ANAに聞くCA採用の舞台裏 服装やメイクは大事?
今も昔も、女子学生に人気の職業のひとつが客室乗務員(CA)です。一時は契約社員としての採用でしたが、今は正社員として採用する企業も増え、志望する学生のタイプも広がってきているそうです。文系女子学生による人気就職ランキングで1位を獲得した全日本空輸(ANA)の客室乗務職の新卒採用について学生が本当に知りたい20のぶっちゃけ質問を、人財戦略室ANA人財大学の乙崎友平さんに聞きました。
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2019年4月に発表した「マイナビ・日経2020年卒大学生就職企業人気ランキング」で文系女子の1位となった全日本空輸(ANA)。とりわけCAは今も昔も人気職種。ただ、以前の「華やか」「海外に行けるから」という理由ではなく、「活躍している女性が多いので長く働き続けられそう」「出産後の制度が整っている」などと、働きやすさを重視する声が多くあがっているとのこと。そんなANAはどんな人を求めているのか、そしてどんな採用活動をするのか、入社した後の給料はどの程度で、どんな働き方をすることになるのか、日経doors編集部が学生に代わって、ANAの本音を徹底的に探ってきました。
日経doors編集部(以下、――) 学生に大人気のANA。今日はANAがどんな採用活動をするのか、そしてどんな人を求めているのか、ズバズバ質問していきます! よろしくお願いいたします。
乙崎友平さん(以下、乙崎) よろしくお願いします!CAの採用というと、「化粧が華やかでないとダメ」とか「背が高くないとダメ」など、インターネットを介した誤解も多いので、ぜひ正しい情報を知っていただきたいと思います!
―― (1)まず押さえておきたいのが、選考過程です。教えてください!
乙崎 CAの新卒募集人数は、今年は500人です。募集が開始になったら、まずはウェブでプレエントリーをしてもらいます。さまざまな職種に同時併願ができますので、プレエントリーの後に職種別エントリーをしていただき、その内容を基に書類選考を行います。
新しい取り組みとして、職種エントリー項目に自己紹介動画を加えました。1分間の自己紹介動画を撮って、アップロードしてもらっています。書類選考の後、一次選考として5人1組のグループ面談があり、合格すると二次選考の個人面談へ進みます。そして、部長クラスと個人面談を行う最終選考を経て、内定となります。
―― 動画ですか! 撮る学生も大変ですね。
乙崎 いやいや、最近の学生さんは動画を撮影するのはとても慣れているので、そこまで負担を感じられていないようです。それに他社でも動画を導入している企業は多いので、うちが初めてというわけではありません。何度も撮り直しができるので、面接では緊張してうまく言えないことも動画なら失敗なく伝えられるというメリットもありますよね。それに採用担当としても、書類だけでは伝わらない人となりを知ることができます。エントリーシートだけに頼るのではなく、できるだけ多くの情報の中からその方の本当の良さを見つけ出したいと考えています。
―― なるほど。ネットの話も出ましたが、CAの採用はいろいろ噂もありますよね。(2)採用活動で注意されていることは何ですか?
CA専門のスクール、必須ではない
乙崎 インターネットを介した情報では、「CA風のメイクをしないと受からない」など、間違った情報もありそれに惑わされてしまう人もいます。そのため、説明会では、選考のステップや時期などの基本情報も含めて、会社や職種についての正確な情報を伝えることを意識しています。
また、CA専門のスクールに通わなければ内定がもらえない思っている人もいるようですが、そんなことはありません。確かにスクールに通うと、同じ職業を目指す仲間と出会い、切磋琢磨(せっさたくま)して頑張れるというメリットもありますが、実際の内定者は、特殊な準備をされていない人も多いんです。客室乗務職だけを志望している方ではなくても、ANAに少しでも興味を持ってくださる方なら誰でもエントリーしていただきたいということを、説明会では強く伝えています。
―― 内定者の大半が、スクールに通っている人なのかと思っていました。むしろそうでない人の方が多いのは意外です。(3)具体的にどんな人を求めているのですか?
