新型ウイルスが出現 中国の野生動物取引に禁止の声

日経ナショナル ジオグラフィック社

米ジョージタウン大学の微生物学・免疫学科のエリン・ソレル助教は、人獣共通感染症の70%は野生動物に由来するものだと言う。人獣共通感染症は危険なものが多い。なかでもHIV、エボラウイルス、SARSウイルスは野生動物からヒトに伝播し、世界的に流行した。

中国や東南アジアの野生動物市場では40種以上の野生の鳥類、哺乳類、爬虫(はちゅう)類が「積み重ねられて売られている」とウォルザー氏は言う。体からの分泌物が空気と混ざり合うとウイルスがやりとりされ、新種のウイルスが生まれる可能性がある。ウォルザー氏はこの状況を「感染症の大釜」と表現する。

いくつかの証拠は、武漢のコロナウイルスがコウモリから来ていることを示唆している。具体的にどの種のコウモリだったかはまだわかっていないが、武漢市場の調査では野生動物売り場からコロナウイルスが検出されている。

中国、北京の商店でマスクをして野菜を売る人々。2014年の研究では、過去1年間に野生動物を食べた北京市民はわずか5%だった(PHOTOGRAPH BY KEVIN FRAYER, GETTY)

野生動物の取引を地下に潜らせない

中国政府による野生動物取引の一時的禁止は、すべての市場、食料雑貨店、ネット通販に適用され、すべての繁殖施設における検疫も定めている。私が話を聞いた動物保護活動家の多くが、この対策は有効だろうと考えている。人々が違反を通報するためのホットラインも設置された。

「これは緊急事態なのです」とリー氏は言う。「すべての人が見ています。禁止に違反するすべての業者が通報されます」。コロナウイルスへの恐怖は、野生動物への需要を減らす可能性がある。生きた野生動物を違法に販売しようとする業者がいても、人々は買いたがらないかもしれない。

中国は以前にも同様の禁止措置をとったことがある。2003年にSARSが大流行したときだ。ハクビシンが感染源ではないかと疑われ、中国政府は野生動物の取引を一時的に禁止した。だが、禁止は半年後に解除され、繁殖施設は取引を再開してしまった。リー氏は、この20年間で生きた野生動物の取引が拡大したかどうかは不明だが、規制を逃れるために、多くの取引が地下に潜ったと考えている。

同じことが再び起こるリスクがあるとソレル氏は言う。「SARSの大流行から15~16年になりますが、今後16年間に野生動物市場から次の感染症は出ないなどとは言えません」

一時的な禁止を永久的な措置にするには、範囲を明確にする必要がある。用語の一部は曖昧で、その解釈は地方の法執行機関に委ねられている。例えば、骨やうろこなどの乾燥した部位の取引も禁止されるのだろうか? 専門家は禁止するべきだと言うが、条文ははっきりしない。

取引の永久的な禁止は、商売の観点から強い反対を受けるだろうとリー氏は言う。氏によると、中国の野生動物のブリーダーに許可証を出している国家林業草原局は「昔から野生動物の利益の代弁者」だった(筆者はこの記事の公開前に同局の職員にコメントを求めたが、返事はなかった)。

SARSが大流行した2003年、中国南部の市場で売られていたハクビシン。当時、ハクビシンはSARSの感染源ではないかと疑われていた。ハクビシンのスープは今でも高級料理として一部の中国人に愛されている(PHOTOGRAPH BY AFP, GETTY)

ソレル氏は、永久的な禁止は慎重に進めなければならないと強調する。

「個人的には、野生動物が売られなくなった市場を見たいと思います」と彼女は言う。しかし、拙速に禁止を進めると、野生動物取引の全体が地下に潜り、「野生動物の消費はもっと危険になります。どこで消費されているのかも、どこから来たかもわからなくなってしまうからです」

香港大学の保全法医学研究所の進化生物学者で、野生動物関連の犯罪を研究するキャロライン・ディングル氏は、「禁止を効果的なものにするためには、市民の賛同を得ることが重要です」と言う。「禁止の効果を長続きさせるためには、野生動物を食べるのは健康に悪いことなのだと人々に理解させる必要があります」

リー氏は、永久的な禁止を行うなら、政府は繁殖業者から野生動物を買い上げるか、彼らが別の方法で生計を立てられるように補償を行うことが重要だと言う。

近年の消費拡大により絶滅の危機に瀕しているシマアオジについても、もっとできることがある。シマアオジを捕獲することは現時点でも違法だが、取引はまだ減っていないからだ。

今、広州に住む18歳の大学生コーデリアの生活は停滞している。大学は閉鎖され、家族に会いに行くこともできない。自分とは関係のない食文化から生じた生物学的危機について、彼女は「自然から人類への仕返しだと思います」と言う。

けれどもコーデリアは、危機の中で人々が見せている団結や、微博や中国の新聞上の抗議を見てほしいと言う。彼女のインスタグラムには、「革命的な変化が起こる可能性は高いと思う」と記されている。

(文 Natasha Daly、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年1月31日付記事をもとに再構成]

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