介するこのシリーズ。今回は書棚に囲まれた空間にベッドが並ぶ本好きのためのホステル「BOOK AND BED TOKYO 池袋本店」(東京・豊島)に泊まってみた。
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本棚も2段ベッドも木製
「BOOK AND BED TOKYO 池袋本店」は首都圏有数の鉄道ターミナル・池袋駅の西口に近接している。繁華街にある雑居ビル内で2015年に開業した。ホステルは2フロアで約3500冊の蔵書が陳列されている。
2月初旬の平日。午後9時すぎにチェックインした。寝室スペース(ベッド)はそれぞれ畳1枚ほどの広さで、主に書棚の裏に配置されている。2段ベッドがある山小屋とカプセルホテルのちょうど中間のようなイメージで、室内に入った第一印象は「泊まれる図書館」だ。すでにチェックイン済みでカーテンを閉めてあるベッドがいくつかあるものの、共有スペースのラウンジには誰もいない。
バッグをベッド下の収納に押し込んで、コンビニで買ってきたコーヒーを片手に書棚を眺めた。目を引く漫画や写真集を手に取ってみては、椅子まで戻り座って斜め読みしてみる。その1冊に飽きると、再び立ち上がって本を探す。
午後10時を過ぎると、ぽつりぽつりと宿泊客がフロアに入ってきた。大きなリュックを提げた外国人らしい男性、ネクタイ姿でほんのりと赤い顔をした会社員、キャリーカートを携えた旅行者風の若い女性……。ラウンジで書棚から取った本を広げる人もいれば、時間をかけて荷物整理を続ける若者もいる。その後、深夜0時までには大半のベッドが埋まった。
予想外だったのは、フロアがずっと静かだったことだ。話し声はまったく聞こえず、薄暗い空間で落ち着いて本の世界に没入できた。チェックイン時には「気になるようなら」とスタッフが無料で耳栓を貸してくれたのだが、この晩は必要なかった。24時間出入り自由だが、ドアの開閉音はほとんど気にならない。
さらに夜が更けたころ、単行本の石田衣良『少年計数機 池袋ウエストゲートパークII』を見つけた。ホステルのすぐそばに、この作品の舞台になった池袋西口公園がある。ラウンジに寝そべりながらページをめくると、いつの間にか「寝落ち」していた。しばらくして目が覚めたので、そのまま狭い間口をはいながらベッドに潜り込む。背広は室内の壁に掛けるので、かなり窮屈ではある。天井の低い空間で着替えをするのに少し時間がかかった。
本の陳列にかわいらしさも
ホステルでは蔵書のセレクトを、書店の店舗デザインやイベント企画など書籍に関連する新ビジネスを手掛ける「シブヤパブリッシング・アンド・ブックセラーズ」に委託している。海外雑誌や漫画、写真集、レシピ本なども含め収納本のジャンルは幅広い。「本好きでない人でも手に取ってみたいと思う書籍を選ぶように依頼しています」(BOOK AND BED TOKYOの力丸聡ディレクター)
また、毎月30冊入れ替えている本はホステルのスタッフが選んでいる。店長の宮城光さんが最近仕入れた一押しは中井菜央氏の写真集「繍」だ。物や動植物、風景などをポートレートとして捉えた芸術性の高い作品である。「料理が好きなスタッフは料理本を選ぶなど各自が得意分野を扱います。棚ごとに青、赤、黄色と背表紙の色を合わせて陳列するなど見た目のかわいらしさも工夫しています」と宮城さん。
1時間500円で昼間の利用も可
宿泊の基本料金は1泊3300円から。トイレとシャワールームは共同だ。ベッド数は55。インターネットからの予約が基本で宿泊料金の支払いはクレジットカード。飲み物などの精算もクレジットカードか交通系ICカード、スマホ決済で、現金は使えない。昼間は1時間500円で読書と飲食サービスのみの利用もできる。東京には浅草店、新宿店があるほか、関西、福岡も含め全国で6店舗を展開している。
池袋本店の年間の稼働率は90%を超える。特に週末と祝日の前日は予約を取りにくいこともある。利用者の年齢層は20~30代が7割を占めるという。また、本に囲まれて眠るという非日常体験を求めるファンも多いらしく、利用者の4分の1は旅行者ではなく「近場からの利用者」だ。予想を上回る人気の理由は? 「逆説的ですが、寝たくないと思わせるようなホテルを作ってみたのです。それがユーザーの欲求をうまく満たす結果になりました」と力丸氏は話した。
(若杉敏也)
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