乙崎 多様な人に入社してほしいと思っています。CAだからと特別に身構えずに、気兼ねなくエントリーしてほしいですね。
採用過程で意識しているのは、「ANA's Way」というグループの行動指針です。それは、「安全」「お客様視点」「社会への責任」「チームスピリット」「努力と挑戦」。これらを体現できる人にぜひ来ていただきたいので、面接での質問もこれらのキーワードで学生生活やそれまでの人生で体験したことを伺うケースはあるかと思います。これまでの採用を振り返ってみると、意図をしたわけではないのですが、内定者には素直で心根が優しくて、聡明(そうめい)な人が多い気がします。
―― でもやっぱりCAさんはきれいで華やか印象があります。(4)顔や服装やメイクは採用に関係ありますか? それにCAさんは背が高くないとなれないなんて噂も聞いたことあります。
顔や身長、学歴は関係ある?
乙崎 顔や身長は関係ないですよ! それに、ネットでは「面接はこういう着こなしやメイク、ヘアスタイルで行くべき」などと紹介されてはいますが、ANAの採用ではそういったポイントは重視しません。学生さんが慣れないメイクをして、不自然になってしまっているケースもあります。ですからそこは心配せずに、一般的な就活のスタイルでいらしてください。実際、面接はそういう方が圧倒的に多いです。
―― (5)では学歴や年齢などはどうですか? 多少関係しますか?
乙崎 新卒採用の応募資格に合致すれば、文系理系、学部問わず、どなたでもエントリーが可能です。今年でいうと、応募資格は、2019年4月から2020年3月までに専門学校、高等専門学校、短期大学、4年制大学、大学院を卒業、または修了見込みの方。出身校は、情報のひとつとしてエントリーシートに記入はしていただきますが、学歴だけで採用の判断をすることはありません。
―― 学歴だけでは採用の判断材料にならないのですね! いじわるな質問かもしれませんが、そうは言っても、(6)「うちの会社、この大学出身者が多い」というのはあるのでは?
乙崎 学閥や、特定の大学出身の社員が多く出世している、ということは全くありません。
―― いじわるな質問を続けます!(7)こんな人を採用して失敗したというのはありますか?
乙崎 人それぞれによって成長のタイミングはあると思うので、今は実績が出せなくても後から活躍するという人もいる。そういう意味で、採用して失敗した人はいません。
―― 失敗した人がいないというのはすごいですね! 確かに成長のタイミングは人それぞれだと思いますが(8)「私は自分の成長を考えて、早いうちに転職するつもりです」と堂々と言う学生は、アウトですか?
乙崎 将来は転職したいと考えている方もぜひエントリーしてください。私たちは、入社した人が育っていってほしいと思っていて、転職ができるということはそれだけ成長したということ。いろいろな経験やキャリアを積んでほしいので、転職がその方の目指すキャリアであったとしても否定すべきでないと思います。ただ、やっぱりずっと働きたいと思ってもらえるような会社にしていきたいですし、実際に入社した方は長く働いてくれています。ANAの客室乗務職の離職率は毎年、下がっていて、今は4.5%と低い水準です。
―― なるほど。では、(9)最近は副業ばやりですが、「成長したいから副業したい」という人は採用しますか?
乙崎 副業を認める制度は現時点はないので、副業をしたい人は申し訳ないです。
―― CAをやりながら副業するというのも難しそうですよね。では、ここからは、入社してからのことをどんどん伺います! まず、いきなりなのですが、学生さんが最も気になっているけれど、正面切って聞くことはなかなかできない、(10)休暇と給料について教えてください。
CAの初任給って安い? 高い?
乙崎 有給休暇の消化率は、客室乗務職はほぼ100%です。残業については、便の遅延などやむを得ない場合は勤務時間が伸びることはありますが、基本的にはありません。
初任給は、大卒で月額18万319円。この金額に、フライトの時間に応じた乗務手当がプラスされます。
―― 有給休暇の消化率100%、残業ほぼナシは理想的な職場ですね。 ちなみにフライトの時間に応じてプラスされる乗務手当っておいくらなんですか?
乙崎 その月のフライト時間や路線などによっても変わるので、この場では控えさせていただきますね(笑)。ただ、学生の皆さんが考えられているより、予想以上に手取りは多いと思います。
―― (11)こういう残業や給料について、質問してくる学生ってどう思います? 皆、なかなか聞きたくてきも聞きづらいと思うのですが。
乙崎 待遇については、むしろ聞いてもらえるとありがたいです。客室乗務職は一時契約社員となり、2014年から正社員化されました。ただ、ネットでの誤った情報などで、処遇があまり良くないと誤解している方もいるようです。実態とは異なるので、不明点はどんどん解消して、正しい情報を得ていただきたいです。人生設計を考える上で給与も非常に大きな要因ですので、待遇や制度について、遠慮なく質問していただければと思います。
―― では、こちらも遠慮なく質問を続けます!(笑) (12)残業時間や給料と同じくらい気になるのが、やりたい仕事につけるかどうか、です。希望の仕事に手を挙げられる制度などあるのですか?
