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実は身近に300万人超 日本はすでに「移民社会」

国士舘大学 社会学 鈴木江理子(1)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物を通して、世界の不思議や課題にふれる人気コラム。今回転載するシリーズのテーマは日本の「移民」。U22世代が新しい社会を築くためのヒントに満ちています。同じ時代、同じ社会を共に生きるという視点を通して、一人ひとりの人間の見え方が変わるかもしれません。

◇  ◇  ◇

2019年4月、日本の労働力人口が減るなかで在留資格「特定技能」が導入された。その一方、低賃金や長時間労働など、外国人労働者の過酷な実態が話題に上っている。日本に暮らす外国人たちは今、どんな状況に置かれ、どんな問題があるのだろうか。移民政策を専門とし、外国人支援にも取り組む鈴木江理子先生の研究室に行ってみた!(文 川端裕人、写真 内海裕之)

労働力人口が減っている日本では、「外国人材の活用」が重要になるという。

そういえば、最近、外国から来た(と思われる)人が日本で働いている姿をよく見かけるようになった。

ぼく自身の日常生活の範囲内で、一番目につくのはコンビニだ。徒歩圏内のとある店舗では東南アジア系の女性が、別の店舗では中東系の男性が深夜、レジを打ってくれる。「またおこしくださいませ」と流暢に言いつつ、両手をお腹に合わせて丁寧に腰を折る「コンビニ挨拶」も完璧だ。

彼ら彼女らは、どんな立場で働いているのだろうかと気になって検索してみると、コンビニの場合は留学生のアルバイトが中心だと知った。

その一方で、東京の私立大学で、3年間で1600人もの留学生の行方が分からなくなっているというニュースも検索にかかってくる。本来は勉学のために来日したはずの留学生たちが、大学には来なくなってどこかで就労しているらしい。近所のコンビニの留学生たちは、その点、大丈夫なのだろうかと心配になる。

さらに、留学生たちとそれほど年齢が変わらない若者たちが、「技能実習生」として来日しており、しばしば、とてつもない低賃金で違法に働かされているというような報道も多い。各地で低賃金や賃金未払いの問題が続発していたり、暴力を受けたり、セクハラを我慢せざるを得なかったりする人たちが後を絶たないようだ。2017年の厚労省の立入検査では、技能実習生が働く7割の事業所で労働基準法が守られていなかった。そういえば、かつて「研修生」が同じようなひどい目にあう話も聞いたことがあるが、それとどう違うのか、ぼくは今ひとつよくわからない。

今年の4月からは、「特定技能」という新たな在留資格で就労する人たちが出てきていることも報道されている。これは、14の分野(外食、宿泊、介護、ビルクリーニング、農業、漁業、建設、造船・舶用工業など)で、これまで受け入れてこなかった「単純労働者」を迎え入れるものだという。

え? すでにある「技能実習」とどう違うの? と混乱する。

というのも、「技能実習」で問題が発生していると報道されていた事例の中には、農業や水産加工、建設といった「特定技能」と領域がかぶるものが多く、継続的に関心を持っていたわけではないぼくにしてみると、「同じ」に見えてしまったのである。

少しでも関心があって「外国人材」の問題を追っている人には呆れられるかもしれないが、ぼくはこの時点ではとても粗末な認識しか持っていなかった。とにかく「単純労働者」の本格的な受け入れとして、新たに「特定技能」の制度ができて、これからは、以前にまして「外国人材」が日本にやってくるのだろう、という理解だ。

ということは、日本も「移民社会」になっていくのだろうか。たくさん人が来るのだから、自然に考えるとそうなる。

しかし、よくよく調べると、政府は繰り返し「移民政策ではない」と主張しているようだ。多くの外国人に門戸を開きつつ、それが「移民政策ではない」というのはいかなることだろうか。もやもやする。

そんな折、国士舘大学文学部教育学科の鈴木江理子教授に話を聞く機会を得た。鈴木教授は、まさに「日本の移民政策」の研究者として、多くの著作・論考をものしている。また、「移住者と連帯する全国ネットワーク」というNPO法人の副代表理事をつとめ、現場での経験も深い。著作をいくつか読んだところ、まさにぼくが疑問に思っていたことが広く深く考察されており、ぜひお話を伺いたいと思った。

国士舘大学のキャンパスは、東京都世田谷区の行政の中心である区役所のすぐ隣にある。鉄道ファンに人気のある東急世田谷線(いわゆる「軌道線」だが、現在は路面ではなく専用軌道を走る)の世田谷駅から歩くと、区役所の前を通り過ぎて徒歩1分か2分、といったところだろう。

鈴木さんの居室は、1階にアトリウムを持つ今風のビルの上階だ。古くからの住宅や寺社が立ち並ぶ、とても「日本的」とも思える風景を見下ろしつつ、まずは「研修」「技能実習」「留学」「特定技能」といった概念のレベルから、頭がこんがらがっていると正直に伝えた。

「たしかにこの問題はマニアックなんですよ」と鈴木さんは笑いながら応えた。

「この前も私が共同代表をつとめた全国フォーラムにご登壇くださった外国にルーツをもつメインスピーカーの方たちが、『専門家しか語れないのはよくない』と言っていました。『実は、身近なことなのに、ふつうの人が語れないっていうのはよくないし、身近に感じたことを口にできるほうがいいんだ』って言われたのが、すごく頭に残っています。確かに、専門家がちょっとマニアックになりすぎているなって思っていたところです」

