検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

外国人労働者が苦しむブラック職場 制度の看板と矛盾

国士舘大学 社会学 鈴木江理子(3)

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物を通して、世界の不思議や課題にふれる人気コラム。今回転載するシリーズのテーマは日本の「移民」。U22世代が新しい社会を築くためのヒントに満ちています。同じ時代、同じ社会を共に生きるという視点を通して、一人ひとりの人間の見え方が変わるかもしれません。

◇  ◇  ◇

日本で暮らす外国人、本稿の文脈では「移民」について、戦後から20世紀中の流れを見てきた。

歴史をおさらいするつもりが、人間の移動についての話なので、話題になったトピックにはそれぞれ、今につながる物語があることを知った。つまり、日本にやってきた彼ら彼女らとその子どもたちは、もうずっとぼくたちの一部なのである。

ただ、そういうことは見えにくい。特にアジア系だと、見た目では分からなくなるし、それ以上に、移民の受け入れに慣れていない国ゆえの独特の事情もあるかもしれない。

「たとえば、日本人の親を持つダブル(ハーフ)の子には、日本国籍が付与されます。そうすると、『日本人』として扱われ、もう一方のルーツが奪われてしまうんです。日本国籍だから『日本人』とみなされ、日本以外のルーツはないものとして、彼ら彼女らが受け継いでいるはずの母語や母文化を尋ねることもなければ、配慮したり、尊重することもない。これが移民国家のアメリカであれば、統計を取るときに人種や民族カテゴリーを尋ねますよね。でも、日本では、国籍は聞くけども、民族・エスニックのカテゴリーは聞きません。日本国籍になって、国民になったあなたたちは、もう日本人なんだってことですよね」

日本では、日本国籍であることと「日本人」であることは、ほぼ同義だと観念される。実際には、よその国にルーツを持つ日本国籍者はたくさんいるのに、そういった存在は、法的にも行政的にも基本的に「存在しない」ことにされてしまう。

「この社会で生きていくには日本的であらなければならないという同化圧力があります。異なるルーツをもっているからこそ、日本人以上に礼儀正しくなければいけないですとか、ダブル(ハーフ)の子どもたちも、無意識のうちに習得していきます。やっぱり、なかなか本当の意味の多様性って難しいですね。多様な人が暮らす社会になったはずなのに、多様な社会にならない……」

そのようなわけで、日本において、3世以降が社会に出てくるような比較的古い時期の「移民」について、「ルーツを奪われる」あるいは「ルーツを隠蔽せざるをえない」「過剰に同化しようとせざるをえない」ような状況が起きていることは覚えておいた方がいい。

そして、その上で、前回の話題だった「日本の移民史」をさらにたどっていく。

もともと、ぼくは「留学」「研修」「技能実習」「特定技能」といったことについて混乱しているのだが、ここから先、まさにそういったことに直接関係していく。

「まず、留学生です。1983年に大学の国際化をめざして『留学生10万人計画』が出されたのですが、当初はあまり増えませんでした。その後、18歳以下人口が減少し、定員割れに悩む大学が積極的に受け入れるようになり、次第に留学生が増加し、2008年には『留学生30万人計画』が策定されました。そして今、実際に30万人ほどの留学生がいます。『留学』の在留資格だと、原則、週28時間(以前は週20時間)のアルバイトが認められるので、彼ら彼女らは飲食店などのサービス産業の貴重な労働力になっています」

ぼくが近所のコンビニで頻繁に見るようになったのは、週に28時間の枠内でアルバイトをしている留学生だ。このところ存在感が増しているのは、よく報じられるようにコンビニのアルバイト不足で、複雑な対応が必要な接客の現場でも積極的に雇用されるようになったからだろう。

しかし、留学生はあくまでも留学生だ。勉学が本分なので、労働力としてあてにするのは本末転倒だ。彼ら彼女らが、就労するのはあくまでも将来のことなのだ。

ちょうど80年代後半、バブル景気の労働力不足が問題になった頃、それを埋めたのは、就労できる在留資格を持たない「非正規滞在者」だった。

「短期滞在(観光)などの資格で来て、そのままオーバーステイしていくケースです。当時は、入国管理も今ほど厳格ではなく、観光ビザで入ったまま働く人たちがいました。3K(きつい、きたない、危険)と呼ばれるような、日本人労働者が敬遠するような職場を、そういった外国人労働者が支えていたのです。1993年の時点ではおよそ30万人いました」

