検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

脳が溶けガラス化 古代ローマ噴火の死因に2つの新説

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

西暦79年に起きたベスビオ火山噴火は、猛烈な火山灰と高温噴出物によって古代ローマ都市ヘルクラネウムを埋め尽くした。現在、この古代都市の発掘が始まって300年になるが、犠牲者の正確な死因はいまだにはっきりしていない。

建物の倒壊、空から降ってきた岩石、逃げる人々が将棋倒しになったほか、火山灰や火山ガスの吸入、突然の温度変化によるヒートショック、体の軟組織の蒸発などが死因として挙げられている。

今回、二つの研究により、物語はさらに複雑になった。

一つの研究は、石造りのボート小屋に隠れていた人々の死因について、火傷や軟組織の蒸発ではなく、石窯の中で蒸し焼きにされたような状況になって死亡したと結論づけている。もう一つの研究は、この街の別の地区で発見された1人の犠牲者について、高温で溶けた脳が再び固まってガラス質になっているのを発見した。まるで魔法だ。

不思議な遺体に関する今回の二つの仮説が将来の研究によって裏付けられたとしても、彼らの死因が確定するわけではない。彼らが死亡した際にこんなことが起きていたのかもしれない、と言えるだけだ。

長い歳月の間にはっきりした証拠がほとんど失われてしまっているため、「彼らの死に関する究極の真実を知ることはおそらく不可能でしょう」とポーランド、ワルシャワ大学の骨考古学者エルズビエタ・ヤスクルスカ氏は語る。

しかし、謎解きに挑む価値はある。「火山災害は過去のものではありません」と、米スミソニアン協会の全地球火山活動プログラムのジャニーン・クリップナー氏は言う。両氏とも、今回の研究には関わっていない。

同じような噴火を起こす火山は、世界にたくさん存在する。つまり、これからも歴史は繰り返すということだ。過去の噴火が人々を傷つけた仕組みが解明されれば、火山の被害に遭った人々の治療に役立つだろう。

高温で爆発?蒸発?

西暦79年の夏、ベスビオ火山から噴出した高温の火山灰と火山ガスは時速80キロの猛スピードで山肌を流れ下った。この現象は火砕流と呼ばれることが多いが、ヘルクラネウムを襲ったような火山ガスの比率が高いものは火砕サージと呼ばれている。

以前は、噴火に巻き込まれて命を落とした人々の多くの死因は、火山灰や有毒ガスによる窒息死だと考えられていた。しかし、フェデリコ二世ナポリ大学病院の古生物学者ピエル・パオロ・ペトローネ氏らは、この20年間の研究から、火砕サージの高温により内臓が突然機能を停止する「ヒートショック」で死亡した人が多かったと主張している。

2018年、ペトローネ氏らは、ヘルクラネウムの犠牲者の骨にはひびが入っていることが多く、鉄分を多く含む化合物がこびりついていると報告した。この物質は、軟組織(筋肉、腱、神経、脂肪など)が蒸発する際に赤血球が破壊してできたものだという。また、脳内の液体が沸騰して頭蓋内の圧力が高まり、頭骨を爆発させたとも主張する。一方で、こうした主張に疑問を投げかけ、遺体を火葬するときにはもっと高温で焼いているが、蒸発することはないとする専門家もいた。

論争の決着はついていないが、ペトローネ氏らは2020年1月23日付けで医学誌『New England Journal of Medicine』に新たな論文を発表した。これにより論争は、決着がつくどころかさらに激しくなりそうだ。

ガラス化した組織

考古学的な資料の中に脳組織を発見することはきわめてまれだ。発見されたとしても保存状態は悪く、グリセリンや脂肪酸などの化合物が混ざった石鹸のようなものになっている。ペトローネ氏は今回、ローマ皇帝アウグストゥスをまつる建築物「コレギウム・アウグスタリウム」で1960年代に発見された1人の犠牲者を詳しく調べることにした。

この人物のひび割れた頭骨の中からはガラス質の物質が見つかった。ベスビオ火山の噴火自体でガラス質の物質は生じないため、これは意外な発見だった。頭骨の中のガラス質には、脳組織によく見られるタンパク質と脂肪酸のほか、人間の頭皮から分泌される油の中の脂肪酸も含まれていた。こうした物質を作り出すような植物や動物は、近くには見当たらなかった。

ペトローネ氏は、ガラス質の破片は犠牲者の脳の残骸と考えられ、古代か現代かを問わず、このような物質が発見されたのは初めてだと言う。

脳組織が加熱されて液体になり、急冷されたことにより、通常の固体ではなくガラス質になったと、ペトローネ氏は考えている。遺体の近くの炭化した木から、建物内の温度は約520℃まで上昇したことがわかっている。これは、体脂肪に火をつけ、軟組織を蒸発させ、脳組織を溶かすのに十分な高温だ。脳の物質はそれから急冷されたことになるが、ペトローネ氏は、そのときどんなことが起きたのかはまだわからないと言う。

「脳がガラスになるほどの高熱が発生したと考えるのは非常に面白いですが、恐ろしくもあります」と、ナショナル ジオグラフィック協会の自然人類学者ミゲル・ビラール氏は語る。

しかし、ここで提案されたガラス化の過程はまだ十分に解明されておらず、多くの犠牲者の中で(今のところ)この人物の脳だけが特殊な運命をたどった理由もわからないため、この物質がガラス化した脳組織であると断定することもできない。

直火ではなく天火のように焼かれた

もう一つの論文は、1月23日付けで考古学の学術誌『Antiquity』に発表されたもの。ヘルクラネウムの海岸地域で死亡した多数の犠牲者の死因を調べている。男たちはおそらく海上に避難するための準備をしようと海岸に集まっていて、女性と子どもの多くはフォルニーチという石造りのボート小屋に隠れていたが、全員が死亡した。この地区では現時点で340体の遺体が発掘されている。

犠牲者たちの骨は長らくただの燃え残りと考えられてきたが、この10年間の科学的手法の進歩により、焼けた破片から彼らの死の前後の状況がわかるようになってきた。

この研究を行った英国ティーズサイド大学の応用自然人類学者ティム・トンプソン氏は、「火葬された遺体からは、その人物の生涯について多くのことがわかります」と言う。そこで、この手法をベスビオ火山の犠牲者に応用したらどうかと考えた。

研究チームは12のボート小屋のうちの6つから見つかった152人の肋骨を調べた。なかでも重点を置いたのはコラーゲンだ。コラーゲンは長い年月にわたって保存される頑丈なタンパク質だが、高温の下では分解する。

彼らが調べた152人のうち、コラーゲンが激しく分解していたのは12人だけで、その大半が子どもだった。一方、骨の主成分であるヒドロキシアパタイトは、高温にさらされるほど結晶化が進むことが実験により証明されている。研究チームは、犠牲者たちの骨の結晶化があまり進んでいなかったことを明らかにした。

どちらの発見も、ボート小屋の犠牲者が死亡時またはその直後に火砕サージによる高温にさらされていないことを示唆していると、ヤスクルスカ氏は認める。

物質の磁気特性の変化や、漆喰、木材、モルタルなどの損傷に基づく見積もりから、ベスビオ火山の火砕サージの温度は240~800℃だったとされている。

今回の研究では、見積もりの下限の数字が妥当だったことになる。しかしこの温度なら犠牲者の骨はもっと損傷されていたはずなので、なにかが遺体を火砕サージから保護していたことになる。

熱による損傷が少なかったのは、近くに堅牢な小屋の壁があったからだろう。体表の組織が膨張し、体内の水が手足の長い骨のまわりに集まっていることは、骨格が直火ではなく天火のような状態で焼かれたことを意味している。

犠牲者たちの体は、じかに火がついたのではなく、火砕サージによって周囲の空気が高温になったことで焼かれたのだ。組織に損傷が少なかったのはそのためだ。

2000年前の死を解析する意味

今回の二つの成果には異論もある。しかし、ヘルクラネウムの人々の最期が悪夢のようなものだったことを疑う人はいない、とトンプソン氏は言う。彼らは暗闇の中で震えながら、恐ろしい高温にさらされ、あるいは窒息して死んでいった。ローマの法律家で著述家の小プリニウスは、ベスビオ火山の噴火を遠方から観察し、恐怖にかられた人々の中には死にたいと祈る者もいたと回想している。多くの人が神に救いを求めたが、もう神はおらず、世界に永遠の夜が訪れたのだと考える人も多かったという。

考えるのも恐ろしいことだが、ヘルクラネウムの人々がどのように死んでいったかを明らかにすることで、まだ完全には理解できていない火砕サージの重要な特徴が明らかになる、とクリップナー氏は言う。現代の科学者たちは、そうした知見をもとに、未来の火山災害を予測し、被害を最小限に食い止めることができる。ヘルクラネウムの不運な人々は、その死から2000年後の世界の人々の命を守る手伝いをしてくれているのだ。

(文 Robin George Andrews、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年1月27日付]

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_