午後6時以降メール禁止 ローソン、女性が働きやすく
柳田衣里ローソン人事本部人事企画部部長(下)
前回の「時短勤務でも管理職昇進あり ローソンの女性幹部育成」に引き続き、「女性活躍」で成果を着実に上げているローソンの柳田衣里人事本部人事企画部部長に取り組みを聞いた。
男性育休の取得率は9割超に
白河桃子さん(以下敬称略) 前回にお聞きした「ハッピーローソン保育園」の運営などは、やはり柳田さんご自身がワーキングマザーとして感じてきた課題意識を、全社の取り組みに生かしている点が大きいのでしょうね。ちなみに、転勤についてはいかがですか。事情に合わせて転勤を回避できるような配慮を始めた会社も増えているようですが。
柳田衣里さん(以下敬称略) 個人の事情はもちろん配慮するのですが、そこはあまり特別扱いはしていないですね。制度としては、2018年度から「フレキシブル正社員制度」というものを導入しまして、子育てや介護などの事情がある人が勤務地を限定できたり、時短を選べたりする仕組みを作りました。期間は自由で、通常の働き方に戻ることもできます。介護のために利用する例は少しずつでてきたのですが、いろいろな事情の方に利用してもらえるように、もっと普及させていきたいと考えています。
白河 これからの大介護時代には、ぐんと利用が増えそうですね。女性活躍と切り離せない、男性育休についてはどんな取り組みをなさってきたのでしょうか。
柳田 男性社員を対象にした「短期間育児休職制度」を、14年度から始めています。上限5日間を有給特別休暇扱いにするという制度でして、まだ短期の実施でしかないのですが、利用者は順調に伸びています。始めた14年度は23人、16%の取得率でしたが、18年度には111人、91%にまで急増しています。
白河 すごい伸びですね。何が奏功したのでしょうか?
柳田 知ってもらうための積極的な働きかけです。制度はあっても普及させないと認知されないので、ポスター(画像参照)を各部署に張ってもらいました。社内で育児に関する川柳作品を募集して掲載しているんです。
育休取得の申請が人事本部に届いたら、その部署にお子さんのお名前を入れた「どら焼き」をお祝いとして届けます。どら焼きは個包装になっているので配りやすく、お子さんの名前をきっかけに会話が弾むことも。女性に比べて男性はなかなか自分から子育ての話を開示しにくいので、チームメンバーに子育て中であることを知ってもらうきっかけになればという演出です。
白河 お菓子はもらえばうれしいし効果的ですね。有休以外の法定の育児休業を取得する男性はいらっしゃいますか。
柳田 そこはまだ不十分なので、次のステップになりますね。女性の場合は妊娠するとお腹が大きくなって周りも認知しやすいのですが、男性の場合は自ら言っていただかないと分からない。数カ月単位で職場を離れる場合の人員配置の方法も含めて、いろいろなパターン検証が必要になりますが、ある程度ルール化して普及を目指したいと思います。
午後6時以降のメールは禁止に
白河 もう一つ、女性の活躍を阻む問題としては長時間労働があります。コンビニの店舗指導を担うスーパーバイザー(SV)の仕事は、24時間営業に合わせた働き方をしなければならないのか。あるいは外回りが中心で、かえって自分のペースで働きやすいのか。そのあたりはいかがでしょうか。
柳田 SVの仕事は店舗巡回が主で、週に1回、各エリアの事務所に集まって会議をするというのがルーティンです。1人が8~9店舗を受け持ちますが、巡回業務の直行直帰は自由なので、比較的自分のペースで仕事ができるのではないかと思います。休みも週休2日は取れますし、長期休暇も好きな時期を選んで取れるので、「働きづらい」という声はあまり聞こえてきません。一方で、実労働時間が把握しづらいという面もありましたので、長時間労働にならない工夫もしてきました。
白河 例えばどのような?
柳田 原則、勤務時間を過ぎた午後6時以降のメールは禁止にしています。また、以前は「ノー残業デー」を設定していましたが、最近は「残業しないのが基本」というカルチャーに変わってきました。定時になると「帰りましょう」というアナウンスが流れるんです。
白河 とはいえ、現場の店舗を担当しているSVの方々は、緊急対応のために呼ばれることもありますよね。
柳田 たしかに、以前は店舗からの問い合わせはすべてSVが受け付けていたのですが、5年前から24時間対応のコールセンターを設置して、SVの負担を大幅に軽減しました。「マシンが壊れた」「こういう要望にはどう応えたらいいのか」といった細かな問い合わせは委託先のプロに担っていただくように方針を変え、それでも対応しきれない重要な案件だけがSVに行く流れができてきました。
白河 現場責任者が過重労働になりがちな他業種も参考にしたいお話ですね。前回、SVから先のキャリアに商品開発などへの職種転換もあるというご説明でしたが、そこで活躍する女性も増えてきていますか?