日本国内に労働力需要があり、近隣の国から呼応するかのように労働者が集まった。意図して呼び込んだというわけではなかろうが、労働力不足に悩む企業にとっては、貴重な労働者であった。

しかし、この状況はやがて変わっていく。

「1989年の入管法改定が1つのターニングポイントです。日本の優れた技能等を途上国に移転する国際貢献としての研修制度が、それまでは留学の一形態だったものから、独立した在留資格『研修』になりました。また、同じ入管法改定で、新たに『定住者』という在留資格がつくられました。これは、就労に制限のない在留資格で、どのような職種で働くことも可能なのですが、改定入管法が施行される90年6月の直前の5月になって、定住者告示という法務省の省令で『日系3世(とその配偶者、及び未婚未成年の子)』がそれにあたる、とされたんです。政府は『単純労働者』は受け入れないと言いながら、実際のところ『単純労働者』を必要としていたということです」

1989年といえば、年末に日経平均株価が史上最高値を記録したバブル景気の最盛期だ。オーバーステイの非正規滞在者ではなく、「合法的な」ルートを作ろうと日本政府が取った方法は二本立てだった。まず、留学生の延長だった「研修生」(学ぶ人)を独立した在留資格「研修」として認めること。そして、南米などの「日系3世」を「定住者」として認めることだ。

この時点では、就労に制限のない「定住者」の方がより「使いやすい」ものだったことが想像できる。

「90年代は、ブラジルやペルーなどの日系南米人が急増しました。愛知県豊田市や豊橋市、静岡県浜松市、群馬県太田市や大泉町といった、製造業が集積する特定の地域に集まる傾向があります。リーマン・ショックを契機とした景気低迷によって職を失い、帰国した人も多いのですが、今なお20万人以上が日本で生活しています」

では、研修生の方はどうなったのだろうか。

「もともと国際貢献なので、大企業が受け入れることを前提とした制度だったのですが、施行直後の90年8月に、事業協同組合などを受け入れ団体とする団体監理型というのができるんです。これによって、中小零細企業も受け入れられるようになりました。ただし、在留期間は1年だけですし、受け入れる側からすると、手続きなどが煩雑であまりうまみがない。そこで、93年に技能実習という、学んだ後に働いてその学びを活かしてもらいましょうという制度ができて、1年研修・1年技能実習というふうになりました。さらに、97年には最長3年に、2017年には最長5年の滞在が可能になりました。また、当初は研修から移行できる職種が製造業を中心に17分野に限られていたんですが、2000年代に農業や水産加工なども移行職種に加えられて、大幅に人数が増えていきます。農業だけでなくて、牡蠣の養殖ですとか地場産業なんかですね」

ここで印象深かったのは、こういった職種の指定や最長の期間などが、法律で決まるのではなく、省令でとてもカジュアルに変更されてきた、ということだ。つまり国会で議論されることなく、省庁レベルで自由に決めてしまえるような話になっている。その結果、企業側から見た使い勝手がどんどん「改善」されることになったのではないかと批判的に見ている人が多い。

「労働力不足の供給源、しかも安価な供給源です。転職ができないわけだから、最長5年、安定的な労働力供給になります。技能実習生を雇用せざるを得ないようなところって、日本人を雇ってもすぐ辞めちゃうところが多い。そうすると、結局はまた募集しなければならなくなって、そういった募集コスト、採用コストも非常にかかってしまうんだけども、技能実習生なら安価で安定的です。基本的に20代で、若くて無理がきくので、長時間労働も大丈夫だろう、って雇用主にとってみれば、非常に使い勝手がよい制度になっていきました。一たびそれに依存してしまうと、賃金水準が抑えられるので、ますます日本人が働こうとしない職場になっていきます」

ここに来て、ずっと問題にされる低賃金労働などの問題の背景が見えてきた。

「日本語がほとんどできないので、声を上げることがなかなか難しいですし、また多くの実習生が来日に当たって借金をしてくるので、借金も返さなければいけません。だから途中で声を上げたら帰されてしまうかもしれないと、『声が奪われている』のが技能実習生の特徴的な状況です。声を奪っているからこそ、雇用主は安心して劣悪な状況に押し込めておける、と」

悪い方に転がり始めれば、いくらでも転がっていってしまうような方向付けが制度自体の中に内蔵されている。そこには、中小零細企業に技能実習生を斡旋する監理団体の存在も大きいという。