というわけで、鈴木さんも「マニアックになりすぎているかも」と思っていたところに、ぼくがちょうど「関心があるが複雑でよくわからない」とやってきたものだから、お互いのニーズがここで一致した。ぼくは、初歩的なところから話を整理していく「大義」を得て、本当に基本的な質問から始めることにした。

まず最初に、「移民ってなんですか」だ。

「特定技能」の制度が導入されるにあたって、様々な議論があった昨年(2018年)、それが「移民政策か否か」が問題になった。外国から労働者を受け入れるというのは、素朴に考えれば「移民の受け入れ」につながっているだろう。しかし、政府の見解は常に「移民政策は取らない」「移民政策ではない」というもので、多くのメディアがその矛盾を報じていた。

では、そもそも「移民」とは何を指すのだろう。

「国連が統計のために使用している移民の定義には、ロングターム(long-term)とショートターム(short-term)があって、ロングタームの場合には、12カ月以上、通常の居住国を離れている人を指しています。でも、これはあくまでも統計を取るためのもので、12カ月以上いたら移民だと言われると、えっ、となりますよね」

たしかに、12カ月以上、よその国に住んだだけで「移民」と言われると、大学留学などで1年以上のコースを取っている人たちなども軒並み「移民」になる。ちょっと違和感がある。しかし、国連の統計だから、「移民の定義」として、よく言及されているものではある。

「ただ、この場合、英語と日本語訳との違いもあると思います。日本語では、『移民』とは別に『移住者』という言葉もありますが、英語では区別しません。1年でも別の国に移動しているなら、それは『移住者』なんだと言えば、日本語として納得しやすいですよね。けれど、『移民』というと、生活の実態がもう少し求められるので、やはり違うような気がすると」

日本語と英語では、「移民」という概念をめぐって、かなり違いがある。

日本語的には、「移民」というと、違う国に行ってそのまま根をおろして定着することを指すように聞こえるが、それよりも定着度が低く、また別の国に移ったり帰国することもありそうな「移住者」も含めて、英語のカテゴリーとしてはimmigrants/emigrantsだ。

「移民というと、1回受け入れたらもう帰ってもらえない人だっていうふうなイメージなんですね。それで、日本の場合、入国時点で必ず在留期間が設定されるので、いつか帰る人として『外国人』と呼ぶ。在留期間を延長していく中で定住化する人たちが出てくるわけなんですが、入る時点では『帰る人』という位置づけなので、多分、『移民』とは呼びたくないんだと思います」

そんな「気分」が、「移民政策ではない」というこだわりの背景にあるのかもしれない。

では、「日本の移民政策」の専門家としての鈴木さんは、「移民」をどう捉えているのだろうか。

「私は、在留資格を『定住型』と『還流型』という2つのグループで捉えています。『定住型』というのは、在留期間の延長が可能で、家族の帯同も認められているような人たちです。一方で、『還流型』、技能実習生が典型ですけど、最長の在留期間が定められていて、単身でしか来られず、家族は母国で形成してくださいっていう場合です。そういった中で、私は『定住型』の人たちを、広義の移民として捉えています。すると、日本に暮らしている外国人の8割以上が移民なんです」

日本で暮らす外国人は2018年末の時点で273万人だそうだから、その8割以上の234万人が、鈴木さんの定義の「移民」に相当する。かなりの数だ。

さらに、こう続ける。

「どこまで入れるかなんですけども、私は、日本国籍を取得した人だって移民だと考えています。そうすると、1952年のサンフランシスコ講和条約の発効以降だと、50万人以上の外国人が日本人になっていますし(すでに亡くなっている人もこの数に含まれていますが)、また、日本人と外国人の両親から生まれた子どもたち、つまり『ダブル(ハーフ)』の子どもたちも日本国籍を持っているので、そこまで含めて考えています。そうすると、この社会には、すでに300万人以上の移民が暮らしていることになります。なぜ移民の範囲を広く捉えているかというと、今この社会に、多様な人たちがいるということを知るのが大事だからです」

なるほど。ぼくは「これから移民が増えるかも」という気持ちで話を聞き始めたわけだが、鈴木さんは「すでに増えている」「すでにたくさんいる」というのだ。

ぼくたちは「日本は単一民族からなる社会だ」というふうに思いがちだ。「単一民族はなんぞや」というツッコミはありつつも、なんとなく均質な人たちに囲まれていると思っている。

しかし、今この時点でも、同じ社会に暮らす人口の数パーセントにあたる人たちが、外国にルーツを持った「移民」だとしたらどうだろう。それはつまり、ぼくたちの社会が実は結構多様だということでもある。

鈴木さんとの対話は、こんなふうに、まずは「実は多様な日本の社会」という部分から始まったのだった。

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2019年8月に公開された記事を転載)

鈴木江理子(すずき えりこ)
1965年、愛知県生まれ。国士舘大学文学部教授。博士(社会学)。NPO法人移住者と連帯するネットワーク(移住連)副代表理事。2008年、一橋大学大学院社会科学研究科社会学博士課程修了後、国士舘大学文学部准教授などを経て2015年より現職。『日本で働く非正規滞在者』(明石書店)で平成21年度沖永賞を受賞したほか、『外国人労働者受け入れを問う』(岩波ブックレット)、『移民受入の国際社会学 選別メカニズムの比較分析』(名古屋大学出版会)、『移民政策のフロンティア 日本の歩みと課題を問い直す』(明石書店)、『移民・外国人と日本社会』(原書房)など共編著書も多数ある。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、ブラインドサッカーを舞台にした「もう一つの銀河のワールドカップ」である『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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