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新型ウイルスが出現 中国の野生動物取引に禁止の声

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ナショナルジオグラフィック日本版

2019年9月、中国、北京近郊の農場の納屋に多数の生きた鳥が隠されているのを、環境保護団体が発見して警察に通報した。

鳥たちは違法に捕獲されたもので、中国南部の中華料理店や市場に売られることになっていた。警察は約1万羽の鳥を没収して放したが、その中には、シマアオジという絶滅危惧種も含まれていた。シマアオジが近年激減している主な理由は、一部の中国人が好んで食用にしているからだ。

2020年1月30日に世界保健機関(WHO)が国際的な緊急事態とした新型コロナウイルスの感染拡大が、さまざまな野生動物を売っていた武漢の市場から始まったことで、中国での野生動物の取引に注目が集まっている。

中国政府は1月26日に、危機が終息するまで野生動物の取引を禁止すると発表した。メディアは市場で売られる痛々しい動物たちの写真や、生きたままスープ鍋で茹でられるコウモリの動画を流して世界中の人々を憤らせ、中国ではだれもが生きた野生動物を買って食べているという印象を作り出している。

しかし、現実はそう単純ではない。広州(中国南東部の1400万の人口を抱える都市で、シマアオジの主な渡り先でもある)では野生動物を食べることはごく一般的だが、北京市民が野生動物を食べることはめったにない。

実際のところ、多くの中国人は、野生動物を食べる文化に馴染みがない。チャイナデイリー紙などの政府系メディアは、厳しい言葉でこの習慣を批判し、野生動物の取引を永久的に禁止するべきだとする社説を発表している。こうした呼びかけは、国が検閲している微博(ウェイボー)などのSNS上で多数の中国市民によって増幅されており、中国政府がこの流れを後押ししていることを示唆している。

専門家によると、中国での生きた野生動物の取引の規模ははっきりしない。多くの動物が、食用、医薬品用、記念品用、ペット用に密猟され、違法に輸出入されている。この取引を強力に支えているのは、動物の体の一部に病気を癒やす力があると信じる中国の伝統医学産業だ。

中国政府は、ミンク、ダチョウ、ハムスター、カミツキガメ、シャムワニを含む54種の野生動物について、農場で繁殖させ、食用に販売することを許可している。北京を拠点とするNGO団体で、2019年9月に鳥を救出した中国生物多様性保護・グリーン発展基金会(緑発会)のジョウ・ジンフェン事務総長は、ヘビや猛禽類など、多くの野生動物が密猟されて、国の許可を受けた農場に連れてこられているという。ジョウ氏によると、一部の繁殖業者は、自分たちの動物は保全のために飼育下で合法的に繁殖させたものだと主張しているが、市場やコレクターへの販売も認めているという。

中国に生きた野生動物を取引する市場がいくつあるのかは不明だが、専門家は、数百に及ぶのではないかと見積もっている。カエルは大衆的で安価な食材です、と言うのは、ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナルの中国政策の専門家で、米ヒューストン大学ダウンタウン校の東アジア政治学教授であるピーター・リー氏だ。一方、ハクビシンのスープ、コブラの揚げ物、熊の手の煮込みなどの高級料理を食べられるのは金持ちだけだと説明する。

リー氏自身は、子どもの頃からそのような料理は食べたことはないと言う。「両親が野生動物を料理することはなく、家族で野生動物を食べたことは一度もありません。ヘビを食べたこともありませんし、ましてやコブラなんて」

香港城市大学の社会学・行動科学助教のレベッカ・ウォン氏は、2019年に出版した中国の野生動物の違法取引に関する著書の中で、野生動物を食べることは「中国では一般的」であるとしながらも、紋切り型の見方をしてはいけないと警鐘を鳴らす。「なんでも食べる中国人」のイメージは神話であり、仲間や社会からの同調圧力やステータスを求める気持ちなどの複雑な動機があるという。

2014年に中国の5つの都市で実施された1000人以上を対象とする調査は、地域によって食習慣が大きく異なることを明らかにした。広州では回答者の83%が過去1年間に野生動物を食べていたが、上海では14%、北京ではわずか5%だった。さらに、全国の回答者の半数以上が野生動物を食べるべきではないと答えていた。

同じ市内でも異なる文化

22歳のチャールズと18歳のコーデリアは、野生動物をよく食べるとされる広州の大学生だ。彼らが英語名で利用しているインスタグラムを通し、話を聞いた(ナショナル ジオグラフィックは2人から姓は表記しないように依頼されている。中国政府はインスタグラムの利用を禁止しているが、多くの若者がVPNを利用してインスタグラムにアクセスしている)。

チャールズによると、彼の地域では野生動物を食べるのはごく普通だが、家族はあまり食べず、彼自身はときどき好奇心から食べるだけだという。「市場で野生動物を買うのは年配の人が多いですね」と言い、若者が野生動物を食べない理由は教育にあると考えている。

一方、広州の中心部に住むコーデリアは、家族を含め、野生動物を食べることはそのあたりでは一般的でないと言う。彼女は「私の友人も家族も、野生動物を食べるのは大嫌いです。母なる自然への凌辱であり冒とくです」と断言する。彼女は、現在の新型肺炎騒ぎにより、ほかの人々も同じように考えるようになるだろうと信じている。「新型コロナウイルスの恐ろしい感染を見れば、人々は、野生動物を食べると体にいいという考えが迷信であることに気づくでしょう」

