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HIKARI監督が語る『37セカンズ』 障害を越えた希望

恋する映画 ベルリン国際映画祭で2冠の注目作

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NIKKEI STYLE

日本人シェフがフランスで初のミシュラン三つ星を獲得したニュースが話題となったばかりだが、いまやあらゆる分野で日本人の才能が世界に認められている。そんななか、映画界において世界を舞台に活躍しているのが日本人女性監督のHIKARI監督。現在公開中の『37セカンズ』は、長編デビュー作にもかかわらず、世界三大映画祭のひとつであるベルリン国際映画祭で「パノラマ部門の観客賞」と「国際アートシアター連盟賞」の2冠に輝き、映画祭史上初の快挙を遂げた。HIKARI監督に『37セカンズ』の魅力を聞いた。

人間や女性の素晴らしさを描きたかった

本作の主人公となるのは、生まれたときに37秒間息をしていなかったことが原因で身体に障害を負ってしまう20代の女性ユマ。自身の存在を隠すように漫画家のゴーストライターとして働き、過保護な母親とともに暮らしていたが、そんな彼女が生活に息苦しさを感じ、独り立ちをしたいと考えるようになるところから物語は始まる。障害を持つ女性を描こうと思った背景には、さまざまな人との出会いがあったという。

「この作品にも出演している熊篠慶彦さんから『障害者と性』に関する話を聞き、その後アメリカで有名なセックスセラピストの方にインタビューする機会があったんです。そこで、下半身不随の女性でも自然分娩ができること、セックスで快感を味わえることを知り、女性の体や人間の命が持つ素晴らしさを題材にしたいと思うようになりました」

とはいえ、日本ではいまだに障害者の性に対して、触れてはいけない問題のように扱っているところもあるが、アメリカではここ数年でさらにオープンに語られるようになったのだとか。「障害者の男の子が普通にテレビで自身の性について話していますし、アメリカでは学校でもセックス・エデュケーションとして、きちんと勉強させています。それもあって、自分の欲求を抑え込むことをしないので、性的少数者(LGBTQ)の人たちもカミングアウトしやすくなってきた。日本とは真逆かもしれないですね」と話す。

そういう意味では、仕事も恋愛も自分の思い通りには行かず、周囲に監視される生活のなかで、生きづらさを感じている主人公の感覚は、多くの人が日常で感じているものと通じるものがある。事実、物語が進むにつれて、主人公が抱く葛藤や自立に対する思いなど、そこには障害の有無は関係ないことに気付かされ、誰もが共感せずにはいられない。

「これまでにアメリカ、ドイツ、イギリス、エジプトなど数々の国で上映してきましたが、笑うところも泣くところも拍手するところも、観客の反応はどこも一緒。決してお涙頂戴の映画ではありませんが、みなさんに響くものになったというのはうれしいですね。健常者の人でも、人生はいつどうなるかわからないので、障害があろうとなかろうとみんなで手をつないで一緒に進んでいける社会になることを望んでいます」と笑顔をのぞかせる。

つらい経験もすべてモチベーションに変える

しかし、その笑顔の裏では、女性監督ならではの苦悩も経験。いまだに男性社会である映画の現場で、理不尽な態度を見せるスタッフとぶつかり合い、毎晩のように泣いていたこともあったと打ち明けた。それでも、持ち前の明るさで「ピンチはチャンス」と負の力もポジティブに変えることができるのがHIKARI監督。

その強さは、劇中でユマがこん身の作品を編集者に一蹴されたあと、ふさぎ込むことなく、自分で経験値を増やすために、ひとりで歓楽街へと赴き、新たな扉を開いていく姿と重なる。「この作品では障害を持つ若い女の子が主人公ですが、ひとりの女性ががんばっている姿を描きたかったので、年代に関係なく、幅広い女性に見てほしいと思っています。私は子ども時代にいじめられたことがあり、当時はすごくつらかったですが、いま思うとあの経験があったからこそ、海外に行く決意もできましたし、モチベーションにもなりました」。さまざまな困難を乗り越えてきたHIKARI監督だからこそ、映画に込められたメッセージも説得力を持って心に響く。

自分の意志と勘を信じて進んでほしい

現在は、すでにハリウッドからも数多くのオファーが舞い込み、次はテレビシリーズ2作を手掛けることが決定しているという。「私にとって、土俵は地球。これからも世界に向けて発信していくことが私のミッションだと思っています」と目を輝かせる。最後には、同じ働く女性たちへ伝えたい思いも教えてくれた。

「ひと昔前なら男性がしていた仕事でも、いまは女性たちが活躍しているのでうれしく思っています。ルールに従わないといけないときもありますが、嫌なことは絶対に我慢してほしくないですし、社会にも流されずにいてほしいです。それから、私が日本人と仕事をして感じたのは、目の前のことだけを重視する方が多く、その先にあるチャンスを逃している傾向があるということ。誰かに忖度(そんたく)するのではなく、自分自身と勘を信じて、やりたいことだけをやって生きてください」

その言葉を体現するかのように、劇中ではひとりの女性がいくつもの壁にぶつかりながらも、自らの力で前に進んで行く姿が描かれている。自分の人生のために立ち上がり、戦う女性の美しさと輝きが詰まった本作は、多くの人の心に光を与えてくれるはずだ。

『37セカンズ』
監督・脚本:HIKARI
出演:佳山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、熊篠慶彦、萩原みのり、宇野祥平、芋生悠、渋川清彦、奥野瑛太、石橋静河、尾美としのり/板谷由夏ほか
配給:エレファントハウス、ラビットハウス
2月7日(金)、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー(C)37 Seconds filmpartners


【ストーリー】
出産時の出来事が原因で身体に障害を抱えてしまった23歳のユマ。漫画家志望であるものの、親友の漫画家のゴーストライターとして、ひっそりと生きていた。幼いときに両親が離婚し、母親と2人で暮らしていたが、ユマの世話を唯一の生きがいとする母親に息苦しさを覚えるようになる。そしてある日、独り立ちしたいという思いが胸のなかで動き始め、新たな道を切り開く決意をすることに……。

HIKARI監督
大阪市出身、ロサンゼルス在住。女優、カメラマン、アーティストとして活躍したのち、南カリフォルニア大学院の映画芸術学部に入り、映画やテレビ制作を学ぶ。卒業制作の短編映画『Tsuyako』(11)で監督デビューを果たすと、DGA・米国監督協会で最優秀女性監督賞を含めた計50の賞を受賞する。現在はクリント・イーストウッドやクエンティン・タランティーノなどが所属するアメリカの大手エージェント事務所、William Morris Endeavor (WME) Entertainmentに所属し、米国映画スタジオ・TVネットワーク数社と共に長編映画やTVシ リーズを企画中。

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