戦前から現代まで 日本で暮らしてきた多様な「移民」国士舘大学 社会学 鈴木江理子(2)

多くの外国人が日本に住んで働くようになると、国際結婚も多くなる。特に「ジャパゆきさん」たちは接客を通じて日本人男性と知りあう立場だったので、日本人男性と結婚したり、シングルマザーとして日本人の子を生み、養育するようになったケースも多い。さらにいえば、日本人配偶者が見つからない農村の男性のもとに、アジア各国から結婚のためにやって来た「農村花嫁」の存在も80年代後半以降、増えていく……。

20世紀中の経緯をこのあたりまでたどったところで、いったん「年代記」を中断する。

というのも、ちょっとした注意喚起をしたいからだ。

こういった時期に日本にやってきて定着した人の子どもたちは、今、本稿を読んでいるであろう成人した日本語話者にとって、ともに同じ社会の中で成長してきた隣人であり仲間だからだ。それどころか、まさに「その人」も読者にはいるだろう。

川端裕人さん。

歴史的な経緯を聞くつもりで、実際に「残留孤児」や「インドシナ難民」や「シャパゆきさん」など、最近、聞くことが少なくなっていた言葉を再確認しつつ、ふと気づいた。言葉を聞かなくなったからといって、彼ら彼女らや、その子どもたちは、いなくなったわけではない。それどころか、あれ以来、ずっといるのであって、「ぼくたち」の中の確固とした一部なのだ、と。

「学生の中にも中国帰国者の3世の子とかいますし、インドシナ難民の子も小中学生ならほぼ3世です。学生には、異なる背景をもつ人と出会うことを大事にしてほしいので、そういった友だちに出会ったときに、彼女とか彼のことが理解でき、本人たちも自信を持って自分のことを伝えられるようにできればと思っています。それで、どんな背景があってやってきた人たちがいるのかを伝えるようにしてます」

ただし、本人が自分のルーツを明らかにしたくない場合もある。

「気をつけなければいけないのは、外国ルーツとか移民の背景に、私たちの側がこだわりすぎて、あなたにはこのルーツがあるんだから、それを大事にしなさいって押しつけるのは、してはならないということです。授業が終わった後にこっそり来て、『先生、他の人には言わないでね』って、自分が外国ルーツだと教えてくれる学生もいます。アジア系だと、見た目ではわからないですし、日本生まれだったり、幼少期に来日したりしていて、日本語も普通に読み書きできる子だと私もわからないですから。ただし、『言わないでね』と伝えなければならないこと、ルーツを隠そうとする気持ちの背景を考えてみる必要があると思っています」

均質だと多くの人が思っている日本の社会で、外国ルーツの子どもの生きにくさというのは、想像にあまりある。それは、在日コリアンたちの7割が今も「通称名」で生活していることにも通底しているだろう。実はこの社会にはこれほどの多様性があるのだと気づくべきだという立場だとしても、「ルーツを大事にせよ」と強要するのはおかしなことだと鈴木さんは考えている。

「ただ、これまで接してきた子どもや若者たちの経験からすると、何かのきっかけで、ルーツに目覚めるときがくるんですよ。それまでは絶対嫌だって言っていたのに、言葉を学んでみるとか、自分の国に行ってみるとか。それで本人が目覚めることができれば、本人なりにルーツを受け入れて、葛藤がありながらも、自分自身の存在を肯定的に受けとめられたということです。しかも本人がそう思えるということは、周りの人たちがそういう本人を認めているということだと思うんですね。そうやって自分のルーツに自信が持てたのなら、それは大事にしてほしいなと思います」

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2019年8月に公開された記事を転載)

鈴木江理子(すずき えりこ)
1965年、愛知県生まれ。国士舘大学文学部教授。博士(社会学)。NPO法人移住者と連帯するネットワーク(移住連)副代表理事。2008年、一橋大学大学院社会科学研究科社会学博士課程修了後、国士舘大学文学部准教授などを経て2015年より現職。『日本で働く非正規滞在者』(明石書店)で平成21年度沖永賞を受賞したほか、『外国人労働者受け入れを問う』(岩波ブックレット)、『移民受入の国際社会学 選別メカニズムの比較分析』(名古屋大学出版会)、『移民政策のフロンティア 日本の歩みと課題を問い直す』(明石書店)、『移民・外国人と日本社会』(原書房)など共編著書も多数ある。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、ブラインドサッカーを舞台にした「もう一つの銀河のワールドカップ」である『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)。
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