ヘンリー王子は「21世紀のウィンザー公」

2年前に夏のロンドンの金融街のシティーを取材で歩いたのだが、ここは日本でいうところの東京の丸の内仲通りである。さぞやチャールズ皇太子のようなブリティッシュスーツをカチっと着こなしている紳士たちがイングリッシュドレープ(胸元のゆとりやすそのフレアから成る優美な曲線)をなびかせて闊歩(かっぽ)しているかと思いきや、歩いているビジネスマンはみんなヘンリー王子のようなスマートカジュアルであった。日本のクールビズと同じようにノータイで、スーツの上着なんか着ている人なんて1人もいやしねーよ。

さらに衝撃の事実を付け加えると、サビルロウ通りも、普通に歩いている人たちの格好はほぼほぼスマートカジュアルである。いやはや、ガッカリするやらビックリするやら。

結婚後、スーツの色は淡い中間色が多くなった=ロイター

「ロンドンの街にはチャールズ皇太子みたいな英国紳士が普通に歩いている」と本気で思っていたら、そんなのは幻ぃ~。東京に来る英国人が「渋谷のスクランブル交差点には忍者の格好をした人が普通に歩いている」と本気で思っているのと同じなんである。

そういえば、私のめいっ子のご主人はスコットランド人で、赤坂の日枝神社で結婚式を挙げたのだが、なんとその時のご主人と義父(おとう)さんの格好はスコットランド伝統のタータンキルトであった。コスプレなんかじゃなくてアータ、本物ですよ。靴もふくらはぎまでシューレースを巻いて履く正統派のギリーシューズであった。思わず「それはトリッカーズですか?」と聞いたら、「なんだそれは?」と逆に聞かれてしまいました。おそらく多くの普通の英国人はトリッカーズなんて靴ブランドは知らないんでしょうなぁ。

うーむ。しかしながら「バブアーやジョンロブを継ぎはぎして大事に着るのがプリンス・オブ・サステナブルである」なんてウルサイこと言ってる世のブリトラオヤジたちは、公式の場でのタキシードスタイルもカマーバンドもせずに出来合いのボウタイをしちゃうスマートカジュアルなヘンリー王子の格好を、果たして認めているのであろうか。

なんとこれが意外にもみなさん、ヘンリー王子の今どきサセックスプリンススタイルに対しては好意的なのである。

先日、バブアーとツイードがドレスコードという、英国スタイルをこよなく愛する人たち(早い話が英国オタクですね)のパーティーに参加したのであるが、ここで集まったみなさんに件(くだん)のヘンリー王子の格好の話をしたところ、誰もが口をそろえてこう言うのだ。

「ヘンリー王子はエドワード8世、ウィンザー公だよね。年上好きだし、選んだお妃もバツイチのアメリカ人女性というのも一緒だし」

エドワード8世ことウィンザー公といえば、メンズファッションに関わる人なら誰もがその名を知る、20世紀最高の伝説のウェルドレッサーであります。「ウィンザーノット」と呼ばれるタイの結び方や、「プリンス・オブ・ウェールズ」と呼ばれる格子柄、フェアアイルニット、「パターン・オン・パターン」と呼ばれる柄合わせや、スーツ×ブラウンのスエードシューズなどなど、今ではメンズファッションで当たり前になっている数々の着こなしはウィンザー公が作ったのだ。

しかし当時はどれも英国王室らしからぬ着こなしで、ルール破りだったんですなぁ。しかも私生活はもっとルール破りで、国王の任務を放棄して年上のバツイチのアメリカのセレブ女性ウォリス・シンプソンと結婚。退位して、ウィンザー公という爵位が与えられた。

なるへそ~。ヘンリー王子は「21世紀のウィンザー公」なんである。そう思えば、皇室らしからぬルール破りな今どきのスマートカジュアルも納得できます。きっと後世には、ラペルの細い丈も短めな細身のスーツをノータイで着こなすスマートカジュアルは「プリンス・オブ・ヘンリースタイル」と呼ばれるようになっているやも知れません。

いで あつし
1961年静岡生まれ。コピーライターとしてパルコ、西武などの広告を手掛ける。雑誌「ポパイ」にエディターとして参加。大のアメカジ通として知られライター、コラムニストとしてメンズファッション誌、TV誌、新聞などで執筆。「ビギン」、「MEN’S EX」、JR東海道新幹線グリーン車内誌「ひととき」で連載コラムを持つ。

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