香港城市大学の社会学・行動科学助教のレベッカ・ウォン氏は、2019年に出版した中国の野生動物の違法取引に関する著書の中で、野生動物を食べることは「中国では一般的」であるとしながらも、紋切り型の見方をしてはいけないと警鐘を鳴らす。「なんでも食べる中国人」のイメージは神話であり、仲間や社会からの同調圧力やステータスを求める気持ちなどの複雑な動機があるという。
2014年に中国の5つの都市で実施された1000人以上を対象とする調査は、地域によって食習慣が大きく異なることを明らかにした。広州では回答者の83%が過去1年間に野生動物を食べていたが、上海では14%、北京ではわずか5%だった。さらに、全国の回答者の半数以上が野生動物を食べるべきではないと答えていた。
同じ市内でも異なる文化
22歳のチャールズと18歳のコーデリアは、野生動物をよく食べるとされる広州の大学生だ。彼らが英語名で利用しているインスタグラムを通し、話を聞いた(ナショナル ジオグラフィックは2人から姓は表記しないように依頼されている。中国政府はインスタグラムの利用を禁止しているが、多くの若者がVPNを利用してインスタグラムにアクセスしている)。

チャールズによると、彼の地域では野生動物を食べるのはごく普通だが、家族はあまり食べず、彼自身はときどき好奇心から食べるだけだという。「市場で野生動物を買うのは年配の人が多いですね」と言い、若者が野生動物を食べない理由は教育にあると考えている。
一方、広州の中心部に住むコーデリアは、家族を含め、野生動物を食べることはそのあたりでは一般的でないと言う。彼女は「私の友人も家族も、野生動物を食べるのは大嫌いです。母なる自然への凌辱であり冒とくです」と断言する。彼女は、現在の新型肺炎騒ぎにより、ほかの人々も同じように考えるようになるだろうと信じている。「新型コロナウイルスの恐ろしい感染を見れば、人々は、野生動物を食べると体にいいという考えが迷信であることに気づくでしょう」
コーデリアもチャールズも野生動物の取引の永久的な禁止を支持しており、SNS微博でも同様の意見がどんどん出てきていると言う。
コーデリアが言うように、一部の中国人は野生動物を食べるのは健康にいいと信じている。その思想は市場価格に反映されている。生きている動物は、死んだ動物より高い値段(しばしば2~3倍の高値)で販売されるのだ。「生きている新鮮な動物の方が効果があると信じられているからです」とリー氏は言う。「死にかけていたとしても、生きてさえいればいいのです」

中国や東南アジアの野生動物市場は「感染症の大釜」
市場で売られる野生動物たちは「錆びた不潔な檻の中で死にかけ、渇きに苦しんでいます」とリー氏。捕獲時に脚を欠いたものや傷ついたものもいるが、そのままの状態で輸送される。「業者の扱いは乱暴で、積み降ろしの際には檻は何度も叩きつけられます。動物たちの苦痛は非常に大きいです」
米国の野生生物保護学会の国際獣医チーフであるクリスチャン・ウォルザー氏は、野生動物の無秩序な取引は人獣共通感染症の拡散につながると言う。彼は、「野生動物は、普通なら人間と接触しえないウイルスを持っていることがあります」と説明する。動物たちはウイルスを持っていても病気ではなく、「無症状の病原巣」の状態にある。しかし、人間が動物の生息地に侵入すると、こうしたウイルスに接触する可能性が高くなる。