「自分の家族すら幸せにできていないのに『誰かのために』というのはおこがましい――という気持ちになり、まずは『世の中に多数いるであろう自分の妻のような人のためになる仕事』と考え、転職エージェントから紹介された家事代行会社に転職することに決めました」

マーケティングの全てを体験するための選択

「マーケティングのプロとして成長するには、商品の企画・開発、価格設定、売り場づくりを含め、マーケティングの肝となる過程を全て体験する必要があると考えたからです。こうした過程は通常、顧客企業が自ら決定するものです。代理店はそれに沿って広告戦略を立案するのが役割でした。事業会社で働いたとしても、組織が細分化されている大企業では、全体を担当することはできないので、代理店を辞めると決めた時点で『次はベンチャーで』と気持ちが固まっていました」

「最近、配偶者が転職に反対する『嫁ブロック』が話題ですが、私の場合も大手企業からベンチャーへの転職とあって当初、妻は非常に心配し反対しました。『キャリアを積むために必要』と根気強く説明して、最終的には納得してもらいました。年収が代理店時代より少し上がることも後押しする材料になったと思います」

「家事代行会社では、マーケティングの体制がほとんど整備されていなかったので、ターゲット層の設定やサービス内容など、ほぼまっさらの状態から設計しました。私が主導して立ち上げたECサイトは2年で年商20億円の事業に育ち、『やりきった』という思いが膨らみました。マーケッターとしての幅を広げるため『今度は店舗ビジネスに挑戦したい』と3度目の転職を決意しました」

――ベイクに目を向けた理由は何ですか。

「前回の転職活動では『誰かのためになる仕事』を探しましたが、このときは『自分が好きなことに携わりたい』と考え、『大好きな食べることに関わる店舗ビジネス』を希望しました。転職エージェントを通じ、外食関連企業から幾つか打診がありましたが、最終的には、自ら直接応募した唯一の会社、ベイクに決めました」

川原林さんはベイクの印象を「熱い思いを持っている人がとても多い。商品を育てることを皆が『自分ごと』として捉えている」と語る

「経営幹部の『単純な食の会社ではなく、ブランドビジネスだと思ってほしい』との言葉に心動かされたのです。メッセージの打ち出し方、見せ方によって、お菓子の価値をさらに何倍にもして届けることができる――。そこに、マーケッターとしての自尊心をくすぐられました。少子高齢化が続く国内市場だけの外食ビジネスは厳しいと思っていたので、海外展開への積極的な姿勢も重要な点でした」

「ベイクには『ベイクチーズタルト』や『プレスバターサンド』など現在、8つのブランドがありますが、発売からの年数が違うため、ある商品は売り上げ急拡大中、ある商品は人気が落ち着き安定期に――といった具合に異なるステージにあります。一つ一つのブランドごとに、先を見据えながら、必要な戦略を構築することが重要です。全てブランドごとの短期、中長期の戦略を立て、社内の関連部署の意思を統一し、必要な策を実行していくこと、同時に競争力の高い新ブランドを立ち上げることが現在の私のミッションです」

「ベイクはもともと、商品開発とクリエーティブ(デザイン)の2つの特徴で成長した会社です。独自デザインの包装材などにこだわり、『おいしいものをかっこよく届けよう』というコンセプトで右肩上がりの売り上げを実現してきましたが、規模の拡大に伴い、会社として必要な要件が変わってきたことは否めません。『一等地の格好いい店舗×おいしいお菓子』という必勝パターンは立ち上げ期としては十分ですが、まねされやすく、次の競争軸をつくる必要があります。店舗ビジネスは、顧客への説明の仕方やパッケージなど、販売促進の工夫が売り上げに直結するため、マーケッターとして『腕の見せどころが大いにある会社に入った』とやりがいを感じています」

前向きな思い強く不安感じず

「入社してまだ半年もたっていませんが、これまで商品開発部門が主に担ってきた新ブランドや新商品の立ち上げを、今後はマーケティング部門がリードできるよう、組織を活性化し人材育成にも積極的に取り組んでいきたいです。会社全体に目配りして、戦略を立案する役割にも興味があり、ゆくゆくは経営のポジションにも挑戦できればと思っています」

――転職を重ねることに不安はありませんでしたか。

「1社目を辞めるときは、同期でまだ誰も転職者はおらず、似たような前例もなかったため自分自身、非常に抵抗がありました。2回目以降は『やり切ったから次のステージへ』という前向きな思いが強く、それほど不安は感じませんでした。今後の転職については全く考えていません。正直なところ、もう転職はしたくありません。結構エネルギーを使うので……(苦笑)」

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「仕事」としてではなく「自分ごと」として