柳田 増えていますし、同業の中でも当社は女性の開発者の育成には積極的に取り組んでいるほうだと思います。それはお客様の変化に合わせた、マーケティング戦略の一環です。
20年ほど前ですと、コンビニにいらっしゃるお客様というのは若い男性がメインで、それに合わせた商品を揃えていました。今は女性の社会進出によって、お客様は多様化しています。お客様の女性比率はかつて3割程度だったのですが、現在は4割超。かつ、商品購買の意思決定は女性が握ることが多いので、女性に響く商品づくりをやっていかないといけない。結果として、女性の開発者の活躍の場は広がっています。
白河 以前、成人雑誌の販売をやめた背景を伺った際に、「11年の東日本大震災以来、女性客が増えた」と聞いたことがあります。
柳田 たしかにその変化はありました。かつては、シニア層の女性のお客様は「コンビニは若い人が行くもので、日用品は高いんでしょ」というイメージをお持ちだったようなのですが、震災でスーパーが休業した時期に開いていたコンビニに行ってみたら「そうでもないのね」と見直してくださった。最近は、価格を抑えたオリジナル商品も頑張っています。
女性社員の力を商品開発に
白河 人気のスイーツ「バスチー」や糖質を抑えた「ブランパン」のシリーズなど、ユニークな商品が目立ちますね。あと、首都圏中心に展開している「ナチュラルローソン」は、美容・健康志向の女性たちの心をつかんでいる。この裏側にも女性の活躍があるのでは?
柳田 ナチュラルローソン(ナチュロー)の開発チームには、女性がかなり多いですね。グリーンスムージーなど、ナチュロー発のヒット商品が全国のローソンに並んだ例はいくつもあります。野菜を生地に練り込んだトルティーヤのデリ商品を開発したのも女性で、彼女は「育休中に、手軽に野菜が取れるフィンガーフードがあるといいなと発案した」と言っていました。仕入れ系の商品を担当している女性もエネルギッシュで、健康意識の高い消費者の動向をリサーチするためにボディービル大会にまで視察に行っていました。(笑)
白河 すごい。元気な女性がイキイキと活躍して、商品力を高めているのですね。女性リーダーもこれから一層増やしていきたいということでしたが、これから特に注力していきたい施策はありますか。
柳田 人事としてこれから積極的に強化していきたいのは、活躍している女性の事例や制度をわかりやすく紹介する社内広報活動です。全国の現場にいるとなかなか見えづらいキャリアの展望や、会社としての新しい取り組みが、もっと伝わるようにしていきたいですね。
これまでは「会社で成長するってこういうことなんだ」と理解するには、ジョブローテーションを何度か経験するなど、時間をかけることが前提だったのではないかと思います。でも、それでは女性の不安解消に間に合わない。異動をせずともキャリアの見通しが立つきっかけ、例えば部署体験ツアーを企画したり、社内のロールモデルから直接話を聞ける機会をつくったり、ホットな制度を紹介する冊子を配布したりと、新たなアプローチを打っていくつもりです。
白河 コンビニ業界が変わることは、すべての業界の刺激になるはずと期待しています。ぜひ頑張ってください。
あとがき:コンビニやファミレス、24時間365日の営業がある業界はどうしても女性に人気がありません。もしくは定着しないなどの課題がつきものです。どこも苦戦する中、女性活躍では目立った成果を上げているローソンにその仕組みを聞いてみました。女性が管理職になりたがらないのは「自信がないから」とよく言われます。しかし私は「自信」ではなく「自信を失わせる男性中心の働き方」に問題があると思っています。育休や時短勤務の結果、いざ昇進となるとハンディを背負わされているケースがあります。ようやく最近、「育休中でも同期並みの昇格」という会社が出てきました。時短でも成果で評価すれば昇進もあり得る。コツコツと女性の前にあるハードルを取り除いてきたローソンにはヒントがたくさんありました。
少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「ハラスメントの境界線」(中公新書ラクレ)。
(文:宮本恵理子、写真:吉村永)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。