「中小零細企業は、監理団体を通じて技能実習生を受け入れます。わかりやすく言うと、企業に代わって実習生の支援を行うのが監理団体で、企業は実習生1人あたりにだいたい月3万円くらいの管理費を払うんです。もしも100人いれば、それだけで毎月300万円で、実習生を受け入れれば受け入れるほど、監理団体の収入は増えます。農家さんに普及していったのも、監理団体が営業をかけて『この制度を使うといいですよ』っていうふうに誘ったことが大きい。で、一たび使うと、確かに便利なので、依存していってしまう仕組みが構造的に組み込まれています。グローバル化の中でコスト削減が、企業にとって非常に深刻な課題になっているのとリンクする形で、受け入れが拡大していきました」

低賃金や長時間労働などのひどい状況は、団体監理型の技能実習で特に起こりがちだとされている。しかし、大企業による企業単独型でも、日立製作所三菱自動車という超大手企業とその関連企業でも改善勧告や改善指導を受けるなど、やはり制度としての構造的な問題が浮き彫りになっている。2010年には、国連特別報告者が「奴隷的状態」と表現し、アメリカ国務省の「人身取引年次報告書」が、「人身取引に該当する」との見解を明らかにしていたほどだ。

「本来、技術移転、国際貢献のための制度のはずなのですが、あまりにも制度の看板と実態が違うので、みんな制度の看板を忘れてしまっています。2016年11月に成立した技能実習法(17年11月施行)では、適切に受け入れている優良なところは在留期間を延長するとなっていますが、その『優良』って、労働法を守っているという意味で、技能移転がしっかりとなされているかっていうことではないんですよね」

本来の労働力不足の解消ための制度ではないけれど、一応、合法的な在留資格を持っている人たちを、別の名目(技能移転)で労働させるという点で、こういうものを「サイドドア」と鈴木さんは表現した。かつてのオーバーステイの労働者は、就労どころか在留資格もないのだから「バックドア」(裏口)である。

そして、1993年に創設されて以降、技能実習の仕組みは20年余りにわたってブラッシュアップされ、雇用者にとっては使い勝手のよい、一方で、そこで働く人々にとっては「奴隷的状態」「人身取引」とすら言われるまさに人権問題の象徴のような制度になっていった。

国内外からの批判にさらされて、日本政府も重い腰をあげて「フロントドア」からの受け入れを検討し始め、満を持して導入されたのが、今年(2019年)からの「特定技能」である。これは、日本ではじめて、表玄関、フロントドアから「単純労働者」を受け入れる政策だ。これによって、これまでの矛盾は解消されるのだろうか。

「──フロントドアからの受け入れ、つまり、日本社会が必要としている労働者を、別の名目ではなく労働者として受け入れるという点では、私は評価をしています。ただし、職種がまだ14分野と限られていて、他はやっぱり技能実習に依存しなければいけないんです。例えば四国で最近問題になったのはタオル工場でしたが、縫製・繊維は14分野の中に入っていません」

「──あと技能実習から特定技能への移行が可能なんですよ。国際貢献と労働力不足への対応、目的が異なる2つの制度がつながること自体おかしいですよね。しかも、移行が可能ということは、結局、技能実習の送り出しや受け入れの利権が引き継がれてしまう。そのしわ寄せがすべて当事者のところにいっている状況なので、ここを切り離さないと駄目だと思っています」

そのようなわけで、フロントドアから受け入れを開始した現況は決して予断を許さない、と鈴木さんは考えている。

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2019年8月に公開された記事を転載)

鈴木江理子(すずき えりこ)
1965年、愛知県生まれ。国士舘大学文学部教授。博士(社会学)。NPO法人移住者と連帯するネットワーク(移住連)副代表理事。2008年、一橋大学大学院社会科学研究科社会学博士課程修了後、国士舘大学文学部准教授などを経て2015年より現職。『日本で働く非正規滞在者』(明石書店)で平成21年度沖永賞を受賞したほか、『外国人労働者受け入れを問う』(岩波ブックレット)、『移民受入の国際社会学 選別メカニズムの比較分析』(名古屋大学出版会)、『移民政策のフロンティア 日本の歩みと課題を問い直す』(明石書店)、『移民・外国人と日本社会』(原書房)など共編著書も多数ある。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、ブラインドサッカーを舞台にした「もう一つの銀河のワールドカップ」である『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

関連企業・業界

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_