「イクメン」でも既婚でもない24歳が、子育て世帯を支える離乳食ビジネスに取り組んでいる。2018年設立のKazamidori(東京・渋谷)で社長を務める久保直生さん。「ミッションは空から降ってこない。自分で決めるんです」。自らに言い聞かせるように語るのは、人生のテーマを求めて悩んだ過去があったから。小さな子どもが食べる離乳食の向こうに、とても大きなミッションを見据えている。
「最近はネットで『離乳食』って検索する人が多いんですよ」。そう話しながら久保さんがスマホに映し出した画像は、実にカラフルに盛り付けられ、一目で栄養バランスを考えたとわかる離乳食の数々。自分の子育て経験を振り返った筆者が「これを毎日つくるのはたいへん」と絶句すると、久保さんは「男女共同参画が叫ばれ、夫婦の共働きが当たり前になった今でも、離乳食の手作り信仰はまったく消えていないんです」とうなずいた。
子育ては苦労してこそ、だから離乳食は手作りで――。こうした価値観は長年、親とくに母親を苦しめてきた。「でも、親がつらくても頑張ることが子どもの幸せなのかな、と。親が少し楽になって楽しく余裕をもって過ごしたほうが、ぜったい子どもの成長や発育、心の豊かさにつながる。僕たちが展開する離乳食がその助けになったら」。久保さんの声に力がこもる。
カリスマなき生徒会長
Kazamidoriが「土と根」のブランド名でネット販売している離乳食は、生後半年くらいからの赤ちゃんが食べるための野菜のペーストだ。
トマト、ニンジン、ホウレン草、カボチャの4種類あり、すべて有機栽培の野菜を使っている。1種類100~120グラムを複数の冷凍キューブに加工してパックしたものを、4種類セットで3980円で販売している。
ネット広告などを通じて全国から注文が入り、現在は月間100セット程度が売れるようになっているという。
それにしても、なぜ久保さんが離乳食なのか。「離乳食にたどりつくまでに、僕も自分のやりたいことがわからなくて苦しみました」。その道のりは高校時代に生徒会長を務めたことまでさかのぼる。