コーデリアもチャールズも野生動物の取引の永久的な禁止を支持しており、SNS微博でも同様の意見がどんどん出てきていると言う。

コーデリアが言うように、一部の中国人は野生動物を食べるのは健康にいいと信じている。その思想は市場価格に反映されている。生きている動物は、死んだ動物より高い値段(しばしば2~3倍の高値)で販売されるのだ。「生きている新鮮な動物の方が効果があると信じられているからです」とリー氏は言う。「死にかけていたとしても、生きてさえいればいいのです」

中国や東南アジアの野生動物市場は「感染症の大釜」

市場で売られる野生動物たちは「錆びた不潔な檻の中で死にかけ、渇きに苦しんでいます」とリー氏。捕獲時に脚を欠いたものや傷ついたものもいるが、そのままの状態で輸送される。「業者の扱いは乱暴で、積み降ろしの際には檻は何度も叩きつけられます。動物たちの苦痛は非常に大きいです」

米国の野生生物保護学会の国際獣医チーフであるクリスチャン・ウォルザー氏は、野生動物の無秩序な取引は人獣共通感染症の拡散につながると言う。彼は、「野生動物は、普通なら人間と接触しえないウイルスを持っていることがあります」と説明する。動物たちはウイルスを持っていても病気ではなく、「無症状の病原巣」の状態にある。しかし、人間が動物の生息地に侵入すると、こうしたウイルスに接触する可能性が高くなる。

米ジョージタウン大学の微生物学・免疫学科のエリン・ソレル助教は、人獣共通感染症の70%は野生動物に由来するものだと言う。人獣共通感染症は危険なものが多い。なかでもHIV、エボラウイルス、SARSウイルスは野生動物からヒトに伝播し、世界的に流行した。

中国や東南アジアの野生動物市場では40種以上の野生の鳥類、哺乳類、爬虫(はちゅう)類が「積み重ねられて売られている」とウォルザー氏は言う。体からの分泌物が空気と混ざり合うとウイルスがやりとりされ、新種のウイルスが生まれる可能性がある。ウォルザー氏はこの状況を「感染症の大釜」と表現する。

いくつかの証拠は、武漢のコロナウイルスがコウモリから来ていることを示唆している。具体的にどの種のコウモリだったかはまだわかっていないが、武漢市場の調査では野生動物売り場からコロナウイルスが検出されている。

野生動物の取引を地下に潜らせない

中国政府による野生動物取引の一時的禁止は、すべての市場、食料雑貨店、ネット通販に適用され、すべての繁殖施設における検疫も定めている。私が話を聞いた動物保護活動家の多くが、この対策は有効だろうと考えている。人々が違反を通報するためのホットラインも設置された。

「これは緊急事態なのです」とリー氏は言う。「すべての人が見ています。禁止に違反するすべての業者が通報されます」。コロナウイルスへの恐怖は、野生動物への需要を減らす可能性がある。生きた野生動物を違法に販売しようとする業者がいても、人々は買いたがらないかもしれない。

中国は以前にも同様の禁止措置をとったことがある。2003年にSARSが大流行したときだ。ハクビシンが感染源ではないかと疑われ、中国政府は野生動物の取引を一時的に禁止した。だが、禁止は半年後に解除され、繁殖施設は取引を再開してしまった。リー氏は、この20年間で生きた野生動物の取引が拡大したかどうかは不明だが、規制を逃れるために、多くの取引が地下に潜ったと考えている。

同じことが再び起こるリスクがあるとソレル氏は言う。「SARSの大流行から15~16年になりますが、今後16年間に野生動物市場から次の感染症は出ないなどとは言えません」

一時的な禁止を永久的な措置にするには、範囲を明確にする必要がある。用語の一部は曖昧で、その解釈は地方の法執行機関に委ねられている。例えば、骨やうろこなどの乾燥した部位の取引も禁止されるのだろうか? 専門家は禁止するべきだと言うが、条文ははっきりしない。

取引の永久的な禁止は、商売の観点から強い反対を受けるだろうとリー氏は言う。氏によると、中国の野生動物のブリーダーに許可証を出している国家林業草原局は「昔から野生動物の利益の代弁者」だった(筆者はこの記事の公開前に同局の職員にコメントを求めたが、返事はなかった)。

ソレル氏は、永久的な禁止は慎重に進めなければならないと強調する。

「個人的には、野生動物が売られなくなった市場を見たいと思います」と彼女は言う。しかし、拙速に禁止を進めると、野生動物取引の全体が地下に潜り、「野生動物の消費はもっと危険になります。どこで消費されているのかも、どこから来たかもわからなくなってしまうからです」

香港大学の保全法医学研究所の進化生物学者で、野生動物関連の犯罪を研究するキャロライン・ディングル氏は、「禁止を効果的なものにするためには、市民の賛同を得ることが重要です」と言う。「禁止の効果を長続きさせるためには、野生動物を食べるのは健康に悪いことなのだと人々に理解させる必要があります」

リー氏は、永久的な禁止を行うなら、政府は繁殖業者から野生動物を買い上げるか、彼らが別の方法で生計を立てられるように補償を行うことが重要だと言う。

近年の消費拡大により絶滅の危機に瀕しているシマアオジについても、もっとできることがある。シマアオジを捕獲することは現時点でも違法だが、取引はまだ減っていないからだ。

今、広州に住む18歳の大学生コーデリアの生活は停滞している。大学は閉鎖され、家族に会いに行くこともできない。自分とは関係のない食文化から生じた生物学的危機について、彼女は「自然から人類への仕返しだと思います」と言う。

けれどもコーデリアは、危機の中で人々が見せている団結や、微博や中国の新聞上の抗議を見てほしいと言う。彼女のインスタグラムには、「革命的な変化が起こる可能性は高いと思う」と記されている。

(文 Natasha Daly、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年1月31日付記事をもとに再構成]

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