機内でのウイルス感染が心配 安全な席はどこ?

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/2/14

実際、2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行したときは、香港から北京へのフライトに搭乗していた乗客のうち、WHOが定めた前後2列分よりもずっと離れていた乗客にも感染が及んでいた。医学誌「The New England Journal of Medicine」に発表されたSARSとフライトに関する論文では、WHOの2列という基準では、「SARS患者の45%を見逃していただろう」と指摘している。

そこで公衆衛生の研究者らは、機内での人の自由な行動が、どのように呼吸器ウイルスの飛沫感染の確率を変化させるかを調査した。

エモリー大学のビッキー・ストーバー・ハーツバーグ氏とハワード・ワイス氏らが率いる「フライヘルシー研究チーム」は、飛行時間が3時間半~5時間という米国の大陸横断フライトの中距離便10便に搭乗した。機内では、乗客と乗務員がキャビン内をどう移動するか、それによって他の人と何回、どれくらいの時間接触したかを観察した。こうして、近距離での接触がどれほどあれば、飛行中に感染が起こるかを推定した。この研究は、2018年に学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された。

「通路側または中央の席に座っていて、誰かがトイレに行くために脇を通過すると、1メートル以内での接触になります」と、ペンシルベニア州立大学の生物学と数学の教授であるワイス氏は述べている。「通過した人が感染者だとすると、席に座っている人に感染させる恐れがあります。私たちの研究は、これを数値化した初めての研究です」

この研究結果から、中距離便の場合、6割以上の乗客がトイレや手荷物棚を開けるために、席を立っていたことがわかった。全乗客のうち席を1回離れた乗客は38%、2回以上離れたのは24%。残りの38%は飛行中一度も席を立たなかった。

また、最も席を離れる確率が低いのは、窓側の席に座る乗客だ。窓側の乗客で席を離れたのは43%。対して通路側の乗客で席を立ったのは80%だった。

これらの乗客の行動から、機内の安全な座席が浮かび上がる。窓側席の乗客は近距離接触の回数が平均12回と、他の席の乗客と比べてはるかに少なかった。中央席の乗客の近距離接触回数は58回、通路側席の乗客の回数は64回だった。

つまり、感染のリスクを最小限に抑えるには、窓側の席を選んで飛行中は席を立たないことだ。

ただし、この記事の図からもわかるように、通路側席や中央席でも、またWHOの定義する2列分以内に座っていても、感染の確率自体はかなり低い。

というのも、ワイス氏によると、機内での近距離接触は、ほとんどの場合短時間だからだ。

「通路側に座っていれば多くの人が脇を通り過ぎると思いますが、ほとんどの人は一瞬で離れて行きます。それらの接触を全て合わせても、感染の確率は極めて低いということが、この研究では示されています」

だが、感染者が客室乗務員であれば、話は変わってくる。乗務員は長時間通路を歩き、近距離で乗客と接する時間も長い。この研究によれば、病気の乗務員は、4.6人の乗客を感染させる計算になる。「ですから、病気の乗務員は決して飛行機に乗らないことです」

新型コロナウイルスの場合は?

ワイス氏が指摘するように、新型コロナウイルスが最も感染しやすい経路はまだわかっていない。主に飛沫感染、唾液や下痢への接触などが考えられるが、ウイルスが付いたものを食べたり、エアロゾルによる感染も否定できない。

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