なぜ水路跡から発見? 古代帝国の見事なレリーフ

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/2/17
ナショナルジオグラフィック日本版

王宮以外で見つかることはきわめてまれな古代のレリーフ。ライオンや竜などの動物に乗った、最高神アッシュール、その配偶神ムリッスなどのアッシリアの神々の行進が描かれている(PHOTOGRAPH BY ISABELLA FINZI CONTINI)

中東イラク北部で、2700年以上前の新アッシリア帝国時代につくられた、精巧な石のレリーフ10点が発掘された。見つかった場所は、当時の水路網の壁面。王宮以外でこれほど見事なレリーフが見つかることはほとんどなく、もっぱら武勇で知られる王、サルゴン2世が公共事業にも貢献していたことを示す貴重な発見だ。

「きわめて珍しい遺構です」と語るのは、イタリア、ウディネ大学の考古学者で、今回の遠征を共同で指揮したダニエーレ・モランディ・ボナコッシ氏。このような石板が元々あった場所で発見されたのは、過去に一例しかない。「水路を埋めている堆積物の下に、まだほかのレリーフが埋まっている可能性はかなり高いでしょう。楔(くさび)形文字が刻まれた記念碑もあるかもしれません」

発掘現場は、トルコとの国境に近いクルド自治区の町ファイダ近郊。だがここは半世紀もの間、紛争のため研究者にほぼ閉ざされてきた。1973年に英国のチームが3つの石板の上部を見つけたが、クルド人とイラク政府の間の緊張が高まり、調査を続けられなかった。2012年になってモランディ・ボナコッシ氏が率いる遠征隊が現地に戻り、さらに6つのレリーフを発見したものの、その後過激派組織イスラム国(IS)が侵攻。2017年まで調査活動は中断された。

イラク北部で古代の水路の発掘調査を行っていた考古学者らが、石のレリーフを発見した。水路を造らせたアッシリア王サルゴン2世を讃えるものと見られる(PHOTOGRAPH BY ALBERTO SAVIOLI)

2019年の秋、モランディ・ボナコッシ氏とクルド自治区ドホーク考古学局のハッサン・アーメッド・カシム氏は、全長6キロにわたる古代の水路の土手に施された合計10個のレリーフの目録を作成した。モランディ・ボナコッシ氏によると、それらは独特なシーンを描いているという。

レリーフには、竜と角のあるライオンに乗った最高神アッシュールや、その配偶神でライオンが支える玉座に座ったムリッスといったアッシリアの神々の行進を、サルゴン2世らしき王が見守る様子が描かれている。ほかには愛と戦争の女神イシュタル、太陽神シャマシュ、知恵の神ナブなども見られる。

このような彫像は、肥沃な土地があるのは神のおかげでもあると、道行く人に示そうとしたのではないかと考古学者らは考えている。

「王権のパワーや神が与えた正統性を示す図案があちこちに描かれていた可能性を、このレリーフは示唆しています」と言うのは、米ハーバード大学の考古学者で、この地域の古代の水利システムを研究しているジェイソン・ウル氏だ。今回の発見は、このような芸術作品が「王宮だけでなくいたる場所、例えば農民が畑に水を引く水路にまで飾られていたことを示すものです」

水路は丘陵地を巡るように造られており、大麦、小麦などの作物を育てる大規模な灌漑に使われた。当時、世界最大級の都市であったニネベの10万人以上とも言われる住民に食糧を供給していたと見られる。この広大な都市の遺跡は、現在のモスルからチグリス川を越えて100キロメートル近く南まで広がっている。

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