バスクシャツは漁師や船乗りのワークウエアがルーツ

バスクシャツとは通称で、もとはスペインとフランスにまたがるバスク地方のワークウエアを起源としています。バスクはピレネー山脈からビスケー湾に連なる地域を指し、海バスク、山バスクという言葉があるように食材の宝庫。最近は三つ星レストランが集まるサン・セバスチャンが注目を集め、美食の街として知られています。

ビスケー湾沿いでは漁業が盛んです。ヨーロッパの捕鯨はバスクにはじまるといわれ、戦前までの海バスクはカタクチイワシの漁獲でにぎわいました。アンチョビの多くはバスク産であったと伝えられています。

漁業に携わる漁師や船乗りのワークウエアがバスクシャツでした。短めの袖は道具にひっかからず作業を邪魔しません。ボートネックは海に落ちたときに脱ぎやすいための襟元だといいます。特徴的な青いホリゾンタル・ストライプは、波の動きを表す「海縞」といわれ、海に落ちたときに発見しやすい意匠だともいわれています。

1953年カンヌ国際映画祭でのピカソ(右から2番目)。ベルベットのスーツに毛皮のジャケットだ=AP 

40年代以前のピカソの写真を見ると、たいていはシャツにネクタイを結んでいます。つまり、スーツ姿が多いのです。ところが50年代からはバスクシャツでの写真が増えていきます。写真の中のピカソを比べてみると、バスクシャツ姿の方がぐっと若返ってみえ、リラックスしているように感じます。

60年、終(つい)の棲家となった南仏カンヌの「ラ・カリフォル二」で写された写真をみると、ジャクリーヌと並ぶピカソはシルクと思えるズボンの上に、横縞のタンクトップを着ています。これはバスクシャツそのものではありませんが、同種のスタイルへの偏愛をうかがわせます。ピカソに倣い、シルクとまではいかなくとも、バスクシャツを着るならばどこかひとつ、豊かさを表す小道具をあしらいたいものです。

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「ゲルニカ」をシャツに込められたバスクへの共感