広告嫌いだった中島信也 葛藤克服した資生堂の乙女CM編集委員 小林明

「僕って、乙女やな……」、武蔵美での写真の授業の影響も

――「ほんじつ私はふられました――」という歌い出しのCMソングが流れ、失恋した女性が新しく生まれ変わっていく姿を描いた印象的なCMですね。マイコさんが出演し、熊木杏里さんが歌を歌いました。

「自分でもCMを作りながら『僕って、乙女やな……』なんて思ったりしてました(笑)。あのCMには武蔵美の写真の授業の影響も出ています。演者の表情を生かすも殺すも、実は光の影響が大きい。それを授業で学びました。表情の変化も、幸せな表情よりも泣きたくなる表情の方がずっと難しい。だから、オーディションの際は悲しい顔ができるかどうかを重要な基準にしました」

2019年6月、東北新社副社長に就任。「東北新社をワクワクできる会社に変えるとともに、CMディレクターとしての経験も業界全体のために生かしたい」という

 ――敏腕CMディレクターは独立する人が多いですが、中島さんは東北新社にずっと在籍され、19年6月にはついに副社長に就任します。

「もし自分のことだけを考えていたら、フリーになった方がよかったかもしれません。収入も増えていたでしょうし……。でも東北新社のために何かしたいという気持ちが大きかったし、創業者の植村さんに拾っていただいたという恩義も強く感じています。社会変革の中、会社は大きな転機を迎えています。幹部が知恵を出し合い、東北新社を生き残らせるだけでなく、社員がワクワクできる会社に変えてゆかないといけない。経営幹部であるという責任を持つこと。そして、CMディレクターとして学んだ『コミュニケーション作りのヒント』を地方や学校で語り、業界全体や社会に貢献すること。副社長として、その双方に取り組んでいきたいと考えています」

今でも感じる創業者への恩義、憧れの偉人はブッダと竜馬

――ネット社会の到来で広告のあり方も変化してきましたね。

ネット社会の到来で「我々はもっと公共という概念を真剣に考えるべきではないか」と説く

「我々はもっと公共という概念を真剣に考えるべきではないでしょうか。ネットには国境がないし、ルールもかなり緩い。単にネット広告の方が安いから、マスメディアに触れる人が減っているからという理由だけで、企業がテレビやラジオ、新聞、出版から広告を安易に引き揚げてよいものなのか。テレビやラジオ、新聞、出版などは良質な情報や娯楽を提供し、人々を幸せにする社会インフラだと思います。だから、それを支えていく企業の志が大切だし、マスメディアの側も工夫して広告収入だけに頼らない形に進化しないといけない。広告業界の現状をそんなふうに考えています」

――歴史上で好きな人物はいますか。

「ブッダかなぁ……。その場にいるだけでまわりの人が幸せになれるという存在感が素晴らしいですね。若い頃は坂本竜馬にも憧れていました。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』は若者なら一度は読んだ方がいい。でも今は、昔ほど竜馬に心酔していないかな。僕は長年、東北新社にいて、お城勤めを続けてきたので、まだ脱藩してないからね(笑)。だから、一回でいいから竜馬みたいに脱藩し、フリーランスというのがどんなものなのか味わってみたいという気持ちは少しだけあります。でもまぁ、もう遅いけどね……」

(聞き手は編集委員 小林明)

エンタメ!連載記事一覧
注目記事
エンタメ!連載記事一覧