検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

セクハラ・介護… 「移民」も直面する日本の社会問題

国士舘大学 社会学 鈴木江理子(4)

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物を通して、世界の不思議や課題にふれる人気コラム。今回転載するシリーズのテーマは日本の「移民」。U22世代が新しい社会を築くためのヒントに満ちています。同じ時代、同じ社会を共に生きるという視点を通して、一人ひとりの人間の見え方が変わるかもしれません。

◇  ◇  ◇

「今更きけない」レベルの基本的なことを、鈴木さんに教えてもらった。

旧植民地出身のオールドタイマーから、今、問題になっている「留学」「研修」「技能実習」、そして、「特定技能」についても駆け足で見た。

では、現時点で、鈴木さんが問題視しているのはどんな部分なのだろうか。

「政府は、特定技能の制度についても『移民政策ではない』と言い続けています。労働力はほしいけど、怪我したら帰ってください、病気になったら帰ってください、年をとったら帰ってくださいと。労働力としての有用性のみが評価されるわけです。その点では、『特定技能』の制度も『技能実習』と同じです。家族を呼べないのも同じですし」

なぜ政府が「移民政策ではない」ことにひたすらこだわるのか、直接の理由を語ったことがないため、よくわからない。ただ確実に言えるのは、技能実習から特定技能へと移行すると、最長で10年もの期間、日本で、単身、働き続けることになり、その間、日本で出会った相手と家族形成したいと願う若者もかなり出てくるだろうということだ。いや、たとえ5年きっかりであってもそうだろう。やはり実質的な「移民」受け入れにつながっていくのではないだろうか。

「実は、母国に家族を置いておけというのは、つまり、結局賃金も安く抑えることが可能になるということなんです。家族を呼べば、家族が暮らせるだけの賃金が必要になるので。私は家族が暮らせることはかなり大切なことだと思っています。途上国から来た人が、それも単身でしか働けないっていう状況を続けたら、その産業もそういった労働者に依存しつづけることになりますよね。一方で、日本で家族を養えるような環境なら、日本人もそこに戻ってくるかもしれません」

現状では、日本で家族形成をする「日本人」はとうてい働けない労働条件を容認してしまっているわけで、ならば、外国人労働者が家族を呼び寄せても暮らしていけるだけの待遇を実現すれば、それはそのまま「日本人も働ける」場所になっていくはずだ。実は外国人労働者をめぐる議論は、そのまま日本人労働者の問題と直結していることが多い。

それでも、制度は動き始め、また以前にもまして「外国人材の活用」が叫ばれる。

日本人がその労働条件では働けない職場に、かつてはバックドアから、昭和から平成への元号の変わり目からはサイドドアから、そして、令和の今はフロントドアからも人を受け入れつつ、そうこうするうちに、ずいぶん「外国人」はぼくたちの社会に増え、様々なサービスを支えてくれるようになった。

「今回、法律が変わって、今後、5年間で約35万人、つまり、毎年平均7万人受け入れるっていうことで、みんな大騒ぎしています。でも、私たちからしてみると、ここ数年、毎年、10万人、20万人と増えてきたじゃないかと思います。技能実習生だったり、留学生だったり、あとは国際結婚とか、いろんな形で増えていますから。さらに、第2世代、第3世代の子どもも生まれているわけですから、外国人や外国ルーツの人、が増えていくのはもうとっくに始まっているんです」

鈴木さんに言わせれば(いや、この問題に関心を持ってきた人に言わせれば)、「外国人」はとっくに増えているし、すでにぼくたちの社会は彼ら彼女らに支えられている。その中には、「移民」と呼んで差し支えない「定住型」の人たち、移民ルーツの人たちが、もう数百万人もいる。彼ら彼女らはいずれ帰っていくのではなく、ともに生きていく人たちだ。

以上、鈴木さんが大学の講義で語るような内容をかなり単純化してたどった感があるが、大雑把な見取り図は描けたかもしれない。

では、鈴木さんが大学の教室を離れて活動している移住者支援はどんなふうだろう。前述の通り、鈴木さんは「特定非営利活動法人 移住者と連帯するネットワーク(以後、移住連)」の副代表理事だ。

まずは「移住連」について教えてもらおう。

「1996年に前身ができた時には、移住労働者と連帯する全国ネットワークという名称で、労働者がメインだったんです。でも、実際には移住労働者の家族など、労働者に限らない課題にも対応しているので、NPO法人化した2014年に、『移住者』と変えました。海外の会員もあわせて個人が400人超、団体が100団体ちょっと入っています。研究者もかなり多いんです。移住連は、毎年、省庁と交渉をしているので、統計などの情報も持っていますから」

移住者という広い括りの中にどんな人たちがいるのか、すでに今回の連載で解説した。本当に様々な出自の人たちが、様々な時期に日本に来ていることは、あらためて見ると驚くべきことだ。そして、やってきた人たちは、日本で家族形成をしたり子育てをするなどして、ぼくたちの社会に根付いている。移住連がひとつの団体としてすべてにかかわるというよりは、日本各地でそれぞれの問題に対峙している様々な団体や個人がネットワークを作っているというイメージだ。

移住連のウェブサイトを見ると、キーワードとしてこんな言葉が掲げられていた。

ここにいる、と。

移住者であり、移民として捉えるべき人たちが、すでに、ここにいる、という意味だ。

「結局、人間として来ているわけですから、私たちの社会の中にある問題は、移住者/移民たちの中にもあるんです。例えば、私たちが充分に取り組めていないものとして、在日の人とか、中国帰国者の介護の問題があります。第1世代の高齢化が進んでいて、中国帰国者向け、在日コリアン向けの介護施設というのもでき始めています。つまり、ライフサイクルの中であらゆることを同じように経験していくことになります」

本当に活動は多様で、それはそのまま、日本の移住者問題、移民問題の多様さそのものだ。鈴木さんが言う通り、ぼくたちの社会で見られる問題のすべてが同じようにそこにある。

ウェブサイトにも掲載されている主要なプロジェクトの中から、鈴木さんとの話題にあがったものをいくつかピックアップする。

まずは、女性の問題。

「国際結婚などで日本に来た移住女性は、弱い立場にあって、外国人であり女性であるという二重の意味で差別を受けがちです。DVですとか、離婚、地域での孤立、それから、『ジャパゆきさん』に始まるシングルマザーの問題ですね。さらに最近では、技能実習女性のセクハラや労働問題もありますし、介護労働者も多くなって、そこでの問題もあります」

「ジャパゆきさん」とシングルマザーというのは、とても大きな問題で、当然ながら、今では子どもたちも大きくなっている。JFC(ジャパニーズ・フィリピノ・チルドレン)と呼ばれる人たちがおり、これはつまり、日本人男性とフィリピン人女性の子どもたちという意味だ。法的な結婚をしていない場合、父親が認知しないと日本国籍をもらえず、母親とともに大変な思いをする子たちがいる。

さらに、技能実習生が直面する問題は、セクハラなどの被害はもちろんだが、さらに先鋭化したとも言えるケースがたびたび見られる。

「技能実習生が妊娠したら、中絶するか帰国するか選択を迫られるケースは実際にあるんです」と鈴木さんは言った。

家族を伴わない単身渡航でやってくる若者だから、恋愛もするだろうし、妊娠することもあるだろう(またひどい話だが、セクハラの結果として、妊娠に至ることもあるかもしれない)。それでも、あくまで単身での渡航で就労することが条件なので、出産することが制度として想定されていない。

入管法対策というのもとても大きなテーマだ。

「法律が変わるたびに、外国人管理や排除が強化されていくので、私たちは『管理・排除ではなく共生のための制度を!』と言い続けています。例えば、1980年代から90年代にかけて、労働力不足を満たしていたのは、オーバーステイの非正規滞在者が多かったんです。まだ緩やかな排除の時代で、おまわりさんも『あの人はオーバーステイ』と知っていても普通に挨拶して見逃しているような時代でした。でも、21世紀になって、技能実習制度などサイドドアからの労働力供給が十分に機能するようになって、さらにフロントドアからの受け入れも検討され始めたので、じゃあバックドアは閉じましょうと、一斉に摘発を始めました。2003年12月に、半減計画(今後5年間で非正規滞在者を半減する計画)が出された時、本当にできるのかと思っていたら、実際に目標を達成してしまいましたから」

「不法滞在者」と表現すると、「不法」つまり法をおかした人であり、とてつもなく悪い人のような印象を受けるが、実際には、そうならざるを得ない様々な原因がある。例えば、今なら、過酷な職場で、監理団体も味方になってくれないような場合、技能実習生が脱出(失踪)することがある。このストーリーの中で技能実習生は、搾取された被害者だが、しかし、入管法的には、決められた就労を放棄したのだから、不法滞在者ということになる。日本の制度では、自分ではなく受け入れ側に問題があっても、簡単に本人が「不法」になってしまう。

更に最近、当局が問題にしているのは「偽装滞在者」だ。偽造した卒業証明書や虚偽の雇用証明書などを使って不正に在留資格を得た人や、在留資格に定める活動をしていない人のことで、入管は取り締まりを強化する方針だそうだ。

「本来、研修・技能実習制度って『前職規定』っていうのがあって、母国において同じ仕事をしていて、その仕事を日本でより高めていくという建前です。だから、前職についての証明書が必要なんです。でも、例えば、私が聞き取ったある建設会社の現場では、みんな母国では別のことをやっていて、本人たちが知らないまま勝手に履歴が書き換えられてるんですよ。それって本人の責任ではないですよねって法務省担当者に尋ねたんですが、『本人が知らなくても、偽って入ったのだから、発覚すれば退去になります』って答えなんです」

この偽装の問題は、日本に在留するほぼすべての外国人がそれぞれの在留資格に応じて問題にされうるものなので、日本の入国管理は、自由に資格を剥奪できる使い勝手のよい理由をまた一つに手にした感があるという。

なお、はっきりしたものにせよ「偽装」にせよ、入国管理局は入管難民法に基づいて「不法滞在者」を収容施設に収容することができるし、制度上、無期限の収容が可能な仕組みになっている。理由は「不法」であることだが、はたして本当に法に触れているのかを問う裁判は行われず、また、入管の審査内容も公開されない。これだけでも非常に危険な仕組みだ。例えば、日本人との結婚を偽装と疑われ、1年、2年と長期収容されるといったことが実際に起きている。本来このように一段落で済ませられる話ではないものの、付記せざるを得ない。

さらに、「外国につながる子ども・若者」の問題。

もうお気づきと思うが、移住連が掲げるプロジェクトは、それぞれ排他的に領域が決まっているわけではなく、互いに密接に連関している。

例えば、これまでにも話題に出た「女性の技能実習生が妊娠した場合」を考えてみると、最初は「女性の問題」に見えていたところから、様々な問題が顔をだす。

そもそも、在留資格が受け入れる企業を前提として与えられている場合、セクハラや低賃金にも我慢を強いられることが多いわけだし、そんな状況下で妊娠したら、中絶するか、帰国するかの二択であり、「失踪」して子を産めば、非正規滞在になってしまう。それでも、産む選択をしたら、まずは、医療問題や社会保障の問題が浮上し、さらにその後、子どもや若者の問題へとつながっていく……。

「当たり前ですけど、子どもって生まれたときから自分がオーバーステイだって知ってるわけではないんですよ。でも、小さい頃から、夜、自転車に乗るときには必ずライトをつけてねとか、すごく厳しく親から言われて、何でここまで言われるんだろうって思ってたら、実はオーバーステイだからと知らされたりするんです。そうすると、普通の子どもならば怒られたり注意されるだけで済むことでも、自分はそれでは済まないと分かってきて、すごく気をつけて毎日の生活を送るようになります。生まれた時から日本で育って日本語で暮らしているのに、言葉が通じない、知らない国に送還されたらどうしよう、って不安のなかで生活している子どももいます」

その一方で、在留資格はあるけれど、あるいは、日本国籍はあるけれど、「日本語指導が必要な児童生徒」(文科省調査)は年々増えている。また、前にも触れたように、国籍取得とともに「ルーツを消される」という問題も別の極にある。結局、「移民政策はとらない」「厳しい外国人政策で管理、排除すればいい」という発想のしわ寄せが、まるまる子どもたちに行っているように見える。

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2019年8月に公開された記事を転載)

鈴木江理子(すずき えりこ)
1965年、愛知県生まれ。国士舘大学文学部教授。博士(社会学)。NPO法人移住者と連帯するネットワーク(移住連)副代表理事。2008年、一橋大学大学院社会科学研究科社会学博士課程修了後、国士舘大学文学部准教授などを経て2015年より現職。『日本で働く非正規滞在者』(明石書店)で平成21年度沖永賞を受賞したほか、『外国人労働者受け入れを問う』(岩波ブックレット)、『移民受入の国際社会学 選別メカニズムの比較分析』(名古屋大学出版会)、『移民政策のフロンティア 日本の歩みと課題を問い直す』(明石書店)、『移民・外国人と日本社会』(原書房)など共編著書も多数ある。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、ブラインドサッカーを舞台にした「もう一つの銀河のワールドカップ」である『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_