乙崎 異動はありませんが、総合職への転換制度や、一定期間別部署のスタッフとして働き、その経験を客室乗務職へ持ち帰るスタッフアドバイザーという制度があります。1年に1回、上長との自己申告面談で、現在の業務上のスキルの確認をしながら、キャリアの希望を上司に伝えることができます。
入社後の昇進・昇格のステップとしては、まず数年は、CAとしてそれぞれのクラスでのサービスができるよう、スキルを上げていきます。その次は、各クラスのマネジメントや、フライトごとのマネジメント。そしてCAの班長や副班長を任され、マネージャー、部長という形でステップアップしていくのがモデルケースです。
―― なるほど。(13)改めて伺いますがCA職種で働いている人はほぼ女性ですよね?
乙崎 2018年4月時点で約7800人いるCAのうちほとんどが女性ですが、もちろん男性もいます。これから増えていくのではないでしょうか。会社全体では、男性4:女性6の割合です。
―― 女性が多いから無いとは思うのですが、(14)男女の昇進の差、などはあるのでしょうか?
乙崎 男女で差はありません! 女性役員や女性管理職は年々増加しています。
―― 具体的に、(15)取締役、管理職における女性比率を教えてください。
乙崎 ANA全体で、2019年4月時点の女性役員は、全体42人中5人。うち3人が、元CAです。取締役18人のうち、女性の社内取締役は1人です。また、女性管理職の比率は14.6%です。
育休後の働き方は?
―― 女性管理職が年々増えているということは、(16)妊娠中や育児休業、育休後の復帰制度も充実していそうですね。
乙崎 CAが長く働くことをサポートする制度が整っているため、育休を取得したCAはほぼ全員復帰しています。
育児休職は、最長で子どもが満2歳に達する日が属する月末まで取得できます。CAは、毎日決まった時間で飛行機を降りて退勤するわけにいきませんから、時短勤務の制度はありません。その代わり、子どもの小学校3年生修了時まで、出勤日数を5割、7割に減らせる短日数勤務の制度を利用できます。5割勤務だと、だいたい月に10日間、長距離国際線を含めた2~3本のフライトで仕事をするイメージです。泊まり勤務の日だけ、ご家族に子どもを見てもらうという方が多いですね。30代になると子どもの年齢や有無にかかわらず、9割の短日数勤務を利用でき、40代になると、子どもの年齢や有無にかかわらず、5割、7割の短日数勤務を利用できます。
子育て中にフルタイムで働く社員には、有給休暇とは別に月に3日間好きなタイミングで休暇を取得できる「育児日」の制度も。また、家族に育児のサポートを頼れない社員のために、託児、ベビーシッターサービス利用時の補助や割引などもあります。
―― ということは、(17)平均就業年数も長いのですかね?
乙崎 平均就業年数は組織の構成人数によって大きく変わるので一概には言えませんが、全体で13.8年です。男性は20.6年、女性は9.9年です。以前は、CAは結婚や出産を機に退職するというイメージがありましたが、今は子育てをしながら働くことをサポートする制度がたくさんあるため、年々、女性の離職率が下がっています。
―― (18)転勤制度なども気になります。
乙崎 CAとしての転勤はありません。勤務地は東京がメインで、大阪というケースも一部あります。一定期間、研修という形で海外に行くことや、マネージャーとして海外の拠点に赴任することはありますが、一定期間で転勤する制度はありません。
―― 女性にとって働きやすい仕組みがいろいろと準備されているのですね。(19)さらに「一押し」の福利厚生はありますか?
乙崎 福利厚生は社員を支える大切な制度ですので、どの制度も自信を持って設定しています。一般企業と同じ一通りの福利厚生は整っています。
―― 最後に、(20)そんなANAの社風を一言で表現してください。
乙崎 個人的な捉え方になりますが、風通しがよく、あたたかい会社です! いろいろな方のエントリー、お待ちしています!
(取材・文 川辺美希、撮影 花井智子)
[日経doors 2019年10月2日付の掲載記事を基に再